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金色の双璧 【単発モノ その2】

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2.

「あーあ、まったく……てめぇら、マジめんどくせぇ……サッサと歩きやがれ……ちゃんとアイオリアにも手間かけさせたって詫びろよ?」
「は、はい…カニ……デスマスク様」

 ボコボコと青銅と白銀聖闘士の尻を蹴りながら、凱旋(?)したデスマスクは周囲を見渡し、「ああ、いたいた!」とアイオリアの姿を見つけた。
 アイオリアは瓦礫が比較的少ない……というよりも、ごっそりと地面が抉られたように地形が変形し、すり鉢状になった場所で背を向けて座り込んでいた。デスマスクが立ち去る前とはまるっきり違う様相を呈す周囲の光景に『ひと悶着』あったのだなと思い、「わりぃ、わりぃ手間取った!」と悪びれもせずに後ろから回り込んで近づいたのだが、ぎょっと固まった。デスマスクの後をついてきた者も「ひっ」と小さく悲鳴を上げて腰を抜かしそうになっていた。

「……おい、おまえ大丈夫か?怪我、してるのか……?」

 慎重に声をかける。アイオリアは何者かを抱きしめていた。アイオリアのマントは外され、ぐったりと横たわる何者かに宛がわれていた。純白だったはずのマントが恐ろしいほど真っ赤に染まっていた。茫然自失といった具合で、デスマスクの声も届いていない様子である。
 「おい、アイオリア!」とデスマスクが怒鳴りつけたところでようやくアイオリアは顔を上げたが。まるで魂を吸い取られでもしたかのような生気のなさにデスマスクはゾッとした。深手の傷を負ったのだろうかと、らしくもなく心配する。

「……が…ない……んだ……」
「え?」
「血が……血が、止まらない……っ!助けてくれ、こいつを!」

 ガッとデスマスクはアイオリアに腕を掴まれて、引き倒されるようにアイオリアの前に座らせられたデスマスクは抱えこんでいた者の顔を見て「嘘だろう、マジかよ」と小さく呟き、壊れたように繰り返し助けを乞い続けるアイオリアの尋常でない取り乱しように、ようやく合点がいったのだった。とりあえず、オロオロと見守る青銅と白銀聖闘士を聖域に戻るように指示する。

「おい、てめぇらは聖域に先に帰ってジジイに乙女野郎を戻しとけって伝えろ!」
「え……じじい??」
「乙女……?野郎……?ど、どっち?」

 互いに顔を見合わせ混乱した様子で恐る恐るデスマスクを伺う。「ああ、くそっ!」と額に青筋を浮かばせながら、本当に役に立たねぇなと唾吐くように付け足す。

「教~皇~さまに~、バ~ル~ゴ~の、シャ~カ~を、呼び戻しておけって、言っとけ!わーったか、てめえら!あぁっ!?」

 凶悪な顔をさらに凶悪に歪めてみせ、ようやく理解できたらしい青銅と白銀聖闘士を帰らせたあとに「おい、アイオリア」と低い声で呼びかけた。

「―――なぁ、アイオリア。確かにそいつぁ吃驚するほど、奴によく似てはいるが、あの高慢ちきな乙女座様じゃないぜ?考えてもみろ、あんな奴が二人もいて堪るかっつーの。まぁ、もしかしたら、凶悪双子野郎みたいに奇跡的に血縁関係って可能性もあるだろうけど、それでも……シャカじゃない。な?それに、もう……」

 とっくに事切れている―――。
 最後のことばは呑み込んだデスマスクはチッと舌打ちして、真円に近い月を恨めし気に眺めた。

「な、アイオリア。聖域に還ろう。聖域にはおまえの乙女座様がきっと呆れたように待ってるぜ?」

 聞こえているのかいないのか、アイオリアは相変わらず、ゾッとするほどシャカによく似た顔をした者を抱きしめたままだった。このままでは埒が明かないと強制的に離そうとするが、「いやだ、離せ」とますますもって意固地になり、面倒な事態となる。

『……一体、何事だ、デスマスク?』

 ようやくシオンからの呼びかけに「おっせぇよ、じじい」と毒づきながら、「いいから、ちょっと力貸せや」と言い放つ。無礼な物言いに教皇ことシオンは雷を落とそうとしたが、とにかく聖域に戻せの一点張りでそれを制し、亡骸を抱き締めて離さないアイオリアをそのままの状態でようやく聖域に移動した。

「―――ったく、めんどくせぇ……」
「おまえは相変わらず礼儀を知らぬ不心得者だな、デスマスクよ」

 シオンの力を借りて、うまく教皇の間に戻れたデスマスクはひどい疲労感に包まれながら、叱責を受けるが。一際トーンの低いシオン教皇にいつもなら、スゴスゴと引き下がるところのデスマスクだったが、史上最低な気分で「うっせーよ、じじい」と凄み返す。

「俺にキレてる場合じゃねぇだろ。とりあえずアイオリアをどうにかしろって。んで、シャカは?」
「おまえがきちんとすればキレたりせぬわ、愚か者が。シャカたちも、もうすぐ戻ってくる頃合いだろう……何があったのだ、アイオリアに。怪我をしているわけではなさそうだが」
「見りゃあ、わかんだろ?随分とひでぇ有様だろうがよぉ……」

 ボリボリと頭を掻きながら、様子を窺いに渋い顔をしながら玉座から降りてきたシオンに向かって顎をしゃくるようにして示す。

「アイオリアが抱いている奴の顔見てみろよ、ぶったまげるぜ?」
「どういう……っ……なるほど……これは―――」

 絶句し、次には興味深げに眺めたシオン。お手上げだというゼスチャーをしながらデスマスクは近くの柱に凭れるようにしてどっかりと腰を下ろした。

「推測だけどよ、アイオリアとの闘いに負けたそいつは自刃したんじゃねぇかな……そのお綺麗なツラでそんなことやられちゃあ、アイオリアも堪ったもんじゃなかっただろう。つーわけで、早いとこ、乙女座様においで願わねえとな」
「なるほど、そうか……アイオリアには可哀想なことをした。サガもシャカも、もうそこまで戻って来ておる」

 小宇宙を察知したのか、耳を澄ますように小さく首を傾けているシオンにデスマスクは不満をぶつける。

「ひでぇ、俺は可哀想じゃないのかよ~」
「うるさい、おまえは少し黙っておれ」
「この、じじぃ……」
「―――ただいま戻りました、教皇」

 デスマスクが反論のために口を開きかけた時、サガの姿がフッと何もない空間から現れた。

「……ようやくお戻りかよ、サガ。んで、シャカは?」
「私はここだが?教皇、何かございましたか?教皇宮までのテレポートを許可されるとは珍し……アイオリア?」

 サガに続いてトンっと爪先から綺麗に着地したシャカが怪訝に問いかけたが、アイオリアの姿を認めて小さく首を傾げた。

「二人とも、任務ご苦労であったな。戻って早々申し訳ないのだが。シャカ、少しばかりアイオリアの目を覚ましてやってはくれぬか?」
「アイオリアがどうかしたので?」

 サガとシャカは互いに見合ったのち、サガが先行してアイオリアに近づき「これは――」と瞠目した。ますます訝しみながら、シャカも歩み寄り、薄く見下ろし、シャカにしては珍しく、はっきりと困惑の表情を浮かべていた。