Dear
そこから先、ミクねぇを守る役目を誰かに渡す事になるのは悔しいけど・・・
そこまで一緒にいて、守らせてくれた事にすっげー、感謝してる
それでさ、できればミクねぇが高校を卒業するまでには答えを聞きたいけど・・・そこで答えが出せなかったら、いつでもいい
俺はいつまででも待つからさ
ところで、部活の調子はどう?
ミクねぇが歌ってるところ、早く見たいんだけどなー
早くでっかい舞台でさ、俺も呼んでくれよ。楽しみにしてんだからさ!
じゃ、最後になるけど改めて・・・誕生日おめでとう
レン』
一緒に受け取った小さな箱を開ける。
そこには、とてもシンプルな、銀色に光る指輪が一組。
寄り添うように並んだ指輪の、一回り小さい方を取り出し、左手の薬指に嵌めてみた。
ぶかぶかだった。
きっと、私の指がここ一ヶ月近くで細くなってしまったからだろう。
それがなければピッタリだったかもしれない。
「はは・・・もう、要らないって言ったのに・・・いつの間に用意したのよ、指輪なん
て・・・しかも、私が答え出す前からお父さん、説得してたらしいじゃん・・・諦める
気、なかったんじゃないの?・・・ほんと、どんどん進んで行っちゃうんだから・・・
困った弟だよ、まったく・・・ほんとに・・・返事・・・できないじゃん・・・」
手紙を読んで、レンが私にくれた最後の言葉の意味、全部わかったわけじゃなかった。
それでも、私の心は溶けて行った。
レンが居なくなってしまって止まってしまった私の時間を、この手紙がまた動かしてく
れたかのよう
この夜三度目に流れ出した涙は、一番長く、一番激しく・・・夜が明けるまで止まるこ
とがなかった。
卒業式を終えた私は、一人でレンのお墓の前に来た。
友達の誘いをすべて断り、家族にも先に家に帰ってもらって一人で来たのには、一人で伝えたい事があったから。
「大学・・・卒業したよ。もう、五年も経ったんだね」
姿は見えないが、きっとそこにはレンがいる。そんな気がした。
「私だけどんどん老けていっちゃうなぁ・・・一緒に大人になるはずだったのにね」
苦笑いのレンの姿が思い浮かぶ。
「それでさ・・・遅くなっちゃったけど、あの時の返事・・・今、しようと思って。ようやく、なんとかレンに見合うくらいに強くなれたと思うの。今の私ならきっと、レンに守られるだけじゃなくて、守れるくらいに強くなれたと思う」
手に持った小さなポーチの中から、二つの指輪を取り出す。
そして、一回り小さい方の指輪をそっと、左手の薬指に嵌めた。
あの時、やせ細った私の指にはブカブカだった指輪は、今の私の指にはぴったりだった。
少しの間指輪の飾られた自分の左手を眺めていた。
そして、指輪が目の前のレンにも見えるように、その手を顔の前まで持ち上げる。
「どう?似合うかな?私は結構気に入ってるよ」
少し照れくさくなって顔が赤くなったけど、それよりも嬉しかった。
ちゃんと自信を持って、レンの前でこの指輪をつけれることが。
そして、残った少し大きめの指輪を右手でギュッと握り締めた。
「レンの希望通りのやり方じゃないけど・・・これが私の返事。ほんとに、こんなに遅くなってゴメン。もっと私が強かったら・・・レンみたいにいられたら、ちゃんと生きれる時に言えたのに・・・結局、自分の気持ち、レンに直接言えなかった。でも、今、伝える。もう手遅れかもしれないけど・・・直接私の気持ち・・・ずっとずっと言えなかった気持ち」
目を閉じると、金髪の少年が浮かぶ。
その少年は、ずっと私を守ってくれて、ずっと私を好きだと言ってくれて、突然・・・いなくなった。
私はずっと、その少年を忘れる事ができない。
この先もずっと、私の中から消える事はないと思う。
だから、この言葉を君に、贈ろうと思う。
「君の事ずっと、愛しているから」