ベッドサイドストーリー
あのフライパンは使い込まれてて、鍛えられた鋼で出来てる。だからすごく堅くて、すごく重い。
「うおぉっこえぇ!てめぇ起き抜けにそんなもん向けんじゃねーよ!」
「うっさい!馬鹿みたいに寝てんじゃないわよ片づかないでしょ!」
重すぎて、俺はそれでフランベはできない。
フランベって、炎を巻き上げてから、お鍋を振って中の材料を絡めなくちゃいけないでしょ。
重すぎて無理なの。
ハンガリーさんはオーストリアさんに呼ばれて、プーを殴り倒す間もなくすっ飛んでいった。
「ちっ・・・・おい、新聞」
仕方なく歯ブラシ咥えて、テーブル周りのラックの、新聞を探してる。
何だろう、オッサンになると新聞が読みたくなるのかな。
俺、新聞は4コママンガのところとテレビ欄しか見ないから判んないや。
「ドイツが持ってっちゃったよ。今日は移動に時間がかかるから、暇つぶしだって。」
「あぁ!?ちっくしょヴェストのやろ〜・・・・もう少しIphone活用しろってんだ」
プーは結構デジモノが好きで、新製品とかは見逃さない。
一時期Iphoneハマってたけど、すぐに飽きて、また日本っぽい折りたたみケータイに戻した。
だからドイツのIphoneは、プーのお下がり。
色んなアプリが入ってて、すっごく便利そうなんだけど、ドイツは使い切れてないんだよね。
「ねぇ、プー。ご機嫌斜めなところ、ナンなんだけどさ。」
「ん、あ、あぁ!別に機嫌悪ぃ訳じゃねぇぜイタリアちゃん!なになに?」
「昨日のお話、もう一回してくれる?
魔物の国の王様が、最終的にどうなるのか知りたい。」
「うえぇ?マジで?いや〜やめとこうぜ、あの話、最終的には暗いんだよ。
話が盛り上がってくる前によ、大体寝ちまうから、話さないで済むんだけどよ・・・・それでも聞きてぇ?」
そうなんだ。全然聞いたことのないお話だったから、興味があったんだけどな。
そもそも、暗い話なら寝かしつけるときに選ばなきゃいいじゃん。
プーって空気読めない。
しかも、今日は麗らかなよく晴れた日。
そんなときに暗い話なんて、あんまり聞きたくないよね。
「でも、やっぱり聞きたいかも。どうなるの?王様とお姫様は、結ばれるの?」
「・・・・しょーがねーなー・・・後で文句言わねぇでくれよ。
あの後な、王は、姫を誰にも取られたくなくて、姫をさらうんだ。
姫を部屋に閉じこめて、監禁して、王は姫を助けようと立ち上がる他の国の連中を皆殺しにする。
人間では到底かなわねぇバケモンを使ってな。
そのうち王は、魔王と呼ばれるようになる。
魔王は姫が欲しいだけだったのに、そのうち家来たちが世界征服とか言い出すようになる。
そして訳が判んねぇうちに、魔王は殺されちまうのさ。
しかし人間は遅かった。勇者が姫を迎えに行った頃には、姫はとっくに婆さんだ。
勇者もこれじゃあ、助ける気にならねぇ。
そして皺くちゃババアが言いやがるんだ。
うちの旦那はどちら?
ってな。
話はそこでおしまいだ。
勇者はババアを救ったのか、それとも見るに耐えなくて殺したのか。その辺は考えてねぇ。」
「・・・・ふ〜ん・・・でも、王様とお姫様は結ばれてたんだね。
良かった・・・・のかなぁ・・・
てゆーか、考えてない、って?」
「だって全部俺が考えた話だし」
「えええええ!?」
じゃあもっと救いのある話にしてよ!後味悪いよ!
