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田舎のおこめ
田舎のおこめ
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Dear

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その一言しか出てこなかった。
私が部屋に篭って、一歩も動かないで立ち止まっている間も、姉は前を見ていた。
やっぱり強いな。自分の非力を認めて、その上で頑張ろうとするのって、生半可じゃないと思う。
私は、自分を見る事も拒否してた。
思わず、そんな姉への憧れが言葉として零れる。
「・・・やっぱりすごいな、ルカちゃんは。前に進んでる。考える事もできない私とは違うな。レンの・・・最後の一言の意味も・・・未だに分からない・・・」
話ながら自然と涙が頬を伝う。
その涙を指でそっと拭いながら姉が優しく聞いてくる。
「もし、言えるのなら・・・ミクが言うのを嫌じゃなければ、教えてくれる?レンが、最後に、ミクに言った事を」
その優しさに甘えるように、頼るように、初めて自分以外にレンの最後の言葉を伝える。
「レンは・・・最後に『いままで、ありがとう』って・・・私にはその意味がわからないの。私はレンから『ありがとう』って言われる事、なんにもしてない。なんにもしてあげれてないのに・・・なんで最後に・・・笑いながら・・・」
ここまでが限界だった。
言葉は、この夜二度目となる嗚咽にかき消された。
俯いて涙を流す私の頭に、そっと手が置かれる。
まるで、幼い子供をあやす様に優しく、優しく撫でられる。
「そう・・・レンの最後の言葉は、それだったのね」
頭を撫でる手は止めずに、姉は続ける。
「わからないね・・・なにを思ってミクにその言葉を伝えたのか、多分誰にも分からない。レン本人にしか分からないんだろうね」
「でも・・・きっと誰にも分からないだろうって言うのは分かるんだけど、それでも考えちゃう。レンの気持ちに、正面から答えれなかった私に、なんで・・・ありがとう、なんて・・・」
ずっと溜めていたもやもやを吐き出すようにつぶやく。
考えても考えてもわからなくて、レンの最後の言葉なのにその意味がわからない自分が悔しくて・・・自然と指に力が篭り、なにも掴めない手のひらを握る。
ふっと、頭を撫でていた手のひらが離れる。
思わず姉の方を見ると、「ちょっと待ってて」と言って駆け足で部屋を出て行った。
なぜ突然姉が部屋を出て行ったか分からず呆然とする。
そして、一人になった部屋で少し寂しさがこみ上げてきた。
ずっと一人で閉じこもっていたのに・・・少し姉と話していただけで、寂しさを思い出した自分に驚いた。
姉は本当にすぐ帰ってきた。
その手には、小さな箱と一通の封筒を持っている。
「お待たせ。これ、いつ渡そうか悩んでたんだけど・・・今、渡すことにした」
そう言って、手に持っていたその二つを私に渡してくれた。
「ルカちゃん・・・これは?」
「レンの・・・机に入ってたの。二週間くらい前に、この部屋を整理した時に見つけたみたい。もともとレンも今日渡すつもりだったはずだし、ようやくミクと話もできたし・・・今日が何の日か、わかる?」
姉に言われて考える。
そういえば今日は何月何日だろうか?
ずっとカーテンも閉めた暗い部屋にいて、誰とも話もしていないから曜日感覚どころか、日にち感覚すらも分からなくなっている。
混乱して答えに詰まっていると、やっぱりっと言った顔で姉が教えてくれた。
「今日は・・・8月31日よ」
「・・・え?今日が?」
思わず声が出た。
だって、8月31日。今日は・・・
「そう。今日があなたの誕生日よ。18歳、おめでとう」
そう言って小さな拍手を贈ってくれた。
私の・・・誕生日・・・
気が付けば、あの日からもう一ヶ月以上経っていたらしい。
自分の思った以上の時間が流れていた事に衝撃を受けたが、同時に今私の両手にある物が気に掛かった。
「レンが・・・これを今日・・・?だって、誕生日はいらないって言ったのに・・・」
その時のレンとのやりとりを思い出す。
私は「いらない」と言ったが、確かレンは「適当に用意する」みたいな事を言っていた気がする。
本当に用意していたなんて・・・
「最初は、父さんが机の中から見つけたみたい。で、なにか分からないから封筒の中は読んじゃったんだ、ゴメンね。で、読んだ後に無言で封をし直して私に渡してきたの。『僕とメイコは、仕事もある。今一番ミクを見ているのはルカだろうから、ルカが大丈夫だと思うタイミングでミクに渡してあげてくれ。中身は・・・誕生日のプレゼントみたいだ』って言ってた。だから・・・今日ミクがこの部屋に来て、話が出来て・・・それで、今しかないかなって思ったの」
ほっとしたように姉は言った。
「ミクが、探してる答えが・・・もしかしたらあるかもしれない。少なくとも、どうゆう気持ちでレンがそのプレゼントを用意したのかは、きっとわかるよ」
突然のプレゼントが出てきて驚いたが、姉の言葉にハッとなり、震える手で封筒の封を切る。
最後だと思っていたあの言葉以外に、レンの言葉が残っていた。
レンが残してくれていたこの手紙に、少しでもあの時の言葉の意味が分かるヒントがあるかもしれない。
いや、それ以上にもうないと思っていたレンからの言葉を読むことに、心はいろいろな感情で暴れていた。
手紙を開くと、そこには間違いなく、レンの字がしっかりと書いてあった。

『ミクねぇへ
 18歳おめでとう!
 ミクねぇは、「プレゼントなんていらない」って言ってたけど、やっぱりそう言うわけにはいかないなって思ってさ
 サプライズのプレゼントついでに、手紙も書いてみました
 18歳ってなんとなく、特別かなって思うし
 18歳になってミクねぇはもうすぐ、高校を卒業して大学に進学する
 その前に、やっぱりハッキリさせておきたい
 俺はミクねぇが好きだ
 もちろん、姉としてじゃなくて女性として
 事ある毎に言う【愛してる】は、本心からの言葉だから
 血の繋がった姉弟って言うのは、やっぱりでっかい壁なんだと思う
世間の常識って言うのは、やっぱりそれが当たり前のことで、一番自然な事だから常識って言うんだって感じる
 でも、気づいたときには好きだったミクねぇを、今更そんな当たり前の常識で諦めたりはできない
 だから、俺が諦めるかどうかはミクねぇが決めて欲しい
 中学の時はああやって言ったけど、やっぱり姉弟って事が辛いなら。それが原因でミクねぇが笑っていられなくなるなら、ミクねぇには普通の恋愛をして欲しい
 普通に他の家の男の人と恋愛して、普通に結婚して、普通に子供を作って、普通に歳を取って行って・・・普通に幸せになって欲しい
 なによりも、ミクねぇが笑っていられることが大事だから
 一応、父ちゃんと母ちゃんに関しては俺が説得するよ
 俺が20歳になる時に、ミクねぇと2人で暮らせるように交渉する
 だから、父ちゃんと母ちゃんの事は気にしないで
 ミクねぇが、自分の気持ちと将来を考えて決めてくれ
 それで、もしミクねぇが俺と一緒にいてくれるなら・・・覚悟してくれるなら、今日贈った指輪の片方を、俺に返してほしい
 そんで、もしダメなら・・・普通に暮らして生きたいって思うなら、指輪を両方返してくれたらそれで・・・諦めるから
 それでミクねぇを責めたりも、絶対にしない
 今まで一緒に居られただけでも幸せだったんだから
作品名:Dear 作家名:田舎のおこめ