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学パロ時京・屋上

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ぺたぺたと、上履きの足音が聞こえてくる。
どことなく湿った階段をのんびり上がってくるその気配は、そちらを見なくても誰のものだか見当がついた。
だいぶ寒くなったこの時期に、屋上で昼ご飯を食べようっていう生徒はそんなにいない。
今も、そこにいるのは僕一人だ。床の冷たさに顔を顰めながら、ぼんやりと曇り空を見上げてみる。空気は刺すほどに冷たいわけじゃないけど、柔らかくもない。
寒いのが苦手ってわけでもないけど、さすがに教室の中で食べたほうがいいような気がする。
――人けがないから、のんびり出来ていいだろ。
そんな風に笑って言われたら、結局頷いてしまうんだけど。

「おー京一郎。待たせたな」
「ううん。僕も今来たとこ」

がさがさ、購買のビニール袋を提げて時雨が近づいてきた。またおむすびかな。
いつもながらジャケットも着てないのに、寒そうな色ひとつ見えない。
緩めに着こんだカーディガンはお洒落な服ってわけじゃないのに、ぴんと背筋の伸びた時雨が着てると妙に格好いい。
じっと見つめてしまってたことに気が付いて、慌てて手元の袋からパンを取り出すふりをした。
時雨がすとん、と隣に腰を下ろす。

「あー腹減った。早く食おうぜー」
「ふふ。お弁当は?また早弁したの?」
「おう。やっぱ一つじゃ足らないな」

袋から取り出されたのは、やっぱりおむすびだった。
何個かあったそれは、あっという間に時雨の口の中に消えていく。
そんなに急いで口に入れたら、喉に詰まっちゃうよ――
そう言ってペットボトルのお茶を渡そうと体をよじった時、ジャケットのポケットでがさりと音がした。
布越しに感じる紙の感触に、ふっと体温が下がるような感覚が湧く。

ポケットの中の違和感は、ピンク色の可愛い封筒。
時雨に宛てた、ラブレターだった。

「あの、柊くん。柊くんって、3年の時雨先輩と仲良いよね?」

そんな風に声をかけられるのは初めてじゃなかったから、ああ、またかと思った。
時雨は格好いい。さばさばしてて明るくて、誰にでも優しい。もてるのは当然だと思う。
幼なじみでそばに居ることが多かったから、時雨が女子に騒がれたり告白されたりするのを見るのは度々のことで。
もてもてだね時雨。付き合ったりしないの?
しねーよ。剣道で忙しいし、そんな暇ないし。
そんな会話をしては笑うのが常だった。
時雨が女の子と付き合うなんてことはないし、これからもそれは変わらないって思ってた。

高校に入ってからは、手紙を託されることが多くなった。
一年先に入学した時雨は、どんなに可愛い子に告白されても応じないことで有名になってたらしい。
時雨と仲がいい子が一年下に入ってきた。そんな噂が広まって、見知らぬ女生徒に呼び出される。
渡されるのは手紙だったり、プレゼントだったり、バレンタインのチョコだったり。

最初のころは、何も考えずに受け取って時雨に渡してた。
ほら時雨、また預かってきたよ。
またかあ?返事するの面倒くさいんだよ…。お前ももう、受け取らなくていいからな?
毎回げっそりしたような顔をするのがおかしくて、思わず吹き出してしまう。
そんなに面倒くさいんなら、いっそもう誰か一人に決めて付き合っちゃえばいいのに。
そう言った自分の声に、微かに時雨が顔を歪めたのはいつの話だったか。

最近は、手紙を頼まれても断るようになっていた。
すみません、時雨にもう受け取るなって言われちゃって。ごめんなさい。
でも今日のは、生徒会で一緒になる先輩だった。断られるなんて欠片も思ってないような顔で、当然のように手紙を差し出された。
渡すだけでいいから、お願い。柊くんにしか頼めなくて。ね?
半ば押し付けられるように薄いピンクの封筒を手渡されてしまったら、もう断れなかった。

