GS/左斜め前窓側の席 嵐バン
勉強ばっかしてるバンビで運動パラがサッパリ上がらないと、3年目くらいに不二山くんに出会うことがあるじゃないですかー唐突に。
ずっと同じクラスだったのに話したことないってどんな状況だよ?と考えて、そんな状況のバンビが不二山くんを好きだったらどうなるのかっていうお話です。ハッハッハッ。
ルカたんとコウちゃんは友好状態なかんじで。一年目終わり頃なイメージです。
薄眼でお読みください。あと無駄に長いです。
わたしの席は、真ん中よりちょっと後ろで窓側寄り。たいして悪い席じゃないけど、いい席ってわけでもない。
先生から丸見えじゃないけど見えないわけでもない、日の光が届きそうで届かないことのほうが多い、そんな席。
でもひとつだけ、この席でよかったと思うことがある。
あの人のことがよく見えること。わたしの左ななめ前、窓際のあの人。
「なに、美奈子ちゃん。好きなヤツできたの?」
「違う違う、好きとかそんなんじゃないの!ただ気になるっていうか、目に付くっていうか…」
「ククッ、そりゃ恋だな」
1月で気温は当然低いけど、風がないから日なたは結構暖かい。わたしが作ってきたサンドイッチにアリンコのように寄ってきた琥一くんと琉夏くんと、屋上でお昼を食べていた。
給水等の壁も陽を浴びてほんのり温かい。そこに寄りかかってサンドイッチをぱくつく琥一君をじろりと睨むと、おかしそうに笑われた。
「からかわないでよー。もう。サンドイッチ返しやがれ」
「誰の真似だ?コラ」
「そうだぞコウ。からかうなんて失礼だ。…美奈子ちゃん、このハムサンドも貰っていい?」
琉夏くんの方を見るとすでにハムサンドは半分口の中に入っている。真剣そうな顔を見て、思わず吹き出してしまった。
「いいよ。2人にあげようと思って余分に作ってるから」
「さふが。いたらきまふ」
「もう食ってんじゃねえか」
「琥一君もね」
琥一君の手にはもうツナサンドが握られている。
にやりと笑って、三角のそれはあっさり口の中に放り込まれてしまった。
「そいつってあれでしょ?校門前でよくチラシ配ってる」
ぺろり、と指を舐めながら琉夏くんが言う。
「んあ?・・・ああ、そういや居たな、そんなのが」
「そう。柔道同好会なんだって」
「同好会?部じゃねえのかよ?」
「まだ部員がいないんだよ。だから同好会」
「部員いないの?一人も?」
「うん」
そう。部員がいない。
だからあの人は、一人で頑張っている。
不二山嵐くんは。
*
春のころから、不二山くんが一人で柔道着を着てランニングしている姿は何度か見ていた。
でも特に気に留めてた、ってことはなかった。はば学に柔道部が無いことすら、そのころのわたしは知らなかった。
体育祭を過ぎたころから、不二山くんは校門前に立ってビラを配り始めた。毎日というわけじゃなかったから、わたしがそれに気づいた時には夏休み近くになっていた。
なんのビラなのかな?
何をお願いしてるんだろう?
「そんとき聞いてみたの?それなに、って」
琉夏くんがもごもごサンドイッチを飲み込む。
「ううん。見かけたときはわたしが急いでたりしてて聞けなかったんだ。その頃はそんなに気になったわけでもなかったし」
ずず、とパックの牛乳を飲みながら、なんとなく空を見上げる。晴れてるけど白っぽく、くすんだ感じの青空。
でも夏のころにはぱっきりと青くて、太陽の強い陽射しがこれでもかと降り注いでいた。
そんな真っ青の空を背景に、不二山くんはやっぱり一人で走っていた。
「夏休みが終わってね、秋になって、冬になって、すごく寒くなったでしょ?でも不二山くんはいつも外で走ったり、ビラ配りしたりしてるんだよね」
「部室とかあんだろ?」
「ないんだよ。一人だけの同好会だから。たまに体育館の端とかステージとか使わせてもらえるみたいだけど、いつもじゃないし」
寒いだろうなあ。
柔道って相手が居ないと、トレーニングも難しそうだよなあ。
なにかわたしでも手伝えるようなこと、ないかなあ。
そんなことを考え出したら、なんだか教室でも目で追うようになってしまった。左ななめ前の、窓際の席を。
そして気になって見始めたら、いろんなことがもっと気になるようになった。
お弁当は少なくとも2つは持ってきてることとか。
背筋がいつもぴっと伸びているとか。授業中はときどき居眠りしたりしてたけど。
意外と、字がすごく綺麗だとか。
授業は全然真面目に聞いてないのに、掃除は誰よりもきっちり真面目にやることとか。
「ほぉー…」
ニヤニヤしている琥一くんに、ぷうっと頬を膨らませて見せる。
「また恋だとか何とかからかう気でしょ」
「いやぁ?んなことねーよ?…んで、いっつも何しゃべってんだよ?そいつと」
「しゃべったことないよ」
「…はあ?」
「…へっ?」
二人がきょとん、と目を丸くする。
「だから、しゃべったことないの。一度も」
「…マジか?」
