学パロ普独
お前の方が、続けたかった言葉は口には出来なかった。
そんなことを言えば、この生真面目な弟は困ったような顔をして、長々と説教をしてくるに違いないのだ。
兄の心、弟知らずだぜー!心の中で涙を飲んで、ギルベルトは笑った。
「そんなのより、俺様腹減っちまったぜ!!今日の晩飯当番はルッツだったよな!今日の飯なに!?ホットケーキか!?」
「ホットケーキは晩飯にするようなものじゃないだろ…全く…」
最後に一度、兄の手を小さく撫でてルートヴィッヒはその手を離した。
その温もりが失われてしまわないうちに、硬く握り締め、ポケットに突っ込み、もう片方の手でギルベルトは弟の肩を叩いた。
「じゃあ何か食材買ってかえろーぜ、ルッツ!」
「ああ、そうだな、なあ兄さん」
「ん?」
「今夜、夕食を食べたら…少しでいいんだ、フルートを吹いてはくれないか?」
「ん…」
どうやらルートヴィッヒはまだ自分を吹奏楽部に戻す説得を諦めてはいないらしい。
おそらくフルートを吹かせ、それを褒めちぎった後で部へ戻ることを薦めてくるのであろう。
そんな魂胆を見抜きながらも、ギルベルトは笑っておう!と頷いた。
「お前だけのための俺様ワンマンショー開いてやるぜ!」
「楽しみにしている」
ギルベルトはルートヴィッヒを愛している。
それが兄弟をいう枠を超えているのかどうか、それはまだ自身でもよくわからない。
ただ、長い間求め続け、ようやく再び手に入れた最愛の弟を今はただ大事にしたいのだ。何よりも。全てを捧げてでも。
何よりもルートヴィッヒを優先したいと思う一方で、これだけは譲れない願いなのだ。
(だから部には戻らねーけどな!)
ワンマンショーの後、どうやってのらくらとルートヴィッヒの説得から逃げるか、考えつつギルベルトは鼻歌を口ずさんだ。
とにかく今は、二人で家路を辿るこの時間が愛しかった。
おしまい