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【カイリン】愚か者め、嘆くが良いわ

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夕飯の片づけの後、ソファーに座ったマスターは、リンとレンを両脇に座らせて、本を読むのが日課だった。擦り切れてぼろぼろになってはいるが、この時代に書物は貴重だ。買い代える余裕などない。ただでさえ貧しい暮らしに、アンドロイドニ体の維持費は重くのし掛かっていた。それでも、二人を手放す気はない。やっと手に入れた「家族」だから。

親の顔どころか、自分の名前さえ知らない女。彼女があがいてもがいて、必死に這い上がってきた末に手に入れた平穏は、ある日、あっさり崩れ去った。



「ますた・・・・・・」

掠れた声が、耳に届く。少女の姿をしたアンドロイドが、所有者の女に呼びかけているのだ。女のほうは、涙を溜めた瞳で、二人を返してくれと懇願している。
やつれてはいるが、十分美しい部類だ。だが、「人間」に価値はない。彼が求めているのは機械、それも状態の良い機械だ。

「アンドロイドニ体か。維持するだけで精一杯って感じだなあ? 美人が台無しじゃねえか」

武装した男達に囲まれ、げびた笑いを向けられても、女は怯まず縋るように相手を見上げる。

「お願いです、何でもします。裸にでも何でもなりますから、あの子達だけは」
「あんた、娼婦か」

侮蔑を含んだ言葉を掛けても、眉一つ動かさなかった。最底辺から這い上がる中で、身につけた強さだろう。
男は首を傾げて、目の前の相手から捕らわれた二体のアンドロイドに視線を向けた。
少年型と少女型。姿が似ているのは、ペアで制作されたからか。状態は良好。武器用の部品を欲しがっているハンター達に売り払えば、かなりの金額になる。
「大人しくしていれば、マスターには手を出さない」
そんな一言であっさり捕まった二人は、一方が男を睨みつけ、もう一方が主人に泣きそうな顔を向けていた。
もう一度、所有者の女に目を向けた。涙に濡れた顔を見て、嗜虐心が頭をもたげる。

「ロボットの為に自分を犠牲にするか。泣かせるね」

喉元に拳銃を突きつけてやると、少女型アンドロイドの小さな悲鳴が聞こえた。

「『大破壊』の記憶は忘れちまったのかい? もっとも、あんたは母親の腹にすらいなかっただろうが。誰もあんたに語ってくれなかったのかい? 機械は敵だと」
「お願いです、私はどうなってもかまいません。けど、あの子達だけは」
「自分の命よりも、か?」

銃口が喉元から眉間に移動しても、女は同じ言葉を繰り返す。久しぶりに骨のある獲物、男は内心舌なめずりをした。

この女の心を折りたい。ぐしゃぐしゃに、二度と立ち上がれないほどに。
捕らえたのはニ体。一体捨てても、やるだけの価値はある。

「そうか・・・・・・だったら、返してやろうか」

女の顔が、ぱっと輝いた。希望の光、それを踏みにじるのは、何よりも甘美だ。

「男か女か、選べ。選んだ方を連れていく」
「え・・・・・・」

目の前の顔から、表情が消えていく。男は声を上げて笑いたいのを、必死に堪えた。

「あんたの手元に一人、俺の手元に一人。公平だろう? 好きな方を残しな。あんたにとって「大切な」方を。俺は、いらない方を貰っていく」

アンドロイド達にも事情が飲み込めるように、わざと言葉に力を込める。選ばれた方は、文字通り「捨てられる」のだ。
残された方は、その罪に押し潰されればいい。

「そんな・・・・・・二人とも大切なんです! 大切な家族なんです! お願いです、どうか」
「選べよ。あんたが選ばないなら、両方連れていく」
「お願いです! お願いします! 二人を」
「おい」

懇願する女を無視して、男は周囲に声を掛けた。荒くれ者達は万事心得ている様子で、どやどやと開け放された玄関へ向かう。

「やだ! 離して!」
「マスター! リン!」
「やめて! 連れていかないで!!」

すがりつく女を乱暴に突き飛ばし、男も外へと足を向けた。捕らえられたアンドロイド達の叫びが、徐々に遠くなっていく。


「嫌! お願い! やめて! 返して!!」

半狂乱の声が、一団の背に響いた。

「女の子だけにして!!」




火に炙られた小枝が、パチパチと音を立てる。両手足を縛られたリンは、地面に転がされていた。
マスターの家を襲った集団は、下品な笑い声をあげながら、酒を回し飲んでいる。夜が明ければ、リンは彼らの手で解体され、売り払われるだろう。
だが、リンにとってはどうでも良かった。

マスターは、レンがいればいいんだ。

女の子だけにして。マスターはそう言った。
自分は必要ないのだ。レンがいればいいのだ。あの優しさも、暖かさも、全部レンだけに向けられたものだったのだ。
地面の固さも、夜露の冷たさも、手足を縛る縄の痛みも、リンにとっては、もうどうでも良かった。

マスター・・・・・・

男達の声が、一際大きく響く。その時、歓声に混じって、微かなエンジン音が聞こえた。
仲間が合流したのだろう、ぼんやりそう考えた時、影がリンの体を飛び越える。
大型のバイクが、炎に照らされてぬらりと光った。