「んな驚くなよ。俺だって必死こいて考えたんだぜ?ヴェストが寝付き悪いガキでなぁ。」
言いながら、プーはタバコに火をつける。もう、何なの。
でも、ドイツを寝かしつけるために、そんな風にお話考えてたの、
それは、すごいや。
俺は元々、ベッドに入れば眠れる子だったから、実はシンデレラの結末をよく知らない。
王子様に見初められて幸せになるの、本当は、そうじゃないみたいなんだけど。
「フツーにある絵本じゃよ、ヴェスト何冊読んでも寝やがらねぇんだよ。
最大で5冊くらい読んだな。
小さいときから理屈くせぇガキだったからよ、
例えば白雪姫でよ、何で死んだのにキスで蘇るんだとか、
どーでもいいこと気にしやがって。
夜中の3時くらいになっても寝やがらねぇ。おかげで俺が寝不足って日が続いたんだぜ。
笑うしかねぇよな」
小さいときのドイツの話をするプーは、嬉しそう。
いつもは俺は、二人の中心だけど、
たまにこういう瞬間、仲間外れになる。
ちょっと寂しいな。
しょうがないんだけどね。5人とか、3人とか、奇数は、こういうものだから。
「まぁ、ヴェストも俺に似て感受性が豊かだから、普通に幸せになる話なんかは嫌だったんだろうな。
つまんねぇ、って思ってたんだろうよ。
だから俺はお話を創作し始めたって訳よ。いいだろ?
あ、女の子が主人公の話もあるぜ。今度話してやるな」
「うん!」
「ただいま。兄さんは?」
「フランス兄ちゃんたちと飲みに行くって。」
「む、じゃあ今日は二人か・・・・待たせただろう、すまんな」
「ううん、いいんだよー。俺、プーに素敵なお話聞いちゃった。」
8時過ぎ。
ドイツはいつも通り疲れた顔をして、帰ってきた。
やっぱり決まってるなぁ、アルマーニのスーツにコート。
ドイツムキムキだから、なかなかサイズ合わなくて結局お願いしたんだ。
俺の顔を見た途端に、疲れた顔は止めてくれる。今日はそれなりに余裕があるんだね、良かった。
「兄さんに?どんな話だ?」
「ドイツが小さい頃、プーにいっぱいお話してもらったんでしょ?そのうちの一つの、プーが作ったお話。」
「・・・・・あぁ、兄さんが作った話か。あれは、何というか・・・日本のアニメみたいな話だ。
どこか斜に構えているというか、正統派にはいかない、というか・・・兄さんらしい話だな。」
「そうかもねー。多分日本が聞いたら喜ぶよ。」
日本は自分で本とかも作ってて(半分は見せてくれないけど、たまに見せてくれる本はニンジャとかかっこいいんだ)、
夢の世界、ってゆーか、そういうのが好き。
そうそう、女の子が実は神様だったとか、未来人だったとか、ロボットだったとか。
そういうのが好き。
プーもそういう話大好きだろうから、盛り上がっちゃうかもね。
「そうだろうな。俺は兄さんの、ああ言う夢見がちなところはないから、兄さんの創作話はすぐ眠くなって眠れたんだ。
お前は、聞いてみてどうだった?」
「俺もすぐに寝ちゃった。でもお昼間にね、その続きを聞いたんだよ。
何かちょっといいなぁって思った。俺、そういう発想ないもん。」
「お前は優しいな。俺は大人になってから聞いたら、何を馬鹿馬鹿しい、と思って一蹴してしまったぞ」
「あ〜っひどいんだぁ。プー絶対傷ついたよ?」
「あぁ。その後はめんどくさかった。」
プーは妙に繊細なところがあってめんどくさい。
一人楽しすぎるぜって言う割に一人は嫌いだし、
一人になると後でブツクサ言う。めんどくさい。
でも、俺そんなところも好きだよ。
だって、いじりがいがあるでしょ?
「・・・・まぁ、お前が傍にいるなら、聞いてやってもいいかもな。」
「でしょ?俺、もっとお話聞きたい。」
「今日はお話ねだってみるか。子供の時みたいにな。」
作品名:ベッドサイドストーリー 作家名:もかこ@久々更新