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【カイリン】愚か者め、嘆くが良いわ

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「愚か者め、嘆くが良いわ」



ブレーキの軋む音と衝撃の後、世界は上下が逆さまになってしまった。
進入してくる煙の向こう側に、少女は必死で手を伸ばす。彼女の所有者であり、「父」である男性の頭部の下に、深紅の水たまりが出来ていた。
現時点で救出された場合の生存確率、58%。少女の無機質な部分が、冷静に判断を下す。

お願い、誰か・・・・・・!!

この場合、何に助けを求めればいいのか、彼女は学習していなかった。座席と天井部分に挟まれ、身動きの出来ない体を必死によじる。「人命を最優先すること」、それはアンドロイドにとって至上命令だった。
だから、青髪の青年が救いの手を差し出した時、リンは視線で主人を優先してくれと懇願し、相手も瞬時にその願いを受け入れる。
アンドロイドであるカイトにとっても、優先すべきは「機械」の少女ではなく「人間」の男性だったから。

だが、救助された男性にとって、少女は「機械」ではなかった。




「あ、馬鹿! どこ投げてんの!」

夕焼けが、捻れた枯れ木を赤く染めている。ついぞ葉をつけたことのないその枝に、飛んできたゴムボールが引っかかった。

「あーもう! 下手くそ! 何やってんのよ!」
「リンが投げたんじゃないか!」

言い争いに発展しそうな会話に、女性の声が割って入る。

「二人とも、そろそろ中に入りなさい」
「マスター! レンがボールなくしちゃったの!」
「リンが投げたんだろ!」
「ほらほら、もう暗くなってきたわよ」

跳ねるように抱きついてきた二人に腕を回し、女性は扉の中へと姿を消した。



後に「大破壊」と呼ばれた機械達の暴走は、この世界を取り巻く環境を大きく捻じ曲げた。だが、連綿と続く生命の営みを消し去ることはそう簡単なことではなく、機械と人類の争いは、いつしか膠着状態に陥る。やがて時の流れが捻れた世界を生み出し、捻れた生物と、捻れた環境を受け入れた人類が、新たな暮らしを構築する結果となった。

裕福な者達は、城塞のような都市を築き、仮初めの平穏と富と快楽を独占し、荒れた世界に生まれた怪物に多額の懸賞金を賭け、金の為に命を捨てる者達をあざ笑う。

力のある者達は、怪物を狩る「ハンター」となるか、徒党を組んで貧しい者達を襲う。

貧しく弱い者達は、息を潜めるように、荒れた大地にしがみついて暮らしていた。