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リバース・エンド

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第二章 罪は消えない 5(12話)


 私は王女でした。それ以上でも、それ以下でもなく。王女であり、夢見る少女でしかなかったのです。

 ただ、毎日与えられた砂糖菓子のような日々を甘受し、全てを充実して生きていました。私はこの国は平和なものと信じて疑っていなかったのです。

 ある日ルークと言葉を交わしました。それは、数年ぶりのものでした。ガイも何も言わず、冷たい眼差しも向けず、ただ静かに彼の傍に携わっていました。

 私はそれが嬉しくて、彼と会話がしたくてたまりませんでした。ただ、彼に以前の彼を求めればガイが睨みつけてくることはさすがに身をもって学んでいるので口にはしませんでした。ですが、国の未来、しいては自分達の未来について語る分には問題はないようです。

 先日、私はお父様と城下へ訪問に行きました。初めての、訪問でした。訪問は王族としての大切な仕事だと家庭教師や家臣たちに聞いていたため、私はそれが嬉しくて仕方がなかったのです。国の姿を見て、国民を励ますという勤め。自分が王族として認められたと思えたのです。

 私は15歳、ルークが14歳のことです。


「それで私、初めて国民たちを身近で見たのですが、みんな私達を慕ってくださっているのがわかりまして、嬉しかったですわ。国を創り上げてる国民を知ることができて、とても貴重な経験でした。」

「ふーん。そうなのか。」


 ルークは不思議そうに、相槌を打ちました。彼は外の世界を知らない。だからこそ、私は自分が見たことを伝えようと思ったのです。


「なぁ、ナタリア。やっぱりそれって、天空滑車で街にまで下りるんだよな?」

「ええ、そうですわ。それがどうかしまして?」

「なら、どこまで下りたんだ?」


 おかしなことを聞くものだと、少しばかり思いました。ですが、ルークは外を知らないから、些細なことでも聞きたいのだろう。私はそう思ったのです。


「たしか、バチカルの中層部分でしたわ。みんな、私たちに会うために、わざわざ訪問のルートの周りに集まったと、近衛の者がおっしゃっていましたわ。」


 そして民達はおっしゃりました。今の生活に不自由はないが、不安はある。それは様々な意見がありましたが、一番多かったのは将来のこと。


「生活には不自由はないようでしたが、やはり先行きが見えないのは不安なのでしょう。預言だって、全てがわかるわけじゃありません。ですから、私は医療福祉に力を入れるよう、今度議会に提案しようと思いますの。実際、第七音素譜術士は数が少ないですし、治癒士はことさら。ですから、そこを補うことが必要だと思いますの。」

「なぁ、それで本当に国のことがわかったのか?」

「えっ?」

「中層ってことは、貴族や富裕層の住む場所だよな。そこしか見てないのに、なんで国民が何不自由なく暮らしていると思えるんだ?」

「なぜって、実際この目で見てきましたもの。それに皆、生活が豊かなのはお父様を初めとする王族のおかげだと。」

「貴族が何不自由ないのは当たり前じゃないのか。だから貴族じゃないのか。貴族以外は、どのような生活をしているんだ?」


 それが知りたいと、ルークの眼差しは語っていました。言われて見れば、たしかにそうです。ですが、私は周りから言われたことを当たり前に受け止めていたのです。


「国を創り上げているのは国民がいるからだって、ナタリア言ったよな。」

「ええ、言いましたわ。」

「なら、国民の大部分を占める貴族以外の生活に、耳を傾けなきゃいけないんじゃないか。俺は何もできないけど、でも俺が安心して暮らせるのは国の税金が父上の収入になるからだし、貴族だけの意見を取り入れるなら、議会でいつだってやってることじゃないのか?」


 その言葉に、私は反論できませんでした。たしかに貴族も国民にあることは変わりありません。ですが、貴族や富裕層は、国民のほんの僅か一握りであることを、理解しているようでしていなかったのです。

 ルークが言いたいことがわかったのです。私は、国の、国民のほんの一部分。それも綺麗な部分しか見せられていなかったのだと。

 そして私は知ることになりました。国民は、決して裕福な生活をしていないこと。キムラスカとマルクトの危険な状態にあることなど。

 それを主張するかのよう、その年、敵国の皇帝が崩御し、新たな皇帝が即位しました。ピオニー・ウパラ・マルクト九世。これが預言に詠まれる最後の皇帝だということを、私は知りました。

 私は今、色々なことを知りました。同時に、この国を立て直さなくてはいけないとも考えています。そのことをルークに告げたとき。彼は笑ってくれました。私はその笑顔を見て、胸が締め付けられる思いでした。以前の彼は、このように笑ってはくれませんでした。でも、民のことを思う気持ちは、以前と変わっていないのです。

 本質に、気づき始めたというべきでしょう。私は、何も知らない。綺麗な物しか知らなかった。そしてそれを知った時、ガイの眼差しが少しだけ、本当に少しだけですが優しいものに変わりました。それは、ガイが多少私を認めてくれたということでしょうか。

 私は今、ケセドニア北部の戦場に慰問に来ています。マルクトは今、新しい皇帝になり変わろうとしています。ですが、この戦場は、以前と変わらないものなのです。国民たちはずっとずっと、このような戦に身を投じてきていた。私は今、本当の国の在り方を見ている。

 これが砂糖菓子のような生活から、はじめて踏み出した本物の王女の姿なのでしょう。御伽噺になぞられた、飾り物のような甘い姿などではありません。気高き蒼い血を引く、王族としてのはじまりなのです。

 でしたら、このはじまりは必然なのでしょう。私が王女としての、はじまりならば。
作品名:リバース・エンド 作家名:三咲 鈴