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はろ☆どき
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ハナボーロとウメコブチャ

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サインを書きながら次の書類を取ろうとした伸ばした指先に紙の感触はせず、爪が底に当たりカツンと音を立てた。
ふと我に返ったロイが伸ばした手の先を見ると、一番近くに置いてある至急用の決裁箱の書類はなくなっていた。どうやら今サインしたもので最後だったらしい。
ふぅとため息を一つ吐いて、サインを書き終えた書類を決裁済の箱の積み上がる束の一番上に乗せると、ペンを置いて椅子を少し引き背もたれに背中を委ねながら両腕を天井に向かって高く伸ばす。
ごりっと軋む肩を解すように大きく回しながら、壁の時計を見るとちょうど午後の三時になろうかというところだった。
今日は朝から定例の報告会議と中央からの厄介ごとに対応する打合せ、その承認を得るために赴いたついでに付き合わされたグラマンとのチェスの対戦などなど……で、午前中はほぼ自身の執務室で過ごすことなく潰れた。
ようやく身体が空いた隙に早めに軽い昼食を取ったが、後はずっと執務机で書類の確認とサインに勤しんでいたのだ。
今終わったものは本来今日の午前中が締切の大至急の決裁(内容は些末なものばかりではあったが)であって、本日午後一番の至急の書類と本日中のわりと至急の書類はまだまだ机上にうず高く積まれている。
しかし、この辺りで一息ついた方がこの後の確認作業も捗るだろう。どうせこの書類の山具合では残業は確定していることだし。
そう考え、ホークアイへコーヒーを手配してもらうかと内線電話に手を伸ばしかけた。が、すぐに考え直して、気分転換を兼ねてたまには自ら給湯室へ足を運ぼうと立ち上がった、その時だった。
執務室に誰か近づいて来る気配がする。
ホークアイが書類の進捗確認に訪れたのかと思ったが、どうも違う人物のようだ。むしろこの気配はいつでも来訪を心待ちにしている人物のもののようなのだが、それにしては……どうも大人しい気がする。近づいて来る様子が。
しかし、思い描いたとおりの人物であれば扉をノックすることもなく入ってくるだろうと考え、ロイは再び椅子に座り直した。
そうして暫く待ってみたが部屋の前まで来た気配はするのに、扉の向こうの人物が入ってくることはなく、しかしノックも聞こえてこない。
さすがに不審に思ったロイがこちらから扉を開けてみようかと立ち上がりかけたところで、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「大佐ぁ、いる~?」
やはり予想どおりの人物の声だ。自分の後見している金色の日だまりのような少年。そういえば、近々イーストシティに戻ると珍しく連絡があったとホークアイが言っていたと思い出す。
「いるよ。入りたまえ」
ロイがそう促すも扉は開かれず再び声がした。
「ちょっと今手が塞がってんだ。開けてくんねぇ?」
「君ね……」
仮にも上司の部屋を訪ねてきて、こちらに扉を開けさせるとはいい度胸だ。
しかし怒る気にならないもどころか、ほいほい立ち上がって扉の方へ向かってしまう自分がいるのだから仕方ない。誰が見ているわけでもないのにやれやれという体を装い、せめてゆっくりと扉へ近づく。
一拍おいてからがちゃりとドアノブを回し、そして目の前を見下ろした。
果たして予想した位置に金色の頭と見上げてくる金の瞳があった。間違いなくエドワード・エルリック、鋼の錬金術師だ。
「……なんかムカつく」
何かを敏感に察したらしい子供が、本人の申告どおり両手が塞がっていたため身動きできずに、威嚇するように目をつり上げて睨み上げてくる。
そんな顔をされても、大人(敢えて「自分」とは言わないでおく)からしたら小動物が毛を逆立てているように見えるくらいで微笑ましい限りだ。さしずめ両手にトレイを捧げ持つ姿は、木の実を手一杯に持ったリスといったところか。膨らませた尻尾をぴんと立てている様子が目に浮かぶようだ。
……などと考えていたことなどおくびにも出さず、意に介していないふりで両手で持っていたトレイを片手を差し出して受け取り、ドアを背と足で押さえ、空いたもう片方の手で「どうぞ」というように促す。
すると少年は当然のようにトレイを渡して、すたすたと開けられた空間から部屋の中へと入り、勝手知ったる様子でどかっと応接用のソファーに陣取った。

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もしもその様子を他の者が見ていたとしたら――軍人が見ればなんと上下関係が逆転しているものかと仰天し、そうでない者が見てもいわゆる紳士が淑女に対するようだと目を丸くしたに違いない。
実際、目撃してしまったことのある彼らのごく親しい者達は皆、生ぬるい表情になることを抑えられなかった。
「ありゃあ完全にレディーファーストってやつだな……」「大将もナチュラルに受け入れてるよなー」「それ兄さんには絶対言わないでくださいね。当分ここ来るのごねるようになって面倒なんで」というブレダ、ハボック、アルフォンスの発言に、他の者達も至極納得して頷いた。
極めつけに「皆、二人に気づかせちゃ駄目よ。面白いから」というホークアイ女史のさらりと洩らした一言により、本人達が世間一般的に上司と部下、目上と目下、とりわけ男同士で行うやり取りではないと気づくことは、エドワードが青年と呼ばれる年頃になってから幼馴染みの女性に突っ込まれるまでなかったのである。

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