ポケットの中の、かさかさと乾いた感触がどうにも気持ち悪い。
早く渡してしまえばいい。前にそうしてたみたいに、ほら時雨、まただよって何気なくポケットから出せばいい。
そう思うのに指は動かなくて、ただ黙々とパンを口に運ぶ。
そんな食事はあっという間に終わってしまい、手持ち無沙汰にペットボトルのお茶をこくりと飲み込んだ。
ふと、視線を感じて顔を上げる。
冬のどんよりした空を背景に、時雨がじっとこっちを見ていた。

「…何?」
「やっぱ、寒いかなーって」
「寒いよ。今度から教室にしよう?」
「下級生の教室だと、じろじろ見られて落ち着かないんだよなあ…」
「僕がそっちに行ってもいいけど」
「いい。来るな」
「何でさ」
「お前こそ見られ…いや、何でもない。とにかく、だーめ」

時々、時雨はこんなふうに意固地になる。
訳を聞いてもはぐらかされるのが分かってたから、変なの、と呟いてまたお茶を一口飲んだ。
冷え切ったそれが喉を下っていく感覚に、ぶるっと体が震える。

「ほら、もっとこっち」
「…何?」
「寒いんだろ。くっつけよ」
「…いいよ」
「震えてる。ほら」

ぐいっと、時雨と反対側の肩を掴まれて引き寄せられた。
肩が熱を持つ。そこだけ急に体温が上がって、血が巡っていく。
時雨の手も冷えてて、冷たいはずなのに。ジャケット越しに触られたからって、温度を感じるわけじゃないのに。
肩だけじゃなくて体も熱くなる。さっきまで寒くて縮こまっていたはずの体は、走り出した心臓の鼓動で一気に暖められたようだった。
まただ。最近時雨に触られると、いつも。

「…ん、いいよ、離してよ…!」
「だーめ。ほら、こんなに冷えてる」

肩を抱いた時雨が、もう片方の手で冷えた手を包み込んでくる。
心臓の速さが、指先から伝わってしまうんじゃないか。そんな恐怖に囚われて、逃げたくなる。
でも、逃げられない。手を振りほどくこともできない。呪縛にかかったみたいに。
時雨の顔が一層近くなって、鼻の頭が鼻に触れた。ひやり、冷たい感触。

「鼻も冷たい」
「…時雨のも、だよ」
「だな」

熱い息が唇を掠めて、くらりと眩暈がする。
耐えきれずに瞼を閉じると同時に、唇を柔らかく塞がれた。

「んっ…」
「ふ…京一郎…」

触れるだけだった唇が、そっと開いて下唇を甘やかすように噛んでくる。
もとから固く閉じようとしてたわけでもない口はあっさりと侵入を許して、時雨の動きに合わせてゆるく解けた。
熱い舌が、自分の舌を押しつぶすように動き回る。ついていくのが精一杯で、その熱と湿りを追うだけであっという間に息が上がっていく。
自分の手を包み込んでいた掌は、いつのまにか耳の後ろ、髪の中を弄り、頭を引き寄せていた。
いっそう唇が深く合わさり、また一瞬の眩暈。

「ん、ん…はっ…京一郎、ん…」
「しぐ、れ…」

体の芯が、じんと痺れる。
蕩けるような感覚に酔いながら、ポケットの中の感触が頭のどこかを冷やしていく。
かさかさ、かさかさ。
ねえ、時雨。
僕たち、付き合ってるわけじゃないんだよね?
時雨は、僕を好きなわけじゃないんだよね?
このキスが終わったら、時雨に渡してみよう。ピンク色の封筒を。
時雨はどんな顔をするだろう?
またかよ、ってうんざりした顔をする?
おお、久しぶりに来たな、って笑う?

「ん…」
「…京一郎…!」

よくわからない、どろどろした気持ちが胸いっぱいに溜まっていく。
作品名:学パロ時京・屋上 作家名:aya