「オマエってそんな、もじもじキャラだっけ?」
「何それ。…もじもじしてるとかじゃなくてさ…」
そう。わたしと不二山くんは。
なんだか妙にタイミングが合わないのだ。
「おんなじクラスでしょ?いくらでも話できるじゃん」
「そうでもないんだよね…」
まず不二山くんは、暇そうにしているときがない。休み時間は男友達と喋ってるか、ちゃかちゃかと早弁をしている。もしくは机に突っ伏して寝ている。
掃除当番や日直も一緒になったことがない。
席も遠くはないけど、世間話するほど近くはない。
それにもう1月になっている。いいかげん同じクラスになって時間がたっているのに、話したことのない男子にいきなり教室で話しかけるのはちょっと勇気がいることだった。
みんないるところで「誰?」とか言われたらいたたまれないし。
「誰だかわかんねぇ、ってことは無いだろ」
「それがあり得るんだよ。不二山くんは」
こないだ、3学期が始まったばっかりのとき。ちょうど日直だった平くんが先生の伝言を不二山くんに伝えたら、彼は真顔で言ったのだ。「おまえ誰?」って。
「あの瞬間はさすがにクラスが凍ったよ…」
「すごいな。俺でもさすがにクラスの名前は覚えてるのに。コウは…覚えてないか」
「あぁ?馬鹿にすんじゃねえよ」
「んじゃ女の子の名前、順に言ってみろ」
「……」
うっ、と言葉に詰まった琥一君を見て、思わずため息が出る。
「ね?琥一君も女子の名前は覚えてないでしょ?ましてや不二山くんは、話したことも無い女子の顔と名前なんて覚えてないと思うんだよね…」
そんな状態で、教室で寝ている不二山くんを起こして「はじめまして!」的な挨拶をする勇気は無かった。
だから校門でビラを配ってるときなら、話しかけられるかなと思った。のに。
まずビラ配りをしている不二山くんに出会うことがなぜか少ない。わたしが用があって帰りが遅くなる日に限って配っていて、帰るころにはもういなかったりする。
何度か教室の窓から校門を見て「今日はいる!」と思って走ったけれど、校門につくころには走りに行ってしまっていた。
「ああ、美奈子ちゃんどんくさいから…」
ずっと同じクラスだったのに話したことないってどんな状況だよ?と考えて、そんな状況のバンビが不二山くんを好きだったらどうなるのかっていうお話です。ハッハッハッ。
ルカたんとコウちゃんは友好状態なかんじで。一年目終わり頃なイメージです。
薄眼でお読みください。あと無駄に長いです。
わたしの席は、真ん中よりちょっと後ろで窓側寄り。たいして悪い席じゃないけど、いい席ってわけでもない。
先生から丸見えじゃないけど見えないわけでもない、日の光が届きそうで届かないことのほうが多い、そんな席。
でもひとつだけ、この席でよかったと思うことがある。
あの人のことがよく見えること。わたしの左ななめ前、窓際のあの人。
「なに、美奈子ちゃん。好きなヤツできたの?」
「違う違う、好きとかそんなんじゃないの!ただ気になるっていうか、目に付くっていうか…」
「ククッ、そりゃ恋だな」
1月で気温は当然低いけど、風がないから日なたは結構暖かい。わたしが作ってきたサンドイッチにアリンコのように寄ってきた琥一くんと琉夏くんと、屋上でお昼を食べていた。
給水等の壁も陽を浴びてほんのり温かい。そこに寄りかかってサンドイッチをぱくつく琥一君をじろりと睨むと、おかしそうに笑われた。
「からかわないでよー。もう。サンドイッチ返しやがれ」
「誰の真似だ?コラ」
「そうだぞコウ。からかうなんて失礼だ。…美奈子ちゃん、このハムサンドも貰っていい?」
琉夏くんの方を見るとすでにハムサンドは半分口の中に入っている。真剣そうな顔を見て、思わず吹き出してしまった。
「いいよ。2人にあげようと思って余分に作ってるから」
「さふが。いたらきまふ」
「もう食ってんじゃねえか」
「琥一君もね」
琥一君の手にはもうツナサンドが握られている。
にやりと笑って、三角のそれはあっさり口の中に放り込まれてしまった。
「そいつってあれでしょ?校門前でよくチラシ配ってる」
ぺろり、と指を舐めながら琉夏くんが言う。
「んあ?・・・ああ、そういや居たな、そんなのが」
「そう。柔道同好会なんだって」
「同好会?部じゃねえのかよ?」
「まだ部員がいないんだよ。だから同好会」
「部員いないの?一人も?」
「うん」
そう。部員がいない。
だからあの人は、一人で頑張っている。
不二山嵐くんは。
*
春のころから、不二山くんが一人で柔道着を着てランニングしている姿は何度か見ていた。
でも特に気に留めてた、ってことはなかった。はば学に柔道部が無いことすら、そのころのわたしは知らなかった。
体育祭を過ぎたころから、不二山くんは校門前に立ってビラを配り始めた。毎日というわけじゃなかったから、わたしがそれに気づいた時には夏休み近くになっていた。
なんのビラなのかな?
