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近いか遠いか、そんなの手を伸ばせば分かる事じゃない

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 もう本性の滲んだ笑みを隠さずに蛇崩は珍しく押され気味の満艦飾を見た。むっとしたふくれっつらをしながらも、どうして自分がむっとしてるのかすらまるでわかっていない顔。蛇崩の意見に不満があるならばいつもみたいに彼女特有の論理で説き伏せてしまえばいいのにそれをしないのは彼女がどこか蛇崩の言葉を正解だと思っている気持ちもあるからだろう。

「ねえ劣等生」
「……何ですか」

 こんなときでも全く引かずに蛇崩を見つめる満艦飾は流石の貫録だ。しかしいつもの張り合うような気迫はない。
 さあ、最後の一仕上げだ。蛇崩はずいと満艦飾に迫った。

「アンタはあたしに質問しに来たんじゃない。ガマ君と同じ四天王で、今ここにいる中では一番ガマ君と付き合いの長い私から自分が欲しい答えがほしかったんでしょう?
 ガマ君がアンタを助けたのは、アンタが本能字学園の生徒だからじゃなくって、目の前でアンタがさらわれて寝覚めが悪かったからでもなくって、アンタが、ガマ君の」
「なあああにをしているううう!!!」

 空気を揺るがすような大声がして、満艦飾は奇声をあげて飛びあがり、蛇崩はいいところで邪魔が入ったと舌打ちをした。廊下の向こうの向こうのそのまた向こうから走ってくるのは話題に上っていた当人だ。
 蟇郡は二人の目の前で急停止すると、どこか慌てておろおろとする満艦飾を見てからキッと蛇崩を睨みつけた。

「蛇崩!! 何か満艦飾にふきこんでいたのではないだろうな!」
「あらあふきこんじゃ悪いことの心当たりでもあるのかしら風紀部委員長? あたしはこの子が質問があるっていうからちょっと答えてただけよ。ねえ劣等生?」
「は、はいそうです!
 え、えーっと、有難うございました蛇崩先輩、それじゃあマコはガッツの散歩があるのでっ!! 失礼しましたっ!!!」

 蛇崩が視線を向けるとガクガクと音がしそうなほどに満艦飾は頷き、蟇郡が問い詰める前に風のように去ってしまった。犬の散歩とかいってたけど、いっつも放し飼いにしてるようなもんじゃない、と半目で彼女を見送った蛇崩は、さあ今度こそ蟇郡に追及されるかと彼の方を向いて、目を瞬かせた。
 本能字学園が誇る最強の盾である風紀部委員長は、目に見えて落ち込んでいた。もう少し詳しく描写すると、普段なら気迫で大きく見える彼の身体が、縮んで見えた。

「何しょげてんの、苛ちゃん。もしかして、あの劣等生に最近避けられてたりするの?」
「……そんなことはない。ただ、俺ではこたえられない質問なのかと思っただけだ」

 その返事を聞いた途端蛇崩は思わず一歩引いて、思った。あっ、こいつ、思った以上に面倒くさいかもしれない。

「ったく、ばっかねー。男子には聞かせられない、女の子同士でしかできない話もあるの。少しは気をきかせなさいよ風紀部委員長」
「む、そうか……。邪魔してすまなかったな」

 謝りつつも蛇崩の言葉にみるみるいつもの大きさもとい調子を取り戻した蟇郡を呆れた目で一瞥してから、用は済んだとばかりに去っていこうとする彼の背中に言葉を投げかけた。

「それにしてもあんな遠くからあたしと劣等生を見つけて走ってくるなんてね。アンタどんだけ視力いいのよ」
「なっ、だ、だから蛇崩、人の名前はきちんと呼べと」
「しかも、あんなに必死に走っちゃって。どんだけ大事にしてるんだか」

 振り返り、赤面して口をパクパクと動かしもはや言葉も出ない蟇郡の目を覗き込むようにして、蛇崩は口の端を吊り上げて訊ねた。

「ああ、それともそれはあの子だけ、あの子だから特別ってことなのかしら?」

 可哀想に、顔だけじゃなくて耳も身体も真っ赤にして、拳を握りしめてぷるぷる震えているこの堅物風紀部委員長様はなんて答えるやら。
 普通に「違う」ってだけ答える? それとも「あいつだけじゃない」「本能字学園の一員だから」ってあの子が満足しない答えをいっちゃう? それとも返事なんてせずにいっちゃうかしら、そのときは無言の肯定って問答無用でとらせてもらうけど。
 ねっ、どうなのよ、とせかす蛇崩に暫く蟇郡は顔を伏せて耐えていたが、突如彼女を雷が爆ぜたかのような轟音と嵐のような突風が襲った。


「そうだっ!!!!!」


 ある程度の爆音は普段楽器で慣れているはずなのだが、あまりの大音量を近くで浴びたことで反射的に飛びあがり、キィンと耳鳴りのする両耳を押さえて暫く痛みに耐える。やっと収まってきたところで文句を言ってやろうと彼の顔を見て、今しがた聞いた応えをようやく理解し彼女は目を見開いた。
 この、堅物風紀部委員長は、今、なんと。
 目の前の男は、顔を完全に伏せてしまっていたが、身体中から湯気を出していた。あんなに真っ赤だったのにあれ以上赤くなってたら高血圧とかで血管ぶちぎれてぶっ倒れるんじゃないかしらこんな巨体誰が運べるのよ、と思わず蛇崩の頭によぎる。彼は、スー、ハー、スーハーと大仰に息を吸ってはいて呼吸を整えてから、「失礼する!!」と先ほどの彼女と同じく風のように、しかし走らず早歩きでずんずんと音を立てて去って行った。
 蛇崩は暫くその場にぽつねんとつっ立って彼の背中が見えなくなるのをじっと見つめていた。
 やがて、その身体が小刻みに震えだす。

「……プッ、ひっ、も、う、だめ……!」

 口元を覆っていた手を外し、今度こそ彼女はお腹を抱えて笑い声をあげた。





 ねえ皐月、皐月ちゃん、貴女に聞かせたい面白い話があるの。腹の底から笑えるような、あくびも出ないほど王道の、全国各地の映画館で上映されていそうでいない、馬鹿みたいなラブストーリーが!








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