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GS/左斜め前窓側の席 嵐バン

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琉夏くんが哀れみの視線を寄越す。


「大きなお世話です。でも前よりはだいぶ体力ついたんだよ?家で縄跳びやったりして」
「ほお?50メートル走何秒だよ?」


今度はわたしが、うっと言葉に詰まる。


「…12秒7…」
「うわあ…」
「…こりゃまた…」


かわいそうな子を見る目つきになった二人を睨みながら、気合を入れて立ち上がる。


「でも大丈夫!これ見て」


ポケットから取り出したビラを突き出してやると、二人が顔を寄せてきた。


「『柔道同好会、部員募集』ああ、これそのビラ?」
「そう。配られた子に貰ったの。んで、ここ見てここ」
「あぁ?『マネージャー同時募集』?」
「そう!」


ふん、と握りこぶしを作る。


「運動はまあちょっと得意とはいえないけど、マネージャーなら何とかなると思うんだよね!」
「………」


二人ともなんとも言えない微妙な顔をしている。失礼だなあ。
もっと何か言ってやろうと思っていると、予鈴が鳴るのが聞こえた。


「あ、わたし次移動教室だ。もう行かなきゃ。二人とも、授業サボっちゃだめだよ?じゃあね!」
「はーい」


明らかに戻る気のなさそうな二人を置いて、私は教室に急いだ。
恋とか好きとかじゃない。しゃべったこともないのに。
人を好きになるって、そんな簡単なものじゃないと思う。きっと。
うん、今度校門で会えたら。そのときに話しかけてみるんだから。


「…恋だな」
「…恋だね」
「しっかし、あのとろい奴が運動部のマネージャーだと。…無理だろ」
「無理だね」





冬の陽射しは傾くのが早い。
午後の最後の授業、わたしの席にはもう日が当たらなくなってちょっと寒い。でも窓際の不二山くんの席はまだ日が差していて、背中がぽかぽか暖かそうだった。
制服の布の感じがわかるくらいじっと見ていた自分に気づいて、ちょっとびっくりする。

なんでこんなに不二山くんが気になるんだろう?
一人で可哀想だから助けてあげたい、とかいうのともちょっと違う。だって不二山くんは可哀想には全然見えない。
楽しそうというわけでもないけど、黙々と一人で取り組んでいる。その顔からは何も読み取れない。

何を考えているんだろう?
どうして一人であんなに頑張ってるんだろう?
その眼には何が見えてるんだろう?

私はそれが知りたいのかな?


「よーっし、今日はここまでー。次は…まで、ちゃんと予習しとけよー」


大迫先生の声で、はっと我に返る。
やだ、全然授業聞いてなかった。
がたがた皆が帰り支度を始めて、あわててわたしも机を片付ける。

ぱらぱら人が減ってきた教室の端で、不二山くんがうーんと伸びをするのが見えた。
周りには誰もいない。


「あ…」


いま。
いまなら、声かけられるかな。

もうしわしわになったポケットの中のビラを握り締めて、椅子から立ち上がる。
机の間を抜けて、ななめ前のあの席に向かう。あと、もうちょっと。
不二山くん、あのね、このビラ見たんだけど。
そう声をかけようと口を開きかけた瞬間、ぐいっと体が床に向かって引っ張られた。


「…え!?」


何が起こったのか、すぐに把握できない。
床に倒れたわたしの顔を、クラスメイトの女子が覗き込んでいる。


「だいじょぶ!? なに、引っかかったの!?」
「引っかかっ…た…の?かな?」


いてて、と起き上がってみると、スカートの裾が荷物掛けのでっぱりに引っかかっていた。
なぜこのタイミングで。ああ。


「…不二山くん、は…」


教室には姿がない。わたしが転んだことにも気づかず、もう出て行ってしまったようだった。


「…あーあ…」





「…鈍くせえにも程があるな…」
「小さいころから変わってないよね」
「うるさーい!たまたまだよ!」


帰り道、琥一くん琉夏くんと海岸沿いの道を歩きながら、わたしは頬を膨らませた。


「追いかけてみたらよかったじゃん」
「追いかけたよ。でももう影も形もなくて」
「12秒7じゃあなあ…」
「そのタイムもう言わなくていいから!忘れてよ!」


ちょっと前を歩いていた琉夏くんが、ひょいっと振り返って笑う。


「これはあれだ。神様が邪魔してるんだ」
「ひどいー!」
「まあなあ…カミサマってこたあないだろうがよ。ついてねえのは確かだな」


琥一くんまで可笑しそうな顔して。ひどいよ二人して。


「うー…」
「まあまあそんな唸らないで。…ほら競争だ、オマエのバス停まで」
「え?」
「おーし。行くぞ亀」
「えええ!待ってよ!」


笑いながら走り出した二人を、あわてて追いかける。全然余裕で走ってるのが憎たらしい。
時々振り返って、声を上げて二人が笑う。
…励ましてくれてるのかなあ。とてもそうは思えないんだけど。


「もー!」


冷たい海風に頬が痛い。二人のことを全速力で追いかけながら考える。
明日は声かけられるかな。
わたしの名前を伝えられるかな。





次の日の最後の授業は、氷室先生の数学。いつも時間ぴったりに授業が終わる。
時計を見ている様子もないのに、先生が「…以上だ」と言ったと同時に鐘が鳴るから不思議だ。
みんながまたさわさわと帰り支度を始める。
よし、今日こそは。今日こそは声をかける。

ふんと気合を入れて、昨日と同じようにななめ前の席に向かう。
不二山くんは首をこきこき言わせながら、まだ席に座っていた。
今日は大丈夫そうだ。よし、もう少し。


「…君」
「はっ?…はい!」


氷室先生がわたしのことをまっすぐに見ながら声をかける。え?わたし?わたしですか?


「先週君が提出したレポートの件で話がある。職員室に来るように」


れ、レポート?レポートですか?そして今ですか?


「…不都合でもあるのか?」
「えっ?…いえ!はい!行きます!」


氷室先生の後ろについて、とぼとぼ職員室へ向かう。鞄を持って教室を出る、不二山くんを横目で見ながら。


「…はあ」


教室へ戻ったのはそれから20分後。なんのことはない、レポートが良く書けていたからというお褒めの言葉と改善点の指摘だった。
氷室先生から褒められるのは正直嬉しい。でも気合を挫かれた気分なのは確かで、思わずため息が出た。


「別に、今日じゃなくていいんだけどね…」


不二山くんに声をかけるのは、今日じゃなくていい。それは確かだ。
でもなんだか「よし、行くぞ!」と気合を入れていた分がっくりくる。こんなにタイミングが合わないのって、ほんとに神様に邪魔されてるのかなあ。


「…はあ」


机に突っ伏してため息をつく。
なんかもう、声かけようとかマネージャーやってみたいとか、神様がやめろって言ってるような気がしてきた。
…やめちゃおう、かなあ。





その時、がらりと教室のドアが開く音が響いた。
廊下から、見慣れた金色の頭がぴょこんと覗く。


「あ、居た」
「琉夏くん?どうしたの?」


にっこり。いつもの、考えが読めない極上の笑顔。


「ほら、おいで?」
「え?」
「早くしろ、おら」


琥一くんもいる。何?どうしたの?


「…きゃ!」

作品名:GS/左斜め前窓側の席 嵐バン 作家名:aya