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Night on the Galactic Railroad

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蠍の火



「クソッ!」
神羅ビルの独房に放り込まれて、ザックスは悪態をついた。酷く乱暴な入れ方をされたので、クラウドがよろけて床に転がっている。床に肩が擦れて擦傷になって血が滲んでいた。それでも彼は一言も喋らない。
「………」
ザックスがガンガンとドアを蹴った。二、三回蹴って、ドアが僅かにへこんだ所を見て、彼は蹴るのを止めた。駄目だ。蹴破れそうも無い。腹は立つが、あまり蹴るとドアが歪んでそれこそ開かなくなるかもしれない。
「クラウド、大丈夫か?」
「……うん」
ザックスが振り向いてクラウドの手を引っ張って立たせた。酷い怪我が無いか検分する。クラウドは痛いとか苦しいとか余り感じないので、無茶は出来るが、気をつけてやらないとあらぬ怪我や何かで知らない間に重症になっていたりする。
「うんじゃないでしょぉ!」
ザックスがクラウドの鼻先に人差し指を当てて言った。クラウドが不思議そうに首をかしげる。
「肩怪我してるじゃん!しかもこれ、脱臼してるし…座れ、ほれ、ポーション飲め。腕出せ」
クラウドが言われた通りに座り込んで、差し出されたポーションを飲んだ。ザックスがクラウドの外れた肩を治す。ボクンと嫌な音がしたが、クラウドは顔色一つ変えなかった。
「よしよし、ほら治った。ったく何時から外れてたんだよ…よーく我慢したな。偉いぞクラウド」
ザックスはクラウドの頭をひと撫ですると、立って壁に寄ってノックした。
「もっしもーし。誰か居ますか?」
『あっザックス!ザックスの声だよティファ!無事だったんだ…』
壁の向こうからエアリスの声がした。どうやらティファも一緒に独房に入れられているらしい。
『ザックスいるの!?他のみんなは…』
ティファの気遣う声がする。ザックスは大丈夫大丈夫、と宥める様に言った。
「俺はクラウドと一緒にいるよ。多分バレットと…あの犬…レッドなんちゃらも別の部屋に閉じ込められてる」
ザックスは反対側の壁に寄って耳をそばだてた。ぼそぼそとしたレッド13の声と、バレットの声が聞こえる。
『じっちゃん…』
『じっちゃん?…へへ、じっちゃんか』
「…無事みたいだな…」
どうやら全員大きな怪我もなく無事らしい。一先ずは良かった。さて、ここから逃げ出す算段をしなければ。
「んんー…」
ザックスは腕組みをして考えた。一番効率がいい方法は、敵の兵士がドアを開けた時鍵を奪う事だ。まあ出来ない事はない。今は真夜中だし、見張りの兵士の気配は一人。此方にやっては来ないだろう。そうと決まれば。
「寝るか」
ザックスはさっさと座っているクラウドに歩み寄って、彼を抱きしめて自分の足の間に座らせた。逃亡中はいつもこうやって寝ていたな、と懐かしい気持ちになる。
誰かがドアの前にやってくれば、眠っていてもソルジャーの鋭敏な感覚で察知できるはずだ。最近は忙しくてゆっくり眠る暇もなかったし、折角時間があるのだから、ここいらで休息しておかなければ。
「クラウド、眠れ」
ザックスは、腕の中のクラウドに向かって優しく言った。クラウドは何も言わずにザックスを見つめている。言う事を聞かない。困った。さっき見た首無しジェノバに気が高ぶっているのだろう。ティファをきっかけにクラウドの感情が表れ始めたのは嬉しいが、今はちょっと厄介だった。
ザックスはクラウドの髪をゆっくり撫ぜながら思案した。子守唄でも歌おうか。何かお話をしてあげれば眠るかもしれない。クラウドのお気に入りのお話。ザックスはゆっくりと語り出した。
「むかし、バルドラの野原に一匹のさそりがおりました、さそりは、小さな虫やなんかを殺していきていました…」
多分クラウドは、このお話の内容は理解していないと、ザックスは思う。この唄う様な語り口が彼を眠りへと誘うのだ。ザックスは続けた。
「するとある日、いたちにみつかり、食べられそうになり、さそりは一生懸命に逃げました…けれども、とうとういたちに押さえられそうになったとき
前にあった井戸に落ちてしまいました…どうしてもはいあがる事ができずに、さそりはおぼれながらおもいました…ああわたしは、いままでいくつのいのちを奪い取ったかしれない
そしてこんどは、私がいたちににとられようとした時、あんなに一生懸命に逃げた…それでとうとうこんなになってしまった…」
クラウドの瞼がとろとろと落ちていく。ザックスはゆっくりとクラウドの体をあやす様に揺さぶりながら語り続けた。
「どうしてわたしはわたしの体を、いたちに黙ってくれてやらなかったのだろう。そしたらいたちも一日いきのびたろうに…
どうかかみさま、わたしの心をごらんください。こんなに虚しくいのちを捨てずに。どうかこの次には、誠にみんなのために、わたしの命をおつかいください…」
クラウドの瞼がすうっと閉じて、小さな寝息を立てはじめた。ザックスは彼の頭に頬を寄せて自分も目を瞑った。
「そしたらいつかさそりは、じぶんの体が真っ赤な美しい火になって、夜の闇をてらしているのをみた…その火がいまでも燃えているのです…」
二人は寄り添いながら、泥の眠りの中に沈んで行った。

「眠ったかクラウド?」
「…危ない。本当に眠る所だった…」
クラウドが目を擦りながらザックスの腕の中から身を起こした。ザックスが名残惜しそうにクラウドの腕を撫ぜた。
「眠っちゃってもいいんだぜ。列車なんかほっといてさ」
「駄目だよ…乗り遅れたら…」
「…お前さあ、別にいいじゃん。もうそんな事」
「何いってんだ…」
クラウドがザックスの腕の中から立ち上がった。ザックスは座ったままクラウドを見上げて、動こうとしない。
「立てよ。列車に戻るんだ」
クラウドがザックスに手を差し伸べた。ザックスが詰まらなそうにクラウドの手を取って立ち上がった。
ザックスの手を握って、クラウドが列車に向かって歩き出した。ザックスはふらふらしていて一向に真面目に歩かない。クラウドはザックスを引きずるようにして列車に乗り込んだ。
機関室から車掌が出てきて、二人に目配せした。クラウドは軽く会釈して、席に着いた。ザックスはだらけてシートに横になっている。寝そべりながらザックスが唄い出した。
「みーんな、のっているんだぁ、このショウ・トレインにーぃ、そしていつかぁかならずであうーぅ」
「何その歌」
「銀河超特急のうたー」
「ふーん」
「…フェスティバルエクスプレスゥーどこまでも走っていくんだよーぉ、毎日僕らみつばちみたいにハッピーでぇー、カーニバル永遠に続くパレードぉー」
ザックスがわざと調子はずれに唄うので、クラウドは可笑しくなって笑った。ザックスもシートに頭をつけて、笑いながらクラウドを見上げていた。
窓の外が明るくなった。全身に雪をはたいた様な光り輝く木々が窓を横切った。遠くから、笛や太鼓の祭り囃子が聞こえてくる。ザックスが唄うのを止めて起き上がった。
「ケンタウルゥー露をー降らせー」
窓枠に両肘をついて、ザックスはやる気がなさそうに木遣りの声を上げる。列車がゆっくりと停止した。窓の直ぐ傍に木が身を乗り出す様に生えていた。
作品名:Night on the Galactic Railroad 作家名:അഗത