バベルの崩壊
「おっはよー日本! 今日も可愛いね」
踊る会議場で、フランスは朝一番に日本に声をかけた。
勤勉なこの小さな国は時間前に会議場にやってくる。
しかしこの日はいつもと勝手が違った。声をかけられた日本は「おはようございます」とあいさつを返しながら、普段は表情に乏しい顔にはっきりといぶかしさを乗せている。
「どうしたの? ああ、朝からお兄さんの愛のパワーに圧倒されちゃったのかな? ふふーん、君が望むなら、いつだって俺は愛を交わす準備ができているよ」
日本の片手を取ってちゅっと音を立てながら口づけ、もう片方の手で細い腰を抱きながら囁くと、日本の困惑がみるみるうちに深まっていく。
「ええと……」
「おいこらてめえこのヒゲ! 朝っぱらから何やってんだ! さっさとその手を離しやがれ!」
「チッ、うるさいやつが来たな」
後ろから現れたイギリスに、フランスは簡単に機嫌を損ねる。
小さな舌打ちとつぶやきはしっかりと犬猿の仲であるイギリスの耳に届いていた。
「んだとお!? この歩くセクハラ野郎が!」
「上等! 喧嘩だったら今すぐ買ってやろうじゃないの!」
「あの、お二人とも、ちょっと! やめてください!」
慌てて日本が二人の間に割って入る。
三人がもめている間にも、何人かが会議場に入場していたが、イギリスとフランスの小競り合いは日常茶飯事なので誰も気にとめていない。会議が始まる時間になってもうるさければ、ドイツが辺りが怒鳴りつけて黙らせるだろう。
日本は自分よりも身長の高い二人を押しやって隙間をつくると、まずフランスに向きなおった。
「フランスさん、今日はなぜお国の言葉でしゃべられるのでしょう。申し訳ないのですが、私はフランス語には少し疎くて……。いつもの言葉でお願いできませんか」
「は!? えっ、俺、普通に話してるけど?」
日本は困惑をさらに深めて、イギリスに助けを求める。
「イギリスさん、フランスさんのおっしゃってること、訳して下さいませんか」
「はあ? なんだよそりゃ、嫌だね」
「お願いします」
「い・や・だ!」
いつもと様子が違うのを感じ取ったのか、他の者も出入り口に集まってきた。
「何かあったアル?」
「もー君たち邪魔だよ~」
「それが、フランスさんの言葉がわからないんです」
「なんだいそれ! まーたイギリスが何かしたんじゃないの? まあフランスはいつもおかしなことしか言わないけどね!」
「はあ……」
日本は周囲の面々をぐるりと見渡す。
「他の方の言葉は大丈夫なようです。となると、フランスさんの言葉だけフランス語に聞こえてるわけですね。」
「えええー何それ! お兄さんの言葉だけ通じてないの!? ショック!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ始めるフランスを見ながら、日本は「困りましたね」とつぶやいた。
言葉の割にそれほど困っていない顔で、日本は携帯していたタブレット端末を操作してフランスへ「どうぞ」と手渡す。
表示されているのは翻訳サイトである。
「私の言葉は通じていますか?」
「もちろん!」
「ウィ?」
「Oui!」
「通じているようですね。では、何かあるときはこれでおっしゃってください」
「ええええー!」
「おい日本、会議の時はどうするんだ」
確かに、この方法はリアルタイムでのやり取りには向かない。キーボードで入力するにしても、フランスに負担がかかる。
会議になると取り仕切る役目が回ってくるドイツが重いため息をついた。
「通訳を見つけるにも時間がいるだろうし……今日は中止だろう。今回の会議は公正さ重要だからな。いいか日本、フランス、明日には必ず、その原因を突き止めるなり通訳者を見つけるなりしてこい。いいな?」
こうして、ぽっかりと時間が空いたのだった。
踊る会議場で、フランスは朝一番に日本に声をかけた。
勤勉なこの小さな国は時間前に会議場にやってくる。
しかしこの日はいつもと勝手が違った。声をかけられた日本は「おはようございます」とあいさつを返しながら、普段は表情に乏しい顔にはっきりといぶかしさを乗せている。
「どうしたの? ああ、朝からお兄さんの愛のパワーに圧倒されちゃったのかな? ふふーん、君が望むなら、いつだって俺は愛を交わす準備ができているよ」
日本の片手を取ってちゅっと音を立てながら口づけ、もう片方の手で細い腰を抱きながら囁くと、日本の困惑がみるみるうちに深まっていく。
「ええと……」
「おいこらてめえこのヒゲ! 朝っぱらから何やってんだ! さっさとその手を離しやがれ!」
「チッ、うるさいやつが来たな」
後ろから現れたイギリスに、フランスは簡単に機嫌を損ねる。
小さな舌打ちとつぶやきはしっかりと犬猿の仲であるイギリスの耳に届いていた。
「んだとお!? この歩くセクハラ野郎が!」
「上等! 喧嘩だったら今すぐ買ってやろうじゃないの!」
「あの、お二人とも、ちょっと! やめてください!」
慌てて日本が二人の間に割って入る。
三人がもめている間にも、何人かが会議場に入場していたが、イギリスとフランスの小競り合いは日常茶飯事なので誰も気にとめていない。会議が始まる時間になってもうるさければ、ドイツが辺りが怒鳴りつけて黙らせるだろう。
日本は自分よりも身長の高い二人を押しやって隙間をつくると、まずフランスに向きなおった。
「フランスさん、今日はなぜお国の言葉でしゃべられるのでしょう。申し訳ないのですが、私はフランス語には少し疎くて……。いつもの言葉でお願いできませんか」
「は!? えっ、俺、普通に話してるけど?」
日本は困惑をさらに深めて、イギリスに助けを求める。
「イギリスさん、フランスさんのおっしゃってること、訳して下さいませんか」
「はあ? なんだよそりゃ、嫌だね」
「お願いします」
「い・や・だ!」
いつもと様子が違うのを感じ取ったのか、他の者も出入り口に集まってきた。
「何かあったアル?」
「もー君たち邪魔だよ~」
「それが、フランスさんの言葉がわからないんです」
「なんだいそれ! まーたイギリスが何かしたんじゃないの? まあフランスはいつもおかしなことしか言わないけどね!」
「はあ……」
日本は周囲の面々をぐるりと見渡す。
「他の方の言葉は大丈夫なようです。となると、フランスさんの言葉だけフランス語に聞こえてるわけですね。」
「えええー何それ! お兄さんの言葉だけ通じてないの!? ショック!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ始めるフランスを見ながら、日本は「困りましたね」とつぶやいた。
言葉の割にそれほど困っていない顔で、日本は携帯していたタブレット端末を操作してフランスへ「どうぞ」と手渡す。
表示されているのは翻訳サイトである。
「私の言葉は通じていますか?」
「もちろん!」
「ウィ?」
「Oui!」
「通じているようですね。では、何かあるときはこれでおっしゃってください」
「ええええー!」
「おい日本、会議の時はどうするんだ」
確かに、この方法はリアルタイムでのやり取りには向かない。キーボードで入力するにしても、フランスに負担がかかる。
会議になると取り仕切る役目が回ってくるドイツが重いため息をついた。
「通訳を見つけるにも時間がいるだろうし……今日は中止だろう。今回の会議は公正さ重要だからな。いいか日本、フランス、明日には必ず、その原因を突き止めるなり通訳者を見つけるなりしてこい。いいな?」
こうして、ぽっかりと時間が空いたのだった。