小さな暖かさ
「この子はアビシニアンかその長毛種のソマリなのかもしれないな」
「じゃ、血統証付きって事?」
私の言葉に驚いた様に振り仰ぐ彼の表情は、とても三十路を超えたと思えない少年ぽさがある。
「かもしれないと言う事だ」
「じゃあ、本当の飼い主が探してるかもしれないな」
「いるならどうするね?」
「返してやるさ。きっと心配してる」
「ならば、捨て猫だったなら? 君は飼うのかね?」
そう問うと、彼は猫へと視線を戻した。
「……こんなに小さな生き物を、無事に飼えるかどうかもわからない俺たちが飼い主になっちゃいけないと思う。誰か死ぬまで可愛がってくれる人に貰ってもらう方が、この子の為だと思う」
「………そうか」
「うん。…それに」
「それに? 何だね?」
「やっ! 何でもない!!」
彼は慌てふためいたように私の腕を外すと、自室へと走り去った。
その瞬間に伝わってきた彼の心情に、私は脂下がる表情筋を締める事に四苦八苦したのだった。
どうやら私達は、互いに互いを独占していたいと思っていたらしい。
宿敵として戦い、命を欲し続けたのは、私が彼の唯一の相手となりたくてなれなかったジレンマが起こさせた事だと思ってきたが、こうして過ごしているうちに、彼も私を唯一の相手と思ってくれ始めているのだ。
小さな温もりが、幸福への変化もきっかけを与えてくれた
そんな、初春の雨の日だった。
2014.02.24
因みに、その後
猫は、ミックスだが綺麗な緑の瞳で、「ララァみたいだね」とアムロが笑ったり
猫が街中の一人暮らしの裕福な老婦人に貰われて行った縁で、度々その老婦人とお茶会をするようになったりと、救った猫がシャアとアムロに自宅以外へ出る機会を与えたりするのだが、それはまた、別の機会に。