りょう
小玉響は青峰大輝が好きだ。最初に見惚れたのはまずあの長身。鍛えられた身体にワイルドな雰囲気。そしてなによりも、乱暴に振る舞っている中に見える寂しさのようなものに、癒してやりたい、と思ったのである。
彼女は名前の通り背が低く小柄だが、かわいらしい女の子だ。高校ではまだないが、中学では告白されたこともある。あがりすぎてそのとき何と返事をしたか覚えてないけれども。基本的におっとりした性格で多少引っ込み思案なのだが、くるくる変わる表情は人を楽しませ惹きつける。クラスの女王様とかいうタイプではないし、リーダーシップを取るような子ではないが、友達もいて、休み時間にはおしゃべりをし、学校帰りに甘いものを食べる。そんな普通の女の子だ。
さて、青峰大輝を好きになった彼女だが、好きになってすぐには何の行動も起こさなかった。桐皇学園の多くの生徒が誤解しているように、彼女も青峰大輝は幼馴染の桃井さつきとつきあっていると思っていたからである。当人たちがただの幼馴染だと否定しているのは照れ隠しだと思ったし、二人のやりとりを見ていると、恋人同士のようにしか見えない。外見も、野生の獣のようにしなやかな青峰と、美人でスタイルのいい桃井はお似合いだ。桃井を妬んでいる女子もいるが、小玉は純粋にすごいと思っていたし、彼女の頭のよさやバスケ部への献身ぶり、またその有能さを聞くにつけ、敵わないと思ったのである。
そんなあるとき、小玉は偶然知ってしまった。桃井は他校に好きな人がいるのだと。街で、一人でしゃべっている桃井を見たときは様子がおかしいと気になった。しばらくして、桃井の隣に男性がいることに気づいた。空色の髪をした、色の白い、整った顔立ちの男の子だ。二人は仲がよさそうで、特に桃井の顔を見ればその少年に恋しているのだと明らかに分かる。浮気の可能性が頭をかすめた。でも思い返してみれば、桃井は青峰の前でこんな表情を見せたことはない。
小玉は桐皇にいる帝光中出身の生徒に聞いてみた。しかしその生徒も、桃井と青峰は中学の頃から付き合っているのだと誤解していた。桃井の好きな空色の少年――黒子テツヤのことは影が薄すぎて印象に残っていなかったらしい。
やっぱり浮気しているのかと思った。しかし確証はない。青峰や桃井に直接確認する勇気はない。探りを入れるにしても、あまりしつこく探っていると噂が流れ、桃井が悪く言われてしまうだろう。
手詰まりになった小玉に情報をくれたのは、青峰と同じバスケ部の男子だった。彼は帝光中出身ではなかったが、一軍に所属しており、今吉とのつきあいもあったため、黒子のことを知っていた。
「うん、黒子テツヤ。桃井は中学の頃からずっとそいつが好きでアタックしてんだって。」
ジュースで買収されたその男子は、ジュース分の情報をくれた。
「じゃあ青峰くんと桃井さんは付き合ってるわけじゃないの?」
彼は笑って手を振った。
「違う違う!俺らが否定しても信じないから言わないだけで青峰と桃井は付き合ってねえよ。」
小玉の心があたたかくなった。青峰と桃井は付き合っていない。しかし校内の大半の女子――青峰に好意を寄せる女子も――青峰と桃井は付き合っていると思っているのだから、一人真実を知っている自分は有利なのではないか?
「ありがとう!」
どうやって青峰にアプローチするか考えながら、小玉は走っていった。小玉の姿が視界から消えると、ジュースを飲んでいた男子は人のよさそうな笑顔を捨て去った。
「あいつ自分が青峰と釣り合うとか思ってんのかよ。鏡見てから出直せっての。」
彼は缶を投げ捨てると体育館に戻っていった。
彼女は名前の通り背が低く小柄だが、かわいらしい女の子だ。高校ではまだないが、中学では告白されたこともある。あがりすぎてそのとき何と返事をしたか覚えてないけれども。基本的におっとりした性格で多少引っ込み思案なのだが、くるくる変わる表情は人を楽しませ惹きつける。クラスの女王様とかいうタイプではないし、リーダーシップを取るような子ではないが、友達もいて、休み時間にはおしゃべりをし、学校帰りに甘いものを食べる。そんな普通の女の子だ。
さて、青峰大輝を好きになった彼女だが、好きになってすぐには何の行動も起こさなかった。桐皇学園の多くの生徒が誤解しているように、彼女も青峰大輝は幼馴染の桃井さつきとつきあっていると思っていたからである。当人たちがただの幼馴染だと否定しているのは照れ隠しだと思ったし、二人のやりとりを見ていると、恋人同士のようにしか見えない。外見も、野生の獣のようにしなやかな青峰と、美人でスタイルのいい桃井はお似合いだ。桃井を妬んでいる女子もいるが、小玉は純粋にすごいと思っていたし、彼女の頭のよさやバスケ部への献身ぶり、またその有能さを聞くにつけ、敵わないと思ったのである。
そんなあるとき、小玉は偶然知ってしまった。桃井は他校に好きな人がいるのだと。街で、一人でしゃべっている桃井を見たときは様子がおかしいと気になった。しばらくして、桃井の隣に男性がいることに気づいた。空色の髪をした、色の白い、整った顔立ちの男の子だ。二人は仲がよさそうで、特に桃井の顔を見ればその少年に恋しているのだと明らかに分かる。浮気の可能性が頭をかすめた。でも思い返してみれば、桃井は青峰の前でこんな表情を見せたことはない。
小玉は桐皇にいる帝光中出身の生徒に聞いてみた。しかしその生徒も、桃井と青峰は中学の頃から付き合っているのだと誤解していた。桃井の好きな空色の少年――黒子テツヤのことは影が薄すぎて印象に残っていなかったらしい。
やっぱり浮気しているのかと思った。しかし確証はない。青峰や桃井に直接確認する勇気はない。探りを入れるにしても、あまりしつこく探っていると噂が流れ、桃井が悪く言われてしまうだろう。
手詰まりになった小玉に情報をくれたのは、青峰と同じバスケ部の男子だった。彼は帝光中出身ではなかったが、一軍に所属しており、今吉とのつきあいもあったため、黒子のことを知っていた。
「うん、黒子テツヤ。桃井は中学の頃からずっとそいつが好きでアタックしてんだって。」
ジュースで買収されたその男子は、ジュース分の情報をくれた。
「じゃあ青峰くんと桃井さんは付き合ってるわけじゃないの?」
彼は笑って手を振った。
「違う違う!俺らが否定しても信じないから言わないだけで青峰と桃井は付き合ってねえよ。」
小玉の心があたたかくなった。青峰と桃井は付き合っていない。しかし校内の大半の女子――青峰に好意を寄せる女子も――青峰と桃井は付き合っていると思っているのだから、一人真実を知っている自分は有利なのではないか?
「ありがとう!」
どうやって青峰にアプローチするか考えながら、小玉は走っていった。小玉の姿が視界から消えると、ジュースを飲んでいた男子は人のよさそうな笑顔を捨て去った。
「あいつ自分が青峰と釣り合うとか思ってんのかよ。鏡見てから出直せっての。」
彼は缶を投げ捨てると体育館に戻っていった。