黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 17
「……天界を滅亡寸前にまで追いやった悪魔も、一人の女の前では腑抜けですか?」
イリスは、痺れを切らし、更に挑発する。しかし、デュラハンは聞き入れなかった。
「シレーネよ、我が計画の最終段階だ。全ての灯台を、消せ……」
イリスは、デュラハンの言葉を聞き、愕然とした。
「……かしこまりました。我が君……」
シレーネは武器のボールを空間から消すと同時に、自らもワープしていった。
「お待ちなさい! 灯台を消すなど……!」
後の言葉は、デュラハンの攻撃により遮られた。攻撃は非常に早く、イリスはぎりぎりの所で受け止めた。
「邪魔はさせん、我が一部となるまで、貴様には少し眠っていてもらうぞ」
「戯れ言を!」
イリスはデュラハンの剣を弾き返した。そして、次はこちらとばかりに虹色の剣を突き出す。
「遅い!」
デュラハンは大きく、横なぎに剣を振るった。しかし、イリスを斬ったと思われた剣は、虚空を斬る風切り音を鳴らすだけに終わった。
デュラハンの眼前のイリスは残像を残し、デュラハンの後ろへ回っていた。
「転影刃!」
イリスはがら空きのデュラハンの背中に、斬撃を加えた。
デュラハンの鎧は強固なるものだった。しかし、イリスのエナジーによって作り出された虹色の刃は、そのような頑強な鎧を砕き、デュラハンの肉体をも切り裂いた。
「……なかなかやる、確かにかつて我と対峙したときとは違うようだな……」
デュラハンは傷を負いながらも、まだ余裕を見せていた。
「これは、私が依代としていた人の子が鍛練していた剣技です。速さが自慢の刃、あなたに見切れますか……?」
イリスは自らの放つ、虹の波動が作る軌跡を残しながら、デュラハンを撹乱しようと素早く動く。
「ふん!」
デュラハンは体に力を込めると、先ほど斬られてできた傷を治した。
「なるほど……、確かに速いな。だが……!」
デュラハンは後ろを振り返り、突き出されたイリスの剣を弾いた。
イリスは驚きに表情を固めたまま後退する。
「……まだ捉えられる速さだ」
イリスは再び素早い動きでの翻弄を試みる。
「何度やっても同じ事だ!」
幾度となく、イリスはデュラハンに当たった。しかし、虹色の剣は全てデュラハンの剣阻まれてしまった。
「なぜ私の動きをこれほどまで……?」
かつてのデュラハンならば、絶対に付いて来られない速さで、イリスは攻撃を仕掛けている。しかし、そのどれもが見切られてしまっているのだ。
「ならば……!」
イリスは虹色の剣を消し、胸の前で両手をあわせた。すると彼女を包む虹色の波動が強さを増す。
『アルカン・エクス・フレア!』
七色の炎を出し、敵を浄化する神のエナジーを発動した。しかし。
「っ!? 炎が、出ない!?」
それだけではなかった。これまで纏っていた虹の波動も力を徐々に失っていき、やがて消えてしまった。
イリスはその時ようやく気付いた。これまでの間力を使いすぎており、そのため今になってパワーダウンしてしまったのだ。しかもイリス自身も復活を遂げたばかりで、力は十分に備わっていなかった。
「お遊びはここまでだ……!」
デュラハンは瞬間的に、イリスとの間合いを詰め、彼女の首を絞め上げた。
ギリギリと、デュラハンの握力はだんだん強まっていく。
「我は違うのだ。貴様のような人間に宿り、のうのうと復活を待っていた貴様とはなぁ!」
デュラハンがイリスによって、封印の為送られた暗黒世界には、デュラハンのような者が数え切れぬほどいた。
二度と現世には戻れなくなるはずの暗黒世界において、デュラハンの存在は異端であった。その世界には大きすぎる力を、デュラハンは持っていたのだ。
「我は殺し合いの中へ身を投じた。我の力を妬み、または欲する者が次から次へと現れた……」
イリスに封じられてもまだ、力を持っていたデュラハンは、現れる敵は悉く打ち倒してきた。破壊神とも称されるデュラハンにとって、暗黒世界に棲む者など足下にも及ばなかった。暗黒世界とウェイアード、天界といった様々な世界が破壊され尽くされんとしていたのだ。
デュラハンの殺戮を止めるべく、彼に立ち向かった者がいた。死神の王、カロンである。この者は唯一、暗黒世界と冥界とを自由に出入りできる者であった。
しかし、カロンでさえも、デュラハンの前では赤子の手をひねるかのように、いとも簡単に敗れてしまった。
「くっ……!」
イリスは、自身の首を絞めてきている、デュラハンの手を左手で、覆うように上から掴み、空を蹴ってその場で回転する。
デュラハンの手首が反時計回りに捻られると、彼自身もその方向に舞い上がった。
イリスは空中で小手返しを行う、という離れ技をやってのけたのである。
「げほっ、げほ……」
ようやく首絞めから解放され、イリスは、痣のできた喉元を押さえながら咳をする。
「……驚いたな、今までに受けたことのない攻撃だ」
デュラハンは空中で体勢を立て直し、一瞬捻られた手首を振っていた。本来なら、イリスの体重すべてをかけて捻られたので、デュラハンの手首は砕けていてもおかしくなかった。
しかし、彼の者にこのような体術が通用するはずもなかった。精々拘束から離脱し、間合いをあけるのがやっとである。
「けほっ……。デュラハン、あなたは封印された先でも大暴れだったようですね。ですが、修練を積んだのは私とて同じ! 人の子にただ宿っていたのではありません。その子が覚えたもの、全てが私にあるのです」
デュラハンは高笑いした。
「ふははは……! 貴様と我の得た力を同類と見るとは笑止! たかだか人間如きの技、よもや我に通用すると思うてか」
「……エナジーが切れた今、頼れるのは、あの子が身につけた技……!」
今度はイリスが詰め寄り、デュラハンの腕を取って、手を捻ると自らの肘と相手の肘をあてがった。
一瞬の動作で、腕を取られたデュラハンは前屈するような格好になった。
「肘砕き!」
イリスはあてがった肘を、脇を絞める事で自身に引きつけた。骨を持つものならば、これで関節を砕かれるはずである。
「ぬるいわ!」
怪力を持つデュラハンにはやはり、通用するはずがなかった。力で押し返され、逆にイリスの方が体勢を崩されてしまった。
「うっ!」
イリスは脇腹に、肘打ちをくらい、一瞬息ができなくなった。その隙をつくように、デュラハンはイリスを真下に落とすように殴打した。
マーズ灯台の上に、イリスは叩きつけられた。あまりの勢いの強さに、彼女が落下した周辺にひび割れが広がる。
「がはっ!」
「イリス!」
灯台の上にて、二者の戦いを見守っていた仲間達が、彼女に駆け寄ろうとした。すると、イリスが落ちてきたのとほぼ同時に、デュラハンが剣の切っ先を向けて急落してきた。
切っ先はイリスの顔のすれすれの所に突き刺さる。
デュラハンから発せられる、どす黒いまでの力は、ロビン達の足を止めてしまった。止めた、というよりも近付けない、というのが正しいかもしれない。
「たかが人間如きの力はそんなものよ。その目で貴様の仲間を見るがいい! 我の力に圧倒され、近付くこともままならぬわ!」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 17 作家名:綾田宗