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金色の双璧 【単発モノ その2】

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4.
 走って追いかけて―――シャカの小宇宙が感じられた一つの場所に辿り着いた。こじんまりとした家。その中にいるようだ。家の中の様子がわからないかと窓をそっと覗きみたけれども、カーテン越しに見える中の風景は暗くてよくわからなかった。
 どうしようか……。アイオリアは少しの間逡巡したが、ここで悩み迷っていても埒が明かないことは目に見えていたので、ふぅぅと長い息を吐いて心を落ち着かせたのち、玄関扉を強く叩いた。
 やや少しだけ間があってから、闊達な声が訪問者の身の証を問うた。問われるままに返答すると、小さく「あっ!」という声が聞こえたと同時に玄関の扉が開かれたのだった。
 アイオリアは軽い挨拶の言葉を何とかどもることなく交わすことができたけれども、普段の何倍も緊張したし、何より暑くてたまらなかった。ひどく口の中も乾いていた。
「あの……俺の友人が急に行方不明になっちゃって。ひどい方向音痴なんだよ、そいつ。ちょっと目を離したすきにいなくなっちゃって、さっきから探しているんだ。それで尋ね歩いてるんだけど……その、見かけたりしなかったか…な?」
「え?お友達が迷子なの?……あ、もしかして……あの、金色の子?」
「金色?ああ…髪は確かに金色だ」
「よかった!こっちに来て」
 案内されるままに中へ入っていくと、シャカは椅子に座って丁度手にしたマグカップを口元へ運んでいる最中だった。アイオリアに気づいたらしいシャカはこれ見よがしにフンッと顔を背けた。たらりとアイオリアの背筋に冷たいものが流れる。
「あなたのお友達だったのね……ということは聖域の人?てっきりロマの子かと思ったけど……とにかく良かった!」
 すっとシャカのほうに彼女は近づくと、マグカップを持つシャカの白い手に自らの小麦色に焼けた手を添え、ぎゅうっと握った。少し困惑するシャカを他所に、手を握り締めながら、何度も「良かった」と嬉しそうに笑みを浮かべる彼女の姿は実に微笑ましいもの。本来ならばアイオリアが胸を高めているはずの光景である。
 けれども実際にはもやもやとした雲のようなものがアイオリアを覆い尽くしていた。理由はまったくわからない。ただただ不快な気持ちがアイオリアの中で立ち昇り、増殖するのだ。
「えっと!本当にありがとう。今度また改めて礼を言うよ。早く戻らないといけないから」
「え、あっ……そうなんだ」
 割って入り、ほとんどシャカを強奪するように引き離す。少し驚いたように複雑そうに笑む彼女に申し訳なさを覚え、「アイオリア?」とシャカもまた怪訝そうに問うのにも応えず、ぐいとシャカの手を引きながら彼女の家を後にした。
 何度シャカが呼びかけてもアイオリアは無言のままで、ずんずんと突き進むだけ。結構な距離まで来たところで「いい加減にしたまえ!」とシャカはアイオリアが強く握ったまま離そうとしない腕をようやく払い除けた。
「なんだね、あの態度は!せっかくの機会ではなかったかね?きみは彼女に会いたかったのだろう?話したかったのだろう?それなのにアイオリア、きみは―――」
「ああ、そうだよ、会いたかったさ!話したかったさ!手だって繋ぎたかったさ!」
「だったら……」
「わっかんねーよ、俺だって!なんであんな態度したのか……わかんねーよ!?でもどうにも我慢できなかった。仕方ないだろっ」
 微笑みアイオリアを迎い入れた彼女。とてもいい香りすらして、夢見心地のまま過ぎていたのに。そっと彼女が触れたものが許せなかった。あんな風に気安く触れてよいものではないのだ……と、怒りの気持ちが生じたのだ。
「―――おまえの手を握っていいのは」
「は?」
「おまえの……手を握っていいのは……だけ…だ!」
「何を言って…」
「俺だけだ――!!」
 ほとんど衝動的といっていいだろう。怒鳴るように叫んで、ハッとしたアイオリアがシャカを見ると、シャカは面食らったように立ち竦んでいた。言葉すら失ったように。
 居た堪れなくなってアイオリアは俯き、「ごめん」と呟いた。
 合わす顔もなければ言い訳の言葉も浮かばなくて、ただ「聖域に戻るからシャカもインドに帰れ」というのが精一杯だった。せっかくのシャカの好意を無駄にして、意味の解らない感情をぶつけて振り回すだけ振り回して。情けなくて泣きそうにさえなる。
「わかった……達者でな、アイオリア」
 僅かに怒気と悲哀を滲ませながら言葉を告げたシャカ。
 訪れた時のようにスッと音もなく、静寂の中へと消え去った。感謝の言葉を述べることもせずに、アイオリアはシャカと気まずい雰囲気のまま別れてしまったことを今更ながらに深く後悔した。
 でもきっと、シャカのことだから―――いつものようにひょっこりと何食わぬ顔をしてアイオリアの元に訪ねて来てくれるだろうとアイオリアは虫の良すぎる淡い期待を抱かずにはいられなかった。



 後日、意外にも早い段階でロドリオ村へと再び訪れる機会があったアイオリアは件の少女、ソフィアと会い、先日の礼を欠いた行動を詫びた。ソフィアは当たり前のように許してくれた。
 その後、急速に二人の仲は縮まりを見せたけれども、その分シャカとは遠く引き離されていくようにアイオリアは感じた。
 そして、あの白くしなやかに踊る指先が触れる、自分ではない別の誰かの手に激しい怒りの様な気持ちと友情だけではない別の感情を未だシャカに抱いていることに気付き、アイオリアは再び懊悩するのだった。



Fin.