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【弱ペダ】ぼくのすきなせんぱい

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 呆れたように溜め息を吐いた巻島は、ずらりと商品が掛けられた棚から何枚かレーシングパンツを取って、見易いように並べてくれる。
「なんかメーカーの指定はあるのか?」
「いえ、特には」
 一着目は寒咲自転車店で適当に手に取ったものだ。サイズが合ったからそのまま着ている。メーカーがどこだったのか、何度も穿いているのにいまだに良く判らない。Cから始まったような……? そもそも服にはさほど興味も拘りもないので、なんでも良い、と言うのが本当の所だ。
 玉虫色の髪をした先輩は、ふぅん、と呟いて、坂道のものを見ながらも、自分でも気になる商品をチェックしたりしている。
「あ、今は夏物しかないショ。冬はまた冬で買いに来いよ」
 ハイ、と頷いて巻島の姿を眺める。流石にもう二年も部活で乗っているだけあって、自分には何をチェックしているのだか判らない部分を見たりしている。今自分が右手と左手に一着ずつ持っているパンツは、それぞれどの辺りがどう違うのだろう? 長さは『ロング』と言われた長い丈で一緒だ。今穿いているものがロングだから、何となく親近感が沸く。さて他には? メーカー? 値段? 坂道は手にそれぞれパンツを持って目の前で翳して、困り果てる。
 好みとか言う前に、どうやって決めたらいいのか全然判らない。折角付き合ってもらってるのに……。
「アンダー穿くか?」
「あんだー……?」
 ハーフと言われた位の丈のパンツを掲げて見せる巻島の言葉に、きょとんと答えて、相手が訝しげな顔になったのに気付く。
「あっ、あんだーですよね。穿きます。ハイ! それで、こっちを試着してみようかと……」
 判らないなんて顔をしていたら、怒られる。いや、巻島の時間を削ってもらっているのに申し訳ない。適当に答えて右手に持っていたパンツを掲げた。
「そんな重ねて穿いたら、ムレるっショ」
 巻島が呆れたように呟いた。勿論意味が判らないので、はぁ、としか答えられない。巻島が手にしたパンツをひっくり返して、クロッチの部分を指す。
「これ、レーパンに必要なパッドショ」
 もこもこと盛り上がったクッションのようなものが縫い付けられている。言われてみればそのデコボコが股間から臀部にあたるような配置になっていた。しかも、パンツそれぞれで微妙に配置や大きさが異なる。余計にどれがいいのか判らない。
「これがあることで長時間乗っててもケツが痛くならねぇ」
「はぁ」
 長い時間ってどのくらいだろう。普通のジャージで走っていた頃を思い出してみる。放課後の部活で練習している位でも、確かに多少は痛くなった。だけれど、パッドが必要なほどなのだろうか。今のレーシングパンツにも確かにパッドがついているが、あまりその恩恵を切実に感じたことがなく、今一つピンとこなかった。そもそも微妙に歩きにくくて、必要なのか? と毎度疑問に思うのだ。
「ステージレースなら、朝から夕方まで座りっぱなしショ」
「そんなに!?」
 思わず素っ頓狂な声を上げた。まさか、である。
「まぁ、好みだが普通はこのレーパン一枚で直に穿くショ」
 坂道は思わず目を剥いてしまう。直穿きするものだったのか。他の人の着替えを見たりもしなかったし、気づかなかった。
「人によってはアンダーを履くヤツもいる。アンダーにパッドがついてて上のレーパンはねーほうがイイっつーヤツもいるし、アンダーはパッドなくてもイイっつーヤツも居る」
