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凛ちゃん女体化したら争奪戦になった

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小学生時代をいじってみた



学校へと続く広い道。
凍えるような風が吹いていた。
幼い遙と真琴は立ちつくしていた。
道を、白いきものを着たひとびとが進んでいる。五十人ぐらいいて、みんな、無言で、うつむいて、ゆっくりと歩いている。
列の中から泣いているような声が聞こえてくる。
なんの列なのかは知らない。
わからないまま、眼を奪われ、足が止まっていた。
列には様々な年齢の者がいる。
遙や真琴と同い年ぐらいの子供もいる。
つい遙の眼はその子供に向けられる。
女の子だ。
うつむき、彼女よりも小さな女の子の手をひいて歩いている。
泣いているのだろうか。
そう思い、遙が拳を軽く握りしめたとき、彼女は顔をあげ、ふり返った。
眼が合った。
彼女は涙に濡れた眼を左腕でぬぐった。
それから、にらむように強い眼差しを遙に向けた。

それが、凛との出会い。
けれども、それはほんの少しのあいだのことで、おたがい名前も知らずに去った。
ふたたび会ったときも、あのときの子供だと、おたがい気づかなかった。








「速いな、ほんとに小学生?」
小学五年の三月、初めて市の大会に出場した遙と真琴に、少女が話しかけてきた。
遙なのか、真琴なのか、どちらに対して言ったのかわからなかった。
遙はフリーの百メートルで、真琴は平泳ぎの百メートルで優勝していたから。
遙は黙っていた。
真琴が返事をする。
「君、たしか佐野SCの松岡さんだよね」
佐野SCの松岡凛。
女子のフリーの五十メートルと平泳ぎの五十メートルで優勝していた。
「へー、知ってくれてたんだ」
凛は嬉しそうに笑った。








黒板を背にして、季節外れの転校生が立っている。
「松岡凛です。佐野小学校から来ました」
小学六年の一月、卒業まで二ヶ月ほどのころに、凛が遙と真琴のいる岩鳶小学校に転校してきた。
休み時間のたびに凛のまわりにはクラスメイトたちが集まり、質問を投げかけた。
そして、昼休みになり、そんな凛の肩にだれかが手を置いた。
「ちょっとつき合えよ」
遙だった。
それから、遙はさっさと歩きだした。
凛は遙の強引さにあきれて、ため息をつく。
そのあと凛は真琴に背中を押され、さらに遙のあとを追う真琴を追いかけ、校舎から出た。
遙が立ち止まったのは、校舎とプールのあいだである。
そこには大きな樹があった。冬空を支えるように、その枝を広げている。
「すっげーな、この樹、桜かなんか?」
凛が調子外れの声をあげた。
桜だよ。そう遙は思ったが、言わずにいた。
「桜だよ」
真琴が優しい声で答えた。
凛は桜の幹に手をあて、頭上の広がる枝と空を見あげる。
「春になるとさ、桜の花が散って、そこのプールに、いっぱい落ちるんだろうな」
そう凛が言うのを聞いて、遙と真琴はプールのほうに眼をやった。プールには今、枯葉が敷き詰められたように散っている。
「泳いでみたいよな、桜のプール」
凛は妙に感情をこめて言った。








小学校の卒業式の前日。
凛は岩鳶SCから出たところで、妹の江がいるのに気づいた。
「江……!」
「あ、お姉ちゃん」
江は凛に笑顔を向けた。
ちょうどそのとき、自動ドアが開いて、遙たちが出てきた。
真っ先に渚が江に気づいて、好奇心いっぱいの様子になる。
そのあと、江が自己紹介をし、真琴が自分と遙と渚の名を紹介した。
渚は「よろしく」と笑って言い、遙はぎこちなく会釈をした。
すると。
「あ、聞いてます」
無邪気に江が言う。
「聞いてますよ。『七瀬速ぇ、七瀬速ぇ』って、大会のあととか、いつも言ってましたから」
「お、おい、江!」
凛は慌てた。
「よけいなこと言うな!」
恥ずかしくて、遙に顔を見せられなくなってしまった。
けれども、江は無邪気なままだ。
「でも、良かったね。一緒に泳いでもらえて。ばあちゃんの家に住民票まで移して、こっちに来た甲斐あったじゃない。お母さん、心配してたんだから。急に一人で転校するなんて言い出すんだもん」
「もういいから、おまえ、しゃべんな!」
凛はうつむいて怒鳴る。顔があげられない。きっと真っ赤になっているだろうから。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、仕方なかった。

その翌日の卒業式、卒業生の中で真っ先に泣きだしたのは、たった二ヶ月しかこの小学校に在籍してなかった凛だった。









「おれはもうキュン死しそうだ」
「ぼくもだよ、ハル……」