黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 16
三人は顔をしかめ、苦痛に喘ぎながら、ジャスミンの炎を消すべくエナジーを出し続けた。
「くっ……! だっ、ダメ……!」
「押し……、返されて……!」
「ち、ちきしょう!」
ジャスミンの炎は、エナジスト三人掛かりの風も、押し切ってしまった。勢い余って三人は後方へ吹き飛んだ。
「きゃあっ!」
「うっ!」
「あいて!」
三人は尻餅を付き、うらめしそうにジャスミンの炎を睨んだ。
「いてて……、ちきしょう。オレ達でもだめか……!?」
仲間達がジャスミンを救うべく様々な策を弄する間も、ジャスミンは己が炎に焼かれ始めていた。
服のあちこちが焼け焦げてきた。ジャスミンの身まで燃え始めるのも時間の問題だった。
「まずいぞ、このままじゃ、ジャスミンが!」
ロビンはどうすることもできない自分に、苛立ちを覚えながら、歯噛みをした。
「……こうなれば、少々荒療治ですが……!」
イリスは虹色の翼を広げ、自身も炎を纏った。
「イリス、どうするつもりだ!?」
ロビンは叫んだ。
「私の力でジャスミンに体当たりします、私の力の方が、きっとジャスミンより強い……!」
「イリス……」
万策つきた今、考えられる方法はもうそれしか残っていなかった。
「行きます!」
イリスが、ジャスミンへ強く当たるべく、勢いをつけ始めた、その時。
「はああああ……!」
ガルシアが大声を上げた。ロビンが彼を見ると、ガルシアはエナジーを身にまとっていた。
「今助けるぞ、ジャスミン!」
ガルシアはジャスミンへ向かって駆けだしてしまった。
「ガルシア!」
全員の声が重なり合った。
「はあああ……!」
ガルシアは力の限り拳を振りかぶり、ジャスミンを覆う炎を殴りつけた。
エナジーに覆われているとはいえ、ほとんど生身で炎に触れているようなものである。ガルシアの拳の皮のグローブは、異臭を放って焼けてしまった。
「ぐうう……、この程度の痛み、ジャスミンの苦しみに比べれば……!」
ガルシアは歯を食いしばり、もう片方の拳も振るった。こちらのグローブも燃え尽きた。
「よせ、ガルシア! 全身火傷じゃ済まないぞ!」
ロビンは叫んだが、ガルシアの耳には届いていなかった。妹を救うことに、頭がいっぱいだったのだ。
「この……」
ガルシアは指先が火傷で真っ赤になっているのには目もくれず、炎に指を突き立てた。
「……うああああ、だぁ……!」
大きく腕を広げた。
「何っ!?」
「炎を、切り裂いただと!?」
ロビンとシンは目を見開いた。
これまでどんな事をしても破れなかった炎の結界が、ガルシアの手によって真っ二つに割れた。
「ぐお……、ジャス、ミン……!」
ガルシアの両腕はもう、綺麗なところを探す方が難しいほど焼け爛れていた。
そのような状態になっても、ガルシアはジャスミン目掛けて駆けた。
そして、苦しむジャスミンを抱きしめた。ジャスミン自体が高熱の炎を放っており、抱きしめた瞬間ガルシアの衣服は一瞬にして灰となった。
当然、ガルシアの肉体も熱にさらされた。
「がああああ……!」
ガルシアの悲鳴が辺りに響く。
「大変です! あれ以上熱傷を負ったら、皮膚呼吸ができなくなりますわ!」
「何だって、メアリィ。くそ、もうやめろ! ガルシア、死んでしまうぞ!?」
ガルシアは己が身を省みず、抱きしめたジャスミンをそのまま押し倒した。
ジャスミンは抑え込まれ、暴れる。
「ジャスミン! 苦しみが、無くなるまで……、くっ! 俺の、身を、焼け……!」
ガルシアはジャスミンの首を絞める様に抱えた。絞め落とそうというつもりだった。
「んー、んー!」
呼吸を止められ、ジャスミンの手は虚空に暴れた。
ガルシアの首絞めは、しっかり効いており、すぐに暴れるジャスミンの動きが止まった。
ジャスミンの手が地に落ちた瞬間、纏っていた炎も消え去った。
ジャスミンが気絶したのを確認すると、ガルシアはすぐに絞めを解いた。
しばらく過呼吸になったジャスミンであったが、すぐに呼吸は落ち着いた。
ガルシアは震えながらどうにか立ち上がり、ロビン達を向いた。
「……後は、たの……む……」
ガルシアは膝を付き、倒れ込んだ。裸になった上半身は目を覆いたくなるほど、焼け爛れていた。
「ガルシア!」
ロビン達はすぐに駆け寄った。
「何これ、酷い火傷……!」
「すぐに冷却しなければ、ピカード、有りっ丈のエナジーで水をぶちまけろ!」
「分かっています!」
「いえ、その必要はありません」
イリスはガルシアのそばに歩み寄り、翼を大きく広げた。
「私の翼で再生させます。最早それも難しいかもしれませんが……!」
イリスは目を閉じ、念じた。すると虹色のベールがガルシアを包み込んだ。
「ここは、イリスに任せるしかないな……」
「ガルシアの野郎、また無茶しやがって!」
ジェラルドはヴィーナス灯台の出来事を思い出した。シバを助けるため、灯台から飛び下りたり、ジャスミンを止めるため生身で炎に突進したり、無茶が過ぎる、とジェラルドは思った。
「ジェラルド、お前もその腕治した方がいい。多分ピカードのエナジーで十分だろう」
「ああ、そうだな。利き手が満足に動かないんじゃ、ろくな事が無さそうだしな……」
ジェラルドはピカードに回復を頼んだ。
ロビンは一人になって、これまでの現象を思い返した。
いずれの現象も、火のエナジストに起こっている。最初は寒々としたマーズ灯台だったが、今は、ジャスミンの放出した炎の影響もあるだろうが、暖気を感じられる。
更に灯台全体が激しく揺れた。これは、灯台が灯る際に必ず起こる現象である。それから、灯台と同じエレメンタルに属す者が、力を強めることも。
火というものの性質上、爆発的な力がエナジストに加わり、暴走してしまったのではないか。
思案の末、ロビンは決定的な結論にたどり着いた。
最後の灯台が灯ったのだ。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 16 作家名:綾田宗