Angel Beats! ~君と~
第52話 蒼
「お疲れですか音無さん」
ギャーギャーと騒いでいるメンバーとは少し離れた場所に結弦は寝転がり、遊佐は壁に背中を預け立っている。
「…あぁ、まあ。なんかどっと疲れが出たよ……」
「無理も無いですよね、はいどうぞ、結構癖になって美味しいですよ」
遊佐が飲んでいるのと持っているのは恐らくメンバーも飲んでいるのだろう。
それを右手で受け取ると額に爽やかな印象のある絵柄が付いている面を着ける。
「ああ、サンキュ」
コクン、と両手で持っているジュースを一口飲む。
あの遊佐が飲むという事はそれなりにウマイんだろうな、と思う。
「ふぅ……」
「?」
遊佐は疲労しているせいか頬が紅く、身体がダルくて目の前が少し歪んでいる。
一方の結弦は畳に仰向けになり目を閉じているので彼女の様子は判らない。
「音無さん、」
飲みかけのジュースを畳に置き結弦の側まで寄り正座をした。
「?」
「お医者さんゴッコしません?」
「ん………、えっ?!」
何かしらのバツゲームであり、ベターで良くあ―――
「ねぇよ!どうした!?」
寝ていた体を上半身だけ起こし、遊佐を見ると明かに普段と違う様子が判る。
それは、額から顎にかけて全体が薄いピンク色に染まっていた。
「…ふぇ?あ…れ?何で音無さんが…ひゃく、う人……?」
「どんだけ俺が居んだよ!!大丈夫か!」
「むぅ、り…です…ぅ……」
パタン、と結弦の胸に抱き付く様な感じで倒れ見事に遊佐の意識が無くなった。
「ちょっ…遊佐!?」
「お兄ちゃん!みんなのようす――――」
ついさっきまで霧島と遊んでいた初音がこっちにやって来て結弦と初音の姿を見てしまい、言葉が出ず喉に引っ掛かった。
兄としてこの状況は不味い、と顔を青ざめたが遅い。バッチリと見られてしまった。
「音無さん、みなさんが―――」
(霧島までーーーーー!!)
初音と同じく、助けを求めて来た霧島が言葉を失った。
端から観ればこうなる。
女性が男性に両方の腕を背中へと回し、気持ち良さそうに眠っている。
「「………」」
「ま、待てこれには深い訳が――――」
「…ぃ」
「え?」
「ょ…ずるいよ……遊佐さんズルいぃ!!私もお兄ちゃんにくっつくうー!!」
「へ?いや、初音ちゃんそんな場合じゃ―――」
子どもが駄々を捏ねる様に言葉を出し霧島と結弦が目に追えない速さで、どこで覚えたのか解らない野球選手顔負けのヘッドスライディングをし、ホームである結弦の脇腹に抱き付く。
絶妙に初音の頭部が結弦の肺の中身である酸素やその他もろもろの空気を絞り出した。
苦しみの声を出すも御構い無し。細い腕は優しく絡まり、それでもって頑なになり放そうとはしなかった。
初音と遊佐の腕を合わせて計四本。
剥がそうにも剥がせない。
「……う゛ぅ…で、何が、あった?皆の…何だって…?」
「あ!そうだった、みんな本当にオカシイんだよ!」
「全員が、顔が真っ赤に…なって、いまして……」
「……、もしや…!」
右手に握っている缶のラベルを良く観る。
その右下にはこう書いてある。
『アルコール度数34.8%』
ブワァ…
そんな音が聴こえ、顔から嫌な汗が浮き出て首まで滴り落ちる。
「誰だ!こんなの買ってきた奴!!お酒じゃねえか!二人共飲んでないよな!?」
「あ、私…炭酸飲料は苦手なので……お水飲んでました…」
「私もそんな気分じゃなかったから霧島さんと同じく」
中途半端な汗と寒気が同時に襲い掛かってくる。
「……だとすると…」
この、異様なメンバーの煩さは―――――
ゆりっぺ
「おるぅあああああああ!私の酒が飲めないってのか!!えぇ!!?藤巻アンタぁチンピラクセしてここでダウンか!?ぁ゛あ゛!!?野田くぅぅうううううん!?アンタも私に付き合ってくれるんじゃなかったんですか!!?今から
デートよデート!!」
藤巻
「…無理……あと俺チンピラじゃ、ない」
野田
「マジで勘弁だ…ゆりっぺ……うぅ…」
入江
「あはははははははは!いやぁ、しおりんのお腹お菓子でポヨンポヨン柔しいくて……苛めがいがあるってもんだよねぇ!おらおらおら!!悲鳴(おと)を私に聞かせて楽しませてくれよおぉお!!」
関根
「や、にゃめろん!箸で遊んじゃいけないってマミーに…にゃああああああああああ!!!!」
直井
「――――ハッ!この浮いている様な感覚―――――私は天―――」
高松
「今日は下まで脱いでやりま――」
ゆり
「止めろ!!」
ガシャーン!!
