ウワサの真相
「なんや、あの2人だけじゃなくて沢田まで・・・知らんかった」
タケシも絡んでいたと知り早田はさすがに驚きを隠せなかった。
外の雨は更に激しくなり、時折雷鳴が響いている。
「・・・ああ。だけど日が経つにつれてもうそのことは考えないことにしたんだ。
なんだかんだ言ってあいつらは選手としては本当にすごいものを持っているからな」
「まあ、高校に上がっても奴らと一緒やし、試合とかもこなさんとあかんしな」
早田はやや気の毒そうに反町を見た。
それを見て反町は少し微笑んで言った。
「でもさ、卒業した後はあいつらの関係に動きがあったんだ」
「ほほう」
「まあ、俺達浪人してワールドユースに専念する頃からだな。若島津はさっさとプロ入りしたし」
「せやな、追いかけてしかもタイガーショット放った日向を振りきって行ったからな」
「あれもちょっと理由があってだな・・・」
「へ?若林の噛ませ犬扱いが嫌やったからやないの?」
皆の認識している若島津離脱の理由は若林との待遇の差であるといったものだった。
それ以外に理由があるのか?早田はまさかと思い訊いた。
「もしかして・・・いわゆる愛憎のもつれか?」
「まあ、そんなところだな」
「具体的にどんなことなんや?」
どういう理由で当時この2人はこじれたのか早田は興味津々だった。
「あの当時、しばらくあいつらの部屋から言い争うような声が聞こえてきたんだ。
内容まではよくわからなかったけど・・・」
「ほほう」
「例の若林がらみで日向と相談してたみたいだけど、どうも日向のほうが
なんか若島津の逆鱗に触れるようなことを言ったみたいなんだ」
「どんなこと言うてたかわかるか?」
「そうだな・・・」
反町はなにか思い出そうと当時を振り返った。
「あ、そうそう、はっきり覚えてたのは若島津の『あんただけは俺のことをわかってくれると思ったのに!』だったな」
「あんただけ、でっか・・・」
「ああ、たしか日向の方は『お前も若林を見習えよ』みたいなことを言ってたんじゃないかな」
「日向は女心・・・いや、アイツは男やけどホンマそこら辺に鈍いヤツやからな」
早田はため息をついた。
日向の配慮の無さが結果として若島津の脱退を後押ししすることになったのだ。
反町もそれにうなずいた。
「プロに行った後若島津から何度か連絡もらったことあったけど、しばらく日向の話をさせてくれなかったもんな」
「それ、ホンマ相当やったんやな」
「でもまあ、そのうちプロでの活動に忙しくてそれどころじゃなくなってたけどね」
「それ今になるとホンマようわかるわ」
プロでの選手活動は今までと違い、活躍の有無が自分の稼ぎに直接に響くので本当にシビアである。
早田と反町の2人もそれを肌でひしひしと感じていた。
「そして、お前も知っているだろうけど、日向の彼女」
「あー、沖縄のソフト選手やね」
早田も知っていた日向の沖縄の彼女、赤嶺真紀とはこの頃に出会い今でも日向と交際している。
タケシとも親しく家族ぐるみの付き合いで、だいぶ仲が良いが不思議なことに恋人といった感じがしない。
当然松山や三杉と違って結婚に関する話なども聞いたことがない。
「あの子と日向は恋人といった感じがせえへんよな・・・若島津ほどは」
「お前もそう思うか。あれもさ、若島津とこじれしかも代表から外されて踏んだり蹴ったりのときに
たまたまいたってのもあったからな・・・」
「せやけど、今あの2人はなんだかんだ言いながらまた仲良うしとるやんか。
若島津もFWやるようなったし。でも彼女とは続いとるんやろ?」
「まあ、別れる理由もないしな。それに、むしろ都合がいいじゃないか。カムフラージュとしてさ」
確かに、正直な話男同士より男女の恋愛のほうが世間体が保てることは否定のしようがない。
だが、早田は疑問に思った。あの恋愛に不器用な日向が若島津と彼女との二重交際が保てるのか?
「ホンマに、カムフラージュなんかな・・・アイツにはそういうの正直無理やと思うけど」
「いや、俺も日向がそんなことができるとは思っていない」
「なら、どっちかしかにか行かへんやろ。むしろ彼女をそのうち捨てるか、その逆かのどちらやろ」
「違うんだ。これは日向だけでやっていることじゃない」
「へ?!」
日向に誰かが入れ知恵しているのか?
しかし今までの話を聞いた早田の頭には間違いなくあの人物しか浮かばなかった。