コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ
コンビニ店員の俺と本田さん。
俺はとある閑静な住宅街にあるコンビニのバイト店員だ。昼間は学校があるので、夜にシフトに入ることが多い。まあ、深夜ともなれば客もまばらで殆ど暇で、品出ししたり、足りないものの発注を掛け、弁当やおにぎりなどの日配品を出したりなどの仕事が主で、それも慣れれば直ぐに終わり、客も雑誌を立ち読みするもう顔見知りな常連以外はいないし、暇で眠くなる。欠伸を噛み殺し、テストも近いのでポケットに忍ばせた単語帳を捲ってみたりする。…このバイトも飽きっぽい俺にしては、三年と長く続いている。それは、何でかと言うと、
「いらっしゃいませ」
チャイムの音にお決まりの声を掛ければ、小柄な年齢不詳の普段は着物、たまによれよれの着古したジャージでウチに来るお得意様、名前は本田と言うらしい(俺はこっそり、本田さんと呼んでいる)。…今日はジャンプの発売日だ。本田さんは俺が休みの日を除いて週に六日は顔を合わせる常連さんだ。
「こんばんわ。寒いですね」
「こんばんわ。そうですね。おでんが美味いですよ。今なら、全品80円です。後、肉まんも20円引き中です」
「おでん、肉まんですか…。いいですねぇ。でも、朝ごはんまで後ちょっとですしねぇ」
店内の時計はまだ五時を回ったばかり…。本田さんはそう言うと平積みされたジャンプを一冊手に取り、レジに来る。それから迷うようにおでんの鍋を覗き、誘惑に負けたのか、
「大根とたまごをひとつづつ。ちくわを二つで」
と、注文が入る。
「はい。有難うございます。からしはお付けしますか?」
「お願いします」
「つゆはいつも通りでいいですか?」
「はい」
にっこりと本田さんが笑う。プラスチックの器に注文された品物を入れて、つゆをたっぷりと注ぐ。ふたをきっちり閉めて、それぞれ袋に入れる。
「全部で560円になります」
きっちりと小銭を数えて出してくるこの本田さんのたまに一緒に来る御友人達がそれはもうバラエティに富んだ人々ばかりで面白いのだが、今日はおひとりらしい。外国人なんか学校のALTしか今まで見たことがなかったのだが、このバイトを始めてから各国のイメージそのまんまな人たちが本田さんとウチにご来店した。玩具つきの菓子を見て「可愛いある!」と大はしゃぎする中国人に、デザートコーナーで季節限定品スイーツに何やら感銘を受けるフランス人、午後の紅茶のレモンティーに「邪道だ!」と文句を言いつつ結局購入していくイギリス人に、棚にあったハンバーガー全部とコーラの1.5リットルペットを嬉しそうにカゴに突っ込んだアメリカ人、俺がひそかに気にかけていたバイトの女の子をいきなり口説き始めたイタリア人に「フェリシーアノ!」と怒鳴っていたムキムキはドイツ人に違いない。彼はカゴにスーパードライと黒ラベルをみっしりと詰めて持ってきた。その愉快な友人たちと本田さんとの掛け合いが面白くて仕方がないのだ。
「560円丁度、お預かりします。…レシートになります。ありがとうございました」
「ありがとうございます。…寒いですが、風邪を引かないように頑張ってくださいね」
「はい。ありがとうございます。お客様も気をつけて」
にこりと笑って、優しい言葉をかけてくれる本田さんが俺は好きだ。本田さんが出て行くのを俺はにこにこと見送る。
「…残念、今日は一緒じゃなかったのか…」
本田さんとウチに頻繁に来るのはアメリカ人のハンバーガー君(と、呼ぶことにした)と、何人なのか…ドイツ語喋ったからドイツ語圏のひとには間違いないんだろうけど、銀髪に赤い目のうさぎさんだ。どっちともとても気さくでいい人たちだ。うさぎさんが来たならば、今度こそお国を聞こうと思っていたのだが…。
「…次、来ないかなぁ」
wktkしながら、本田さんとうさぎさんの来店を俺は待っているのだった。
作品名:コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ 作家名:冬故