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コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ

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大人三人なのにひとり子どもが混じってます。うさぎさん、姉ちゃんとこの子どもみたいなこと言ってるし。
「どうぞ」
ばあちゃんの音楽室のドアを開くと、ばあちゃんが丁度、お茶を淹れ終えたところだった。
「Willkommen zu langem Weg, mein Heim.Entspannen Sie sich bitte(遠路、遥々、我が家へようこそ。ゆっくりして行ってくださいね)」
ばあちゃんは何やら、俺には解らない言葉(多分、ドイツ語)でそう挨拶し、三人もそれぞれ挨拶を返すのをぽかんと俺は見ていた。ばあちゃんはにこやかに笑うと俺に「久蔵さんを呼んでくるわね」と部屋を出て行った。ばあちゃんの流暢なドイツ語に感心したように、ムキムキさんが口を開いた。
「随分と流暢なドイツ語だったな」
「ええ。とても品のある方ですね」
「若い頃は美人だったんだろうな。後、五十年早く会いたかったぜ」
俺は最後のうさぎさんの言葉にコメントしようもないと言うか、確かに若い頃のばあちゃんは美人だけど。でも、ばあちゃんがドイツ語喋れるなんて知らなかった。家族の新たな一面に驚いていると、貴族さんが口を開いた。
「こちらのピアノはキュウゾーが調律したものですか?」
「ばあちゃんのピアノはじいちゃんが調律してますから。…弾いてみますか?」
「いいのですか?」
天井から陽光が差し込み、照らす真下にはグランドピアノがある。このピアノはばあちゃんが子どものころからあるピアノであの大空襲の難をも逃れ、じいちゃんとばあちゃんが出会うきっかけにもなった思い出のピアノだ。貴族さんは蓋の閉められたピアノに目を細め、息を吐いた。
「…ウチのメーカー、ベーゼンドルファーですね。インペリアル…状態は…」
蓋を開け、手袋を外した貴族さんが鍵盤を叩く。澄んだ音色が響くのに、感極まったように貴族さんの指先は鍵盤を叩き始めた。まるまる、短い曲を弾き終え、ほうっと息を吐く。
「ああ、確かにキュウゾーの調律したピアノです。この音は彼にしか出せない」
貴族さんは感嘆と共にもう一曲短い曲を弾く。曲が終わり、ぱちぱちと拍手の音に振り返れば、じいちゃんが立っていて、懐かしそうに目を細めた。
「懐かしい音色だと思ったら、やはり、ローデさん、あなたでしたか。お元気そうで。ご無沙汰しております」
「ご無沙汰どころではないですよ!何故、連絡してこないのです!…本当に、心配していたのですよ!」
「申し訳ない。…色々と私の方もゴタゴタとしておりまして。…でも、また、生きてお目にかかれるとは思ってもいませんでしたよ」
貴族さんがじいちゃんをぎゅうっとハグする。じいちゃんは貴族さんの背中を抱き締め返すと、苦笑した。
「…まったくです。あなたがいなくなっってから、私の理想の音は遠くに逝ってしまった。その理想の音をまた奏でることが出来る。こんなに嬉しいことはありません」
「大袈裟ですな。私よりもあなたの意に沿った調律を出来るものはおるでしょうに」
「何を言ってんだ。坊ちゃんのどうでもいいような我儘をちゃんと訊いて、根気強くチューニングに付き合ってた調律師はお前ぐらいだったぜ。他のは根を上げて皆、逃げちまった」
「ああ。あの根気強さには本当に敬服する。フェリシアーノに見習わせたいくらいだ」
「ギルさんも、ルートさんもご健在で何よりです。まさか、孫からあなた方の話を耳にするとは思ってもいませんでしたよ」
貴族さんから解放されたじいちゃんはムキムキさんとうさぎさんのハグを受けて、笑う。…知り合いらしい。…でも、何か色々、おかしくない?おかしいのは俺の頭なのかな?戦時中の知り合いなら、年齢が全然合わないんだけど。
「…あの、」
「何だ?」
「じいちゃんとどういったお知り合い何ですか?」
俺は空気読めよ!と思いつつ、好奇心に勝てずに口を開いた。
「ピアニストと調律師とピアニストのその親戚だ」
簡潔な回答を有難う。…って、そうじゃなくって!
「知り合いにしては、年齢が合わない気がするんですが…」
異様に若作りなオチか。それにしたって、無理がある。
「…あー、そういや、知らないのか」
「普通はそうでしょう」
「そうだな。中々、他国の国民と仲良くなると言うのも俺たちにしては稀であるし」
頭の中は「?」だらけ。俺は助けを求めるようにじいちゃんを見やった。
「何だ?…てっきり知ってて、お連れしたのかと思っていたが」
じいちゃんの言葉にますます「?」が増えていく。
「知ったときには私も驚いたものだが…。この世界にはその国を象徴、具現化した国家(ひと)が存在するんだ。それで、紹介するとこちらが「オーストリア」さん、「ドイツ」さん、今は国はないけれど「ドイツ」さんのお兄さん「プロイセン」さんだ」
貴族さんが「オーストリア」さん、ムキムキさんが「ドイツ」さんで、うさぎさんが「プロイセン」さん?…プロイセンって世界史でならった今はない国じゃなかったけ?

「え!?」

世界が、色んなものが逆流する。

「うええええ!?」

俺の疑問符が音楽室にこだました。







「…落ち着きましたか?」

脳みそが情報処理を放棄し、暫く、呆然としていた俺をムキムキさんが椅子に座らせてくれた。リアルに脳みそパーンってなることあるんだな。すっかり冷めてしまった紅茶を飲んで、我に帰って、俺は「ハッ」となる。この三人が「国」の「具現化」で「国家」そのものならば、もしかしたら、…本田さんや眉毛さんや、ハンバーガー君とかも「国家」?

「顔色が急に悪くなってきたな。大丈夫か?」
「脳みそ、混乱してんだろ。…まあ、甘いもん食って落ち着け。ルッツ、坊ちゃんのトルテ出せ」

俺は何か知らない間に無礼なことをしてしまったりしてたんじゃないだろうか?…国際問題に発展したら責任取れねぇよ!と、赤くなったり青くなったり。そんな俺の口元にずいっと茶色い塊が。

「口、開けろ。あーん」

言われるがままに反射的に口を開く。チョコレートの濃厚な甘さが舌を刺激する。それと同時に脳も正常に戻る。

「…美味しい」

「だろ。認めたくねぇが、コイツの作るトルテは美味ぇんだよ」
「あなたに認めて頂かずとも結構ですが。…お口に合って良かったです。さあ、残りもお食べなさい」
勧められるがまま、うさぎさんからフォークを受け取って、一口分崩されたザッハトルテを頬張る。…確かにこの味を知ってしまったら、コンビニで売ってるザッハトルテを買うのは躊躇するぐらいに美味しい。
「懐かしいですな。また、この味を味わえるとは」
俺の隣でじいちゃんもザッハトルテに舌鼓を打っていた。
「こんなものでよければ、いつでも作りますよ。それよりも、キュウゾーにお話があります」
貴族さんは居住まいを正すと、じいちゃんを真っ直ぐに見つめた。
「高齢であることは承知しているのですが、仕事を頼みたいのです」
じいちゃんはその視線を受けて、皿をテーブルへと戻した。
「仕事、ですか」
「はい。来月になりますが、こちらでベルリンフィルの演奏会があります。それにピアニストとして参加することになりました。会場のピアノの調律をあなたに頼みたいのです」
じいちゃんは貴族さんの言葉に眉を寄せた。