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コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ

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本田さんの言葉に他の参拝客も聞き入っている。お願いじゃなくて、誓いを立てるって初めて訊いたけれど、毎度神様にお願いで他力本願は良くないよな。…俺も皆に倣って、財布から小銭を取り出し、姿勢を正し、奉納する。鈴を振り、もう一度姿勢を正して、二度、拝礼する。隣の本田さんは慣れているのか、所作が美しい。他の皆もぎこちないながらも本田さんに倣う。柏手を二回。…さて、俺は何を誓おう?
(今年も皆と仲良く、馬鹿騒ぎが出来ますように)
誓いと言われたが、やっぱりお願いになってしまう。ちらりと他の面々を伺うと真剣な顔をして、誓いを立てていた。一礼して、後ろの参拝客に前を譲って、恒例のおみくじを引く。俺は中吉だった。全般的に好調な一年らしい。新たな出会いが期待できると書いてある。他の面々は本田さん、ムキムキさんが吉。ハンバーガー君が大吉、髭さんと親分さんが中吉、眉毛さんとうさぎさんが末吉だった。
「…まあまあですねぇ」
「余り、高望みしても仕方がないししな。日々の平凡が一番だ」
「ですよね」
「新たな出会い有りか。可愛い女の子と知り合いになれれば、いいんだけどねぇ」
「金運イマイチやんなぁ。節約せい書いてあるけど、どこを節約すればええんやろなぁ」
「末吉かよー。チェチェー」
「凶じゃなくて良かったじゃないですか。それに結構、イイ事書いてありますよ」
「そうだよな。前向きにいかねぇとな」
「ですよ」
「HAHAHAHAHAHA!俺は今年も絶好調なんだぞ!…で、これはどうすればいいんだい?」
ハンバーガー君が首を傾けた。
「くじは持ち帰って、自分の戒めへとしてもいいですし、結び所に納めて、さらなる御加護をお願いしても良いですよ」
「ふぅん。日本の神様は親切だな。結んで来るか」
皆で結び所に移動し、おみくじを結わえると、「よし!」とハンバーガー君がうさぎさんを振り返った。
「ギル、勝負だ!」
「ハン!返り討ちにしてくれるわ!」
羊羹サバゲーの一件以来、ハンバーガー君はゲームでうさぎさんに負けたのが余程悔しかったのか、うさぎさんに何かと勝負を挑むようになったらしい。それを除いても、うさぎさんとハンバーガー君は気が合うようで、何かとつるんでは遊び回っているようだ。
「…仲、いいですね。あのふたり…」
「…だな。兄さんも年長者らしく、アルフレッドを諌める側に回ってくれればいいんだが、一緒になって馬鹿を率先してやるから、困る」
溜息混じりにムキムキさんが言う。
「根っこは似たもの同士だから、仕方ないんじゃない?…ってか、アーサー、涙目になってるけど。…羨ま悔しいの?」
「な!? 別に羨ましくも悔しくもないわ!ギルベルトになりたいなんて、思ってないんだからな!」
思い切り眉毛さんが否定するが、否定になってないし。
「…思っとるんやん」
チュロスを食い終えたのか、サーターアンダギーを貪り食ってる親分さんがぼそりと言う。それに眉毛さんが涙目になる。…あー、どうしたもんかと思って、口を挟もうかどうか迷っていると、射的の屋台から歓声が上がった。
「逸れても困りますし、ここでは他の方の邪魔になりますから、移動しましょうか」
「そうだな。兄さんが何か、問題を起こしてないか心配だ。行こう」
ムキムキさんの一言で射的のある屋台へと移動する。射的の屋台の周囲はちょっとした人だかりが出来ている。ライフルを模したコルク栓式空気銃を構え、次々と的をふたりは当てていた。それに屋台のおっちゃんは青い顔になっていた。
「お、ヴェスト、お前、何か、欲しい景品あっか?」
野次馬の中を割って入る。俺らに気づいたうさぎさんがムキムキさんに気づいて、構えを解いて振り返った。
「…あ、いや。俺は別に…」
そう言葉を濁しつつも、一瞬、ムキムキさんの視点が特賞のデカいリラックマのぬいぐるみに止まったのを俺は見逃さなかった。それはうさぎさんも同じだったらしく、ニヨリと笑い、リラックマのぬいぐるみへと狙いを定め、引き金を引いた。…パンっと軽い音と共にコルクがリラックマの眉間に命中し、落下する。それに「おおーっ!」と野次馬から歓声が上がった。
「持ってけ、兄ちゃん!クソ、やるじゃねぇか!」
ヤケクソ気味におっちゃんがリラックマのぬいぐるみをうさぎさんに差し出す。それを受け取り、うさぎさんはニッと笑った。
「おっちゃん、アリガトな。楽しかったぜ。欲しいの、コレだけだから、他の景品は返すな!」
台の上に積み上げられた景品を一瞥し、うさぎさんが言う。おっちゃんはその言葉に感激のあまり涙ぐんでいる。うさぎさん、マジ、カッケー!!その横では菓子大袋を大量ゲットしたハンバーガー君が御機嫌だ。…ってか、戦利品、菓子ばっかじゃねぇか、ハンバーガー君…。

「ん、やる。お兄様からのオトシダマだぜ!」
「…あー、うん。ありがとう」

ムキムキさんが恥ずかしそうにリラックマのぬいぐるみを受け取る。それを満足そうに見やり、うさぎさんも御機嫌だ。その横で本田さんのデジカメがパシャパシャと忙しい。
「年始早々、爺を萌え殺す気ですか!ウハwwwたまらんwwwww」
…本田さん、実に楽しそうだ。

「…アーサー」
「何だよ?」

菓子を両手いっぱい抱えたハンバーガー君が眉毛さんに何かをずいっと差し出す。それに驚いたような顔をして、眉毛さんが緑色の瞳を瞬いた。
「これ、あげるよ。君、こういうの好きだろ?」
ハンバーガー君が眉毛さんに差し出したのは、可愛らしいうさぎのぬいぐるみ。それを挙動不審気味に受け取り、眉毛さんは瞳を潤ませた。
「…べ、別に欲しくないけど、も、もらっといてやる!」
何で、素直に「ありがとう」と言えないんだ、眉毛さん。でも、ぎゅうっとして、何か嬉しそうだ。
「こっちもこっちで、萌!…いやぁ、早起き、いえ、徹夜した甲斐がありましたねぇ」
…俺は、本田さんが実に楽しそうで、何よりだよ。



 お守りを扱ってる授与所に戻って、本田さんが皆にお守りを買ってくれた。お金を渡そうとしたら、
「お守りは人から頂くのが、更なるご縁を多幸を願う意味でいいそうです。私からの気持ちです。受け取ってください」
と断られてしまった。
「なら、菊の分は俺らが買ってやるよ。皆、異存はねぇな?」
うさぎさんが口を開く。それに皆が頷いて、うさぎさんが皆から回収してお金を受け取り、授与所でお守りを購入してきて、本田さんに手渡した。
「…有難ございます。何か、凄くご利益ありそうですねぇ」
「当たり前じゃん!」
紙袋から、本田さんがお守りを嬉しそうに取り出し、一瞬、困ったように表情を凍らせた。手元を失礼とは思ったが覗きこむ。

(…安産御守…)

これは言葉を失う。…漢字、読めなかったんだろうな…うさぎさん。一緒に付いて行けば良かった。
「…皆さんの想いが篭った御守、爺、大事に致しますね」
本田さんは大人だった。何事もなかったかのようににっこりと笑って、御守を懐に仕舞った。