何をお願いしてるんだろう?
「そんとき聞いてみたの?それなに、って」
琉夏くんがもごもごサンドイッチを飲み込む。
「ううん。見かけたときはわたしが急いでたりしてて聞けなかったんだ。その頃はそんなに気になったわけでもなかったし」
ずず、とパックの牛乳を飲みながら、なんとなく空を見上げる。晴れてるけど白っぽく、くすんだ感じの青空。
でも夏のころにはぱっきりと青くて、太陽の強い陽射しがこれでもかと降り注いでいた。
そんな真っ青の空を背景に、不二山くんはやっぱり一人で走っていた。
「夏休みが終わってね、秋になって、冬になって、すごく寒くなったでしょ?でも不二山くんはいつも外で走ったり、ビラ配りしたりしてるんだよね」
「部室とかあんだろ?」
「ないんだよ。一人だけの同好会だから。たまに体育館の端とかステージとか使わせてもらえるみたいだけど、いつもじゃないし」
寒いだろうなあ。
柔道って相手が居ないと、トレーニングも難しそうだよなあ。
なにかわたしでも手伝えるようなこと、ないかなあ。
そんなことを考え出したら、なんだか教室でも目で追うようになってしまった。左ななめ前の、窓際の席を。
そして気になって見始めたら、いろんなことがもっと気になるようになった。
お弁当は少なくとも2つは持ってきてることとか。
背筋がいつもぴっと伸びているとか。授業中はときどき居眠りしたりしてたけど。
意外と、字がすごく綺麗だとか。
授業は全然真面目に聞いてないのに、掃除は誰よりもきっちり真面目にやることとか。
「ほぉー…」
ニヤニヤしている琥一くんに、ぷうっと頬を膨らませて見せる。
「また恋だとか何とかからかう気でしょ」
「いやぁ?んなことねーよ?…んで、いっつも何しゃべってんだよ?そいつと」
「しゃべったことないよ」
「…はあ?」
「…へっ?」
二人がきょとん、と目を丸くする。
「だから、しゃべったことないの。一度も」
「…マジか?」
「オマエってそんな、もじもじキャラだっけ?」
「何それ。…もじもじしてるとかじゃなくてさ…」
そう。わたしと不二山くんは。
なんだか妙にタイミングが合わないのだ。
「おんなじクラスでしょ?いくらでも話できるじゃん」
「そうでもないんだよね…」
まず不二山くんは、暇そうにしているときがない。休み時間は男友達と喋ってるか、ちゃかちゃかと早弁をしている。もしくは机に突っ伏して寝ている。
掃除当番や日直も一緒になったことがない。
席も遠くはないけど、世間話するほど近くはない。
それにもう1月になっている。いいかげん同じクラスになって時間がたっているのに、話したことのない男子にいきなり教室で話しかけるのはちょっと勇気がいることだった。
みんないるところで「誰?」とか言われたらいたたまれないし。
「誰だかわかんねぇ、ってことは無いだろ」
「それがあり得るんだよ。不二山くんは」
こないだ、3学期が始まったばっかりのとき。ちょうど日直だった平くんが先生の伝言を不二山くんに伝えたら、彼は真顔で言ったのだ。「おまえ誰?」って。
「あの瞬間はさすがにクラスが凍ったよ…」
「すごいな。俺でもさすがにクラスの名前は覚えてるのに。コウは…覚えてないか」
「あぁ?馬鹿にすんじゃねえよ」
「んじゃ女の子の名前、順に言ってみろ」
「……」
うっ、と言葉に詰まった琥一君を見て、思わずため息が出る。
「ね?琥一君も女子の名前は覚えてないでしょ?ましてや不二山くんは、話したことも無い女子の顔と名前なんて覚えてないと思うんだよね…」
そんな状態で、教室で寝ている不二山くんを起こして「はじめまして!」的な挨拶をする勇気は無かった。
だから校門でビラを配ってるときなら、話しかけられるかなと思った。のに。
まずビラ配りをしている不二山くんに出会うことがなぜか少ない。わたしが用があって帰りが遅くなる日に限って配っていて、帰るころにはもういなかったりする。
何度か教室の窓から校門を見て「今日はいる!」と思って走ったけれど、校門につくころには走りに行ってしまっていた。
「ああ、美奈子ちゃんどんくさいから…」
作品名:GS/左斜め前窓側の席 嵐バン 作家名:aya