Night on the Galactic Railroad
車掌が一礼して、機関部へ消えていった。クラウドは車掌の去って行く後姿をじっと見つめていた。あの車掌と以前何処かで会った事があったろうか?どうも何だか懐かしい様な気がする。
「おい、クラウドちゃん」
ザックスが後ろからクラウドの背中を人差し指で下から上になぞった。クラウドは声を上げて肩を竦めた。鳥肌を立ててザックスを振り返る。
「な、なにすんだ」
「何って、余所見すっからじゃん」
ザックスはぶうたれてクラウドのお腹の辺りを人差し指でくるくる突っついている。クラウドは、止めろよと笑いながらザックスの指を退けた。
「行くぞ」
クラウドが乗車口のタラップに足をかけて列車の中に入った。ザックスもしぶしぶ後を追った。
二人が乗り込むのと殆ど同時に、列車はゆっくりと進みはじめた。やがて鉄の車輪を回して、列車が銀河へ滑り出して行く。
クラウドとザックスは、座席に座ってそれを見ていた。先ほどまでの暖かい風景を押し戻して、硬質な宇宙の闇がビロードの様に広がっていく。
ザックスは頭の後ろに手を回して、窓の外を見ながら足をぶらぶらさせている。二人とも何も喋らないので、辺りはしんとして静かだった。でも嫌な沈黙ではない。
ザックスのぶらぶらさせた足が、揺れる振り子の様にだんだん近づいて来て、クラウドの腿に当たった。片足で足を掬い上げられて、クラウドが笑った。ザックスもにやにや笑っている。
「よせよ」
「やだ~」
「んっとに…子供かよ。えいっ」
クラウドは自分も片足を上げてザックスの脚を掬い上げた。他愛も無いじゃれあいの応酬が続いて、どちらとも無く笑い声が上がる。列車の中を二人の笑い声が木霊して行った。
ぷつりとスピーカーの入る音がする。クラウドが顔を上げると、何処からとも無くアナウンスの声が聞こえてきた。
《小さな停車場、小さな停車場です》
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作品名:Night on the Galactic Railroad 作家名:അഗത