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コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ

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「…近頃はめっきり、年の所為か耳も悪くなりましてな。…あなたの望むようなチューニングが出来るか…。自信がない」
弱気なじいちゃんの言葉に貴族さんはだんとテーブルに手を付いた。
「出来ますとも!このピアノ、キュウゾー、あなたの調律でしょう。私の望む音がここにある。…一度だけで良いのです。あなたのチューニングしたピアノをもう一度、私に弾かせてください。その音をこの国の人々に聴かせたいのです。…戦後、絶望の中にあってあなたのチューニングしたピアノの音色だけが私と私の国民の慰めだった。それをあなたに返したいのです!」
貴族さんの熱意にじいちゃんは困った顔をした。それにうさぎさんが口を開いた。
「俺はホント、音楽には無知だが、確かに音色が違うんだよ。どんだけ、坊ちゃんが弾いてもヘタらないのがキュウゾーの調律だ。他のは何て言うか、違うんだよな。もう一度、聴きたいぜ。キュウゾーの調律したピアノを坊ちゃんが歌わせるのをよ」
「俺ももう一度聴きたいと思っている。無理をさせるとは解ってはいるのだが…」
ムキムキさんが眉を下げて言う。それを黙って訊いていたじいちゃんをじっと六つの目が見つめる。じいちゃんは溜息を一つ吐いた。

「…そこまで言われては引き受けざる得ませんな。…精一杯、努めさせていただきますよ」

熱意に押されて漏れたじいちゃんの言葉に、貴族さんは感極まったように立ち上がった。

「この喜びを今から、ピアノで表現します。心してお聴きなさい!」

ピアノの前に座った貴族さんが嬉々として、鍵盤を叩く。音楽室にうっとりするようなきれいな音色が満ちる。じいちゃんの調律したピアノはまさに「歌う」ような音色だ。貴族さんの技巧も凄くて、耳が至福だ。
「…これは何とも贅沢な時間ですなぁ」
「そうだな。…懐かしい。兄さんのフルートもあれば、いいんだが」
「ですな。あの演奏会は楽しかった」
「じゃあ、次、こっち来たとき聴かせてやるよ。…あー、でも長いこと弄ってねぇから、期待はすんなよ?」
「楽しみにしておりますよ」

何だか、見えない時間の流れと親密さを感じる。俺はじいちゃんがちょっと羨ましくなった。

 それから、ちょっとした演奏会になったのだが、漏れたピアノの音色を聴いた耳の肥えた近所の人々や帰ってきた親父に兄ちゃん、母さん、ばあちゃんと音楽室はいつの間にかコンサートホール状態。「ブラボー!」の声と拍手に気を良くした貴族さんが弾くわ弾くわ…。ピアノ演奏会は夕方まで続き、その後は飲めや歌えやの大宴会になったのは言うまでもなかったのだった…。