コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ
うさぎさんのおつかい。
うさぎさんは、背が高い。多分、180センチ近く。俺と視点が10センチは違う。痩せてるけど、付くところにはしっかり筋肉ついてるなって感じで、男の俺から見ても何と言うか羨ましい体型をしてる。主に店に来るのは本田さんにくっついて日付が変わった頃か、早朝に来店する。たまたま、早出のOLさんや早朝に部活のある女子高生の視線を奪うくらいうさぎさんは(黙ってれば)超イケメン。いつも頭の上に黄色いふわふわの小鳥を乗っけてるのが俺は気になって仕方がない。おまけに銀髪赤目って、どこの漫画の登場人物だよな外見なのに、3分でイメージが崩れる。外見とは裏腹に何故かがっかりするほど子どもっぽい。きょろきょろと落ち着きがないし、本田さんの髪を引っ張ってみたり、着物の袖を引いてみたり、こっそり本田さんのカゴにアイスを突っ込んだり、スーパーで時々見かける子どもそのものだ。先日は本田さんの買い物に付いて来て、目に付いた駄菓子をねだって、ぴしゃりと駄目だと言われたときのうさぎさんは叱られた子どもみたいな顔をしてた。しょんぼりするうさぎさんを可哀想に思ったのか、本田さんが「一個だけですよ」って言ったときのうさぎさんのぱっと明るくなった顔はまんま子どもで。うまい棒握り締めて、嬉しそうにしてるのを見るとがっかりを通り越して、微笑ましい気持ちになってくるから不思議だ。…そんなうさぎさんが、本日はひとりでウチの店へとやって来た。
「いらっしゃいませ」
声を掛けると、うさぎさんは一瞬、驚いた顔をして俺を見て、慣れない感じにぴょこっと頭を下げると雑誌のコーナーに歩いていく。デニムのポケットから何やらメモを取り出し、うーんと眉を寄せる。その横顔が誰かに似ているなと思いながら、それが誰だった思い出そうと脳内の引き出しを漁っていると、視線に気付いたかうさぎさんが顔を上げ、俺とがっちり視線が合ってしまった。うわ、どうしよう…焦る俺にうさぎさんは接近してきた。
「あー、えーっと…」
うさぎさんは一瞬、逡巡するように眉を寄せる。それに俺は「なんでしょうか?」と口を開く。幸いなことに本田さんの知り合いは日本語が話せる。うさぎさんも本田さんとは日本語でやりとりし、日本語に該当する言葉が思い浮かばない時はドイツ語でやり取りしている。…どうして、ドイツ語で話してるのが解ったかって?…あんなガチガチに堅い言語はドイツ語しかない。無駄に言葉が中二病ぽくって格好いいし。ボールペン→クーゲルシュライバーとか。初めて聞いたとき、RPGの聖剣の名前かと俺は思った。
「…菊に、ジャンプ買ってきてくれって頼まれたんだけどよ、どれだか解んねぇんだ」
「ジャンプですか」
「うん」
こくんとうさぎさんが頷く。これって、はじめてのおつかいとか言うヤツですか?
「これだと思いますよ」
先、俺が平積みしたジャンプを一冊差し出すと、うさぎさんは受け取りじっと表紙を見やり、表紙にあるタイトルを小さく発音した。
「…じ、や、ん、ぷ」
小文字の「ゃ」が思い切り大文字の「や」だよ。…ってか、笑うより、可愛いと思ってしっまった。
「これだ。忍者の漫画が載ってるやつだよな?」
何だか嬉しそうな顔でうさぎさんが聞いてくる。
「そうですよ」
「Ich bin gut!」
俺が答えるとうさぎさんの口からドイツ語が飛び出すが、意味が解らないが多分、「よし!」とか「やった!」とか言う意味だろう。
「Danke!」
これはドイツ語解らない俺でも解る「ありがとう」だ。それに俺は「どういたしまして」と返すとレジに戻る。うさぎさんはジャンプを小脇に抱え、にこにこしながらデザートのコーナーへと移動し、そこで動かなくなった。真剣な顔をして、デザートを睨んでいる。うーんと迷うような顔をして、ばっと俺を振り返った。
「お前のおすすめ、何だ?」
「おすすめ…プレミアムあまおうのロールケーキ?…先、休憩時間に食べたんですが、生クリームの甘さは控えめでいちごの甘みと生地煮練り込まれたいちごのピューレの酸味がなかなかイケてましたよ」
「じゃあ、お前の言うのにする」
うさぎさん、本当にそれでいいのか。ザッハトルテを熱心にご覧になっていたようでしたが…。うさぎさんはロールケーキをふたつとジャンプをレジへと持ってきた。
「ありがとうございます。…お会計660円になります。スプーンはお付けしますか」
「いらない。袋もいい。これに入れてくれるか?」
うさぎさんはデニムのポケットから小さく折りたたんだエコバックを取り出した。
「ありがとうございます」
その袋は布製で何故か端っこにうさぎのアップリケがしてあった。…何、コレ、可愛いんですけど!!…心の中で叫びつつ、俺はそのエコバックにジャンプとロールケーキを入れた。
「…えーと、五百円玉と…」
うさぎさんはセーターの襟元を引っ張って、首から提げていたらしいお財布を引っ張る出てきたその財布の形に萌過ぎて、一瞬、死ぬかと思いました。って、言うか、叫びたい。
(何で、アンタ、マイメロ(赤いずきんの子うさぎちゃん)の顔のがまぶち財布下げてるんすかー!!)
色んなものを堪えつつ、俺は顔が引き攣りそうになっていたが冷静を装う。可愛いお財布からカウンターに小銭を並べ、ちらっと俺を上目遣いにうさぎさんは「あってる?」と言うように俺を見てきた。
「丁度、お預かりします」
俺がそう言うとほっとしたように赤い目が笑った。レシートを渡し、「ありがとうございました」と言葉を添える。それに、うさぎさんは「ダンケ」と言い掛けて、何故か片言な日本語で、
「ア、リガト」
と、にっこり笑って店を出て行かれました。…ちょっと、心臓にきました。あんな言動の可愛い外人さん(男、しかもちょいムキ)にときめくとか、なんなの?
本田さんのお友達は、某スレのネタにしてやりたいくらいに和むひとたちばかりです。
作品名:コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ 作家名:冬故