岩沢
「あ~あー…あの滝の落差のよぉーに~」
ひさ子
「やべっ……胃がイガイガする、し、あったまいってー…」
椎名・大山
「すぅ……すぅ……」
小枝
「…ぶぅー…良いな椎名さん……大山くんと一緒に寝て………私も寝ちゃうよ!」
TK
「Hey! Shall me dance little boy?」
竹山
「オーイェース!それと僕のことはクライストと!!」
松下
「俺も混ぜ―――うぅ…クラクラするぞ………何故だ…」
―――どうしてこうなった。
数分後後、全員静かになりました。
病院では、
「もう…っていうか、俺こんな時間まで居て良いもんなのか?」
「良いと思うわよ?」
「普通は駄目ですけどね。しかも消灯時間ですしね」
「駄目じゃん!!良いのか、ホント!?」
そこそこの知名度があるこの病院に、日向は堂々と病室の灯りを点けて居座っていた(お泊まり経験あり)。
「あの表紙絵の人って小枝さんのお母さんだっけ?」
初音より小さく下手をすれば小枝は小学生として見られるかもしれない身長と顔を持ち合わせ、更にはその母親と来たものだ。
蛙の子は蛙の子、まさしくこの言葉が当てはまった。
「え? ああ、そうだよ。俺が小学生の時会ったことあんもん」
「へー……遺伝って怖いもんですね先輩」
「だな」
二人は何気無くユイの母親の胸を見た。
ここにもそう言えば居たな、と。そして今にも溜め息が出そうだった。
「「……」」
「あらあら、今何処見たのかなぁ? かなあ?」
「いだだだだだ!!! イタイイタイお母さん!! いだだだだだだだだぁ!!!」
「ぶわ゛ば!!? あぎょぽぶぇぼぅぽぺぼ!!!(うわ!!? あご取れる取れる!!!)」
「これでもちゃんとおっぱいあげていたんだけどねー……。ユイ…覚えてるかしら?」
「あだだだだだだ!! ごめあだだだざい!!!覚えてまあだだいたああああああああい!!!!」
その真意に気付いた覇者は細い両腕を駆使し、ユイの頭に握り潰さんばかりのアイアンクローを、日向の顎に砕かんばかりの力で捕獲した。二人の顔は痛みと恐怖で歪まされていた。
「これで全員か……申し訳無い、俺が……まさかアルコール入りとは判らず…」
畳で寝ると風邪を引いてしまう恐れがあるので全員に毛布をかけるとケンは謝った。
材料の買い出し次いでにジュースを買ったのが失敗だったのかもしれない。ちなみにこう見えて十九歳だ。
「いや…、年齢確認しなかった店員がいけないだろ…」
作品名:Angel Beats! ~君と~ 作家名:幻影