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はろ☆どき
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ハナボーロとウメコブチャ

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そんなことはさておき、ロイは扉を締めるとトレイを持ってエドワードの元へ運ぶ。
トレイにはお茶らしきもの――コーヒーでも紅茶でもない緑がかった色合いだった――の入ったマグカップが二個と、花型のクッキーのような焼き菓子が盛られた少し深い小皿、そしてその菓子が入っていると思われる赤い花びらの模様をあしらった紙包みが乗せられていた。
執事よろしくカップをまず少年の前に置き、テーブルの向かい側に自分のカップを置く。そしてカップの間の少年寄りの方に菓子を盛った小皿を置くと、一旦トレイをローテーブルに置いて、自分もエドワードの向かいに座った。
「これはどうしたんだい? 見慣れない菓子だな。このお茶も」
紙袋を手に取って裏表と回して見ながらロイは尋ねた。
するとエドワードが背もたれに身体を預けてぶらぶらさせていた足を止め、膝に手をついて前のめりな姿勢で説明を始めた。
「今回は東の国境近くの町に行ってたんだけど、そこにシンから来たっていう行商人がいてさ。あっちの珍しい食べ物とかいろいろ卸してたんだ」
「……ほう」
果たしてそれは正規のルートで入国及び商売をしているんだろうか、とロイは考えたが言葉にはせず、後で要チェックだなと頭の隅に刻み込んだ。
「でな、幾つか試してみたんだけど、美味かったやつを土産にと思ってさ」
「それは嬉しいな。君が旅先でも我々のことを思い出してくれるなんて」
ロイは素直にそう思って言ったのだが、エドワードは不満げに返してきた。
「俺だってここの人達には世話になってるって自覚はあるんだぜ。美味いもの見つけたら皆に持ってったら喜ぶかなーくらいは考えるっての」
その配慮は主に弟のアルフォンスが行っていると思えたが、それでも案外律儀なこの子供も土産くらいは自分の意志で選んだのだろうと考えると、ロイの胸はほんのりとした気持ちになった。
「君の心遣いに皆も喜ぶのは間違いないとも」
「うん。さっき渡したら皆さっそく休憩にするって言ってくれて。今、アルがそのお茶入れて配ってると思う」
エドワードは嬉しそうに言うと、また足をぶらぶらとさせた。
その仕草が寛いでくれているようで、なんとも子供らしくて可愛らしい。そんなことを彼に言ったら、烈火のごとく怒ってここから飛び出して行ってしまうだろうから口にしないが。
代わりにロイはマグカップを手に取って中のお茶を覗き見た。
「これは……緑茶というやつなのかな?」
色味からするとハーブティーに見えなくもないが、シンからの輸入品であればあちらの製法によるお茶だろうと見当をつける。
するとエドワードがにかっと笑って言った。
「それさ、旨いから飲んでみ?」
ちょっと小首を傾げて期待に満ちた目でじっと見られたら、日頃の行状からして何か裏があるのではとつい思ってしまいながらもロイには逆らえる道理はなかった。
それでもちょっと恐る恐るカップを顔に近づけ、まずは湯気を吸い込むようにして香りを嗅いでみる。香ばしい緑茶独特の香りに加えて、何かもっとコクのあるような感じがしさらにほんのりと酸味のある香りがした。
「ふむ」
悪い意味で仰天させようとしているものではなさそうだ。
そこでロイはカップを傾けると縁に口を付けちびりと一口啜る。
口の中にほわりと広がるその味は、香りと同じく出汁のようなコクに加えて少々の塩気と酸味――レモンなどの柑橘類とは違う酸っぱさ――があってさっぱりと美味しい飲み物だった。
「ほう! お茶にしては不思議な味だがなかなか旨いな」
ロイが素直に感想をもらすと、見守っていたエドワードは嬉しそうに笑みを深め自らもカップを手に取ってコクリと飲んだ。
「だろ? コンブっていう海で取れる藻類を乾燥して粉末状にしたものとウメっていう木の果実を乾燥して細かくしたものをギョクロって緑茶と合わせたものらしい。クエン酸とかカリウムが豊富で疲労回復にもなるんだってさ」
「なるほど、確かにこの程よい酸味は疲れが取れそうだ。それにスープのような旨味もあるし、小腹が減った時にもよさそうだな」
ロイが気にいった様子でお茶を味わいながら飲み始めたので、エドワードも満足気だった。
「あと、こっちのお菓子はソバボーロって言うんだけど、やっぱりあっちの方で取れるソバって実の粉を使って焼いてるんだってさ。小麦粉のクッキーとかとはちょっと風味が違うんだ」
「どれどれ」
エドワードが勧めるのでロイは小皿に持った花型の焼き菓子を一つ、手で摘まんで口に入れる。カリッと思ったより硬い歯応えがあり、しかし舌触りよくほろほろと口の中で溶けた。甘味も控えめでロイの好みに合った。
「これも美味しいな。小ぶりだしちょっと摘まむのにちょうどいい。形も可愛らしいな」
「そ。これは花型だからハナボーロって言うらしいんだけど、そのかたどった花がウメっていう種類らしい」
「ウメコブチャのウメか?」
「うん、その花の実らしいな」
「ウメ繋がりなのか。それは食べ合わせもよさそうだ。それにしても東国の方は菓子や茶も風流なものだな」
あちらではこういった嗜好品が庶民の間でも手に入り、こうして他国にまで持ち込むほど余裕があるということだろうか。元々シンは古い文化を重んじる向きがあるのは知っていたが、後継ぎ問題で情勢は揉め気味だとも聞いている。
この辺りも要チェックだな、と頭の中のメモに追加を加えると、後はこのおそらく短い間であろう逢瀬(こちらが勝手にそう思っているだけであるが)を存分に楽しむことに決めて頭を切り替える。
「この袋の柄になっているのがウメの花なんだろうかね。桜に似ているような気もするが」
「桜の仲間みたいだぜ。でもこの柄みたいに紅いのとか真っ白いのとかもあるらしい。赤と白って縁起のいい色合わせなんだってさ」
「ほう、いろいろ種類があるんだな」
「そうなんだよ。あと、ウメは桜よりも前の今くらいまだ寒い時期に咲くらしいんだ。ええと、『春告草』とか呼ぶこともあるらしいぜ」
「春の訪れを告げる花か。いい呼び名だな。それは行商人からの情報かい?」
「ああ、気のいいおっちゃんでさ。いろいろ話してくれたんだ。聞いてるついでにお茶とか菓子とか勧められて……」
「商売上手だったんだな」
好奇心のままに話を聞くついでに、ついつい買い物もしてしまったらしい。エドワードのその様子が目に浮かぶようで、ロイはつい笑い声を洩らす。
「や、でもちゃんと選んで買ったんだからな! マルボーロってもっとデカくてふんわりして甘めのもめっちゃ美味しかったんだけど、こっちのがあんた好きそうかなって……あ!」
エドワードは慌てて手で口を抑えて黙り込んでしまったが、今何かとても嬉しい言葉を聞けた気がする。
「私のために選んでくれたのかい? そうかそうか」
「や、や! 司令部で皆が摘まむのにはこっちのがよいかなって! 甘いの苦手な人もいるかもしれないしって!」
ロイの知る限り自分の腹心達は皆甘い物好きだ。一番得意としないのは明らかに自分だった。どう言われても機嫌がよくなる材料にしかならない。
「そうかそうか……。ではお礼に今晩食事でもご馳走させてくれないかね」
「うー……」
「もちろん、皆の代表ということで」
「うー…………シチューか肉がいい」