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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 17

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第62章 破壊神デュラハン


 マーズ灯台が灯り、火のエレメンタルの上昇、更に世界の四つの灯台全てが灯ったことで、プロクス地方の寒波は去っていた。しかし、今、このマーズ灯台を舞台として、大寒波よりも恐ろしい存在が襲来している。
 一時は晴れ間を見せた空が、雪雲とは違う漆黒の暗雲に支配されていた。それは、悪魔デュラハン、破壊神、大悪魔。様々な呼び方があれど、彼の者の再臨がもたらした災厄であった。
 デュラハンが封じられていた、暗黒の世界とウェイアードとを結ぶ門であり、開く存在であり、また、楔のような役割を果たしていた漆黒の鏡は、自らの役目を果たしたと察したかのように、粉々になり地に落ちていった。
 鏡という楔が壊れ、暗黒の世界への門は抑止力を失い自然と閉ざされていく。人が一人通れるほどだった大きさの入り口は、だんだんと人の顔ぐらいに縮み、ついには針の穴ほどとなり、やがて完全に閉ざされた。
 暗黒の世界が閉ざされた事により、周囲は幾分明るくなった。それでも、空は依然暗雲に閉ざされたままである。
 デュラハンを被っていた黒い何かは、砂のようにサラサラと風に流され落ちていった。全てが黒かったデュラハンの真の姿が明らかとなる。
 巨躯を持ち、胴体だけでも人の数倍もの大きさを誇っていた。全身を藍色と金のまだら模様、裾がギザギザの緋色のマントが付いた鎧に包み、右腕には白い両刃の剣を持っている。
 そして、この悪魔には常軌を逸した特徴がある。胸の上、あるべきはずの所に、それはなかった。
「首が、ない……?」
 誰が口にしたのかは分からなかった。しかし、デュラハンという存在を知らぬ者ならば同じ事を呟いてしまうことであろう。
「デュラハン様……!」
 シレーネはいち早く、デュラハンの元へ行き、餌をねだる子猫のように、その身を藍の鎧に擦り付けた。
「久しいな……、シレーネよ……」
 首から下が存在しないデュラハンはどこから声を発しているのか。誰にも分かりかねたが、その声音は大悪魔、破壊神と称されるに値するどす黒いものだった。
「シレーネよ、我が封じられてから、この世界では幾星霜が過ぎたのだ……?」
 デュラハンは身を擦り付けるシレーネを抱き寄せ、訊ねた。
「十六年の月日が経ちました。されど、このシレーネには、この時は数百、数千年よりも永く感じておりました……。我が君、私は再会できたことを、何より嬉しく感じる思いにございます……」
 シレーネは相変わらず感涙を流していた。
「そうか……、我も暗黒世界にて過ごしてきた時は、万年の永きに感じていたものよ……。そう、イリス、貴様を討つ一心でなぁ!」
 デュラハンはシレーネを抱き抱えたまま、イリスに向かって剣を振るった。イリスは難なく翼により刃を防ぐ。
「イリスよ、我を封じた貴様は憎い。だが、貴様のその力には興味がある。天界最強の神と謳われる貴様の力を手に入れたい」
「何を世迷い言を……! デュラハン、確かに私は十六年前に、あなたに消されかけましたが、今の私をあの時の私と思わないことです。今度こそあなたを葬り去って差し上げましょう!」
 イリスは虹色の波動を纏い、デュラハンと対峙する。対するデュラハンはすぐに戦いを始めようとせず、小さく笑みをこぼした。
「シレーネ、全ての準備は整っておるな……?」
「……滞りなく」
「よし……」
 首のないデュラハンは、上半身を向けて、話したい相手を向く。
「バルログよ、アネモスの巫女は捕らえたか?」
「ははーっ、こちらにおります!」
 バルログは腕の中のシバを空中のデュラハンに見えるよう、シバを赤子のように抱え上げた。
「私がアネモスの巫女!? 馬鹿なこと言ってないでいい加減放しなさい、このケダモノ!」
 シバは抱えられた状態で暴れ、バルログの顔を何度も蹴った。これは適わないと思ったバルログはすぐにまた、シバを小脇に抱え込む。
「ようし、それではバルログ。巫女を連れて先に離脱するのだ」
「ははっ!」
 バルログは翼を広げ、逃走を始めた。
「あっ、待ちやがれ! イワン、追撃だ!」
「だめです! 相手は空中にいるんです。下手なことをしては、シバが危険です!」
「くっ、確かにそうだ……!」
 ジェラルドは歯噛みする。
『颯の術・改!』
 シンがエナジーを発動し、紫のオーラに包まれると、空中を自在に動ける能力が備わった。
「オレが奴からシバをかっさらってやる……!」
 シンは高速で、シバを浚っていくバルログを追った。しかし、目の前に立ちはだかる存在が、シンの行く手を遮る。
「……貴様の相手は俺だ……」
 魔法によって出現した翼を開き、剣士センチネルは浮遊し、シンへと切っ先を向けていた。
「邪魔なんだよ!」
 シンは刃を振るい、センチネルの剣を弾いた。その間に生じた僅かな隙を付いて、シンはバルログを追いかけようとする。
「……行かせん!」
 センチネルは再びシンの動きを封じた。
「くそがっ!」
 センチネルの横から僅かに見える、飛び去っていくバルログの姿は、もう見失いそうなほど遠くまで行ってしまっていた。
「諦めろ、ここで生き残ったとて、貴様らはすぐに死に絶える。悪魔デュラハンの手によってな……」
 尤も、とセンチネルはシンへ刃を向けた。
「貴様は今、俺によって殺されるがな……」
「ぬかせっ!」
 シンとセンチネルは、空中で激しいぶつかり合いを始めた。
 激しい戦いを眼下に、デュラハンは、再び小さな笑みをこぼした。
「センチネル、相変わらず物静かながら、激しい奴よ……。ククク……」
 小さな笑い声を上げるデュラハンとは対称的に、イリスは虹色の波動を纏い、いつでも戦えるようデュラハンを睨んでいた。
「……どうしたのです、デュラハン。私と戦うのが怖いのですか?」
 デュラハンがなかなか動かず、隙がないため、イリスは挑発してデュラハンの油断を誘う。しかし、やはりデュラハンは交戦しようとしない。
「ははは……、まあ、そう慌てるな、虹の女神よ。焦らずとも早晩貴様は我が一部となるのだ」
 イリスは眉をひそめる。
「何を言っているのか分かりませんね。まあ、いいでしょう。来ないのならこちらから行きます!」
 イリスは虹色の剣を作り出し、デュラハンに向かって振るった。
「マインボール!」
 シレーネは空間に灰色の、爆発するボールを出現させ、イリスへと投げつけた。
 イリスはボールが爆発するのを読み、素早く退いた。
「デュラハン様の邪魔はさせないわよ」
「……邪魔をするというのですか? あなたごときが私の相手が務まるとは思いませんが」
「例え勝てなくても、我が君の為に散れるなら本望! さあ、イリス。デュラハン様の邪魔はさせない、勝負よ!」
 再び空間に、シレーネの武器である、魔法の込められたボールを出現させた。しかし、戦いは意外にもデュラハンが止めさせた。
「止すのだ、シレーネ。お前にはまだ、やってもらう事がある。この場で散るような真似はするな」
「デュラハン様……、しかし私は……!」
 デュラハンは再び、シレーネを抱き締めた。
「我にはお前が必要なのだ。己が身を大切にしろ」
 シレーネはデュラハンの腕の中で、すっかり骨抜きにされていた。