 レーシングパンツにもアンダーにもパッドを重ねたいと言う人は少なくとも聞いたことがない、と巻島が呟く。はい、と小さく返事をした。判らないことを見抜かれただろう。恥ずかしさで顔が熱い。
「ケツ、痛かったか?」
「え?」
 聞かれたことが判らなくて思わず聞き返す。
「サドル、結構カテーからな。イテーなら二枚重ね履きするのも手ショ。あ、皮膚保護のクリームも知らねーか」
 がりがり、と巻島が苛立ったように舌打ちした。そんな顔を見て、なんだか自分が情けない気持ちになってくる。
「あ……、あー。ま、最初は誰でもわかんねーんだから、遠慮すんな」
 気まずそうに巻島が顎を掻いた。こっちこそ、気を使わせて申し訳ないくらいだ。
「ワイなんか、ケツの皮三度くらいむけたでー」
 かっかっか、と鳴子が笑いながら坂道の肩をばしん、と叩いた。シャツは見終わったらしい。脇に何枚も抱え込んでいる。
「クリームなんぞ知らへんかったからな。ケツ血まみれにしとったら、どこぞのオッサンに教えてもろうたわ」
「殻ついてるクセに、皮剥けるのか」
 ぼそりと今泉が呟いたのを鳴子は聞き逃さなかった。
「ひよこか! って、そりゃちんまい頃の話や! 今は流石にせぇへんわ」
 二人して何枚もシャツを抱えながら、掛け合いをしている。なんだかんだと譲らない二人が合流して、明らかに雰囲気が和らいだ気がする。巻島さんの困ったような顔も、もっと面白がるような柔らかい顔になっていた。
 僕じゃこんな顔はしてもらえない。しゅんと縮こまりたくなる。
 なんだか迷惑をかけてばかりだ。
 同じく山を登るのが好きだって言う共通点もあるし、個人練習は巻島さんと一緒のことが多い。はっきり言って尊敬しているし、格好イイし、早く追いつきたい。認めてもらいたい。
 けど、自転車に乗っていない時の僕には、いつも困ったような顔ばかりしている。
 僕は巻島さんのこと好きなのになぁ。
 ふと自分の思考に流れた言葉に引っかかる。あれ?
 自分は今何を思った?
 全身の血が一旦引いた次の瞬間、奔流のように一気に体中を駆け巡ったような気がした。かっと顔が熱くなって、胸が自分でも判るくらい早くなる。うるさいくらいにど、ど、と音を立てて血が全身に押し出されていく。どうしよう、顔が熱い。同時に頭の毛穴がぶわっと開いたような気がして、汗が噴き出して来る。
 ぼく……。そんなまさか。
「小野田?」
「小野田君? なんや、顔真っ赤やで?」
 どした? と巻島が額に触れる。その手が大きくて熱くて、体がびくりと跳ねた。
「わぁーっ!」
 坂道の声に巻島が驚いて手を退けた。他の客や、店員が何事かと坂道の方を伺う。まずい、僕完全に不審者だ。と言うか、皆も巻き込んでしまう。
「あっ! あのっ! ぼく、まき……、じゃなくて、ぼーっとしてて、ちょっとびっくりして……っ! あっ! あー! 折角色々教えてもらってるのに、ぼーっとしたなんて、すいません! あの、いろんなものがあってですね、ちょっと頭が追いつかなくなったって言うか。少し整理していたと言うかっ……」
 上手い言い訳も浮かんで来ないまま、口が勝手に動いて手を振り回した。もう自分で何を言っているのかも判らない。あわあわと慌てる坂道の背中を、巻島がぽん、と叩いた。その感触でやっと止まる。僕、なにしてんだろ。
「小野田君、エライマシンガントークやな」
 鳴子が笑ったが、彼の言葉にも上手く笑えない。普段なら彼が笑い飛ばしてくれることで、気持ちが軽くなるのに。
「……ぼく、これ試着してきますね」
 試着室に向かおうとする坂道の襟首が掴まれた。
「ぐえっ!?」
「お前にゃデカイっショ、それ。Sから試してみな」
 手にしていたパンツを巻島が取り上げて別の物を乗せると、肩をぽんと叩いた。