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凛ちゃん女体化したら争奪戦になった

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プールサイドにて(遙凛)



屋内プールの一番端のレーンで泳いでいた遙はゴールしたあと、スタート台に座っている凛を見あげた。
凛の顔に表情はない。顔立ちが整っているせいか、表情がないと人形のように冷たく見える。これで笑うと、まったく雰囲気が変わるのだが。
遙は問いかける。
「泳がないのか?」
「おまえが泳ぐのを見てた」
そう答えてから、凛はため息をつく。
「なんでそんなに綺麗に速く泳げるんだって、聞いても、おまえにもわからねぇんだろうな。天性のものなんだろうから」
あいかわらず凛の頭の中には水泳のことしかない。
遙は無表情のまま首を少しかしげた。凛の言ったとおり、なぜ綺麗に速く泳げるのかはわからない。それに、自分が綺麗に泳いでいるのかは知らない。気持ち良く泳いでいるだけだ。
「まあ、いいや。うらやましがったって、どうにもならねぇしな」
「おまえ、俺がうらやましいのか?」
そう遙が聞くと、凛は顔をしかめた。
「うらやましくなんかねぇって言いたいが、言えねぇよ」
「泳げばいい。そうすれば、なにかわかるかもしれない」
「感覚的だな、おまえは」
「考えすぎなんだ、おまえは」
凛はどうすれば速く泳げるようになるかを考え、その考えに合わせてストイックなまでに自分をきたえている。
それは良いことなのだろう。
しかし、凛の場合、考えすぎて、迷い、悩み、足を取られて沈んでしまうことがある。
これを言うと本人は確実に否定しそうだが、凛は繊細だ。
「だいたい、今日、一緒に泳ぎたいってここに誘ったのは、凛、おまえだろう」
そう遙が指摘すると、凛はむうとした表情で黙りこんだ。そのとおりなので反論できないのだろう。
凛のその様子がなんだか可愛らしく感じて、遙の胸にいたずら心がわいた。
「そういえば、おまえは俺と一緒に泳ぎたくて、おばあさんの家に住民票を移してまで転校してきたんだったよな」
いつもの冷静な声で遙は言った。
凛はぎょっとした顔になった。
住民票うんぬんは凛の妹の江が話したことなので、事実だろう。
あのとき、凛は遙に顔を見せないようにしていた。そうとう恥ずかしかったようだ。
そして、今も表情を変えている。
おもしろい、と遙は無表情のまま思う。
「黒歴史を掘り返して、悪かったな」
感情のこもらない声でわびた。
さて、凛はどんな反応をするか?
いつもは他人に無関心な遙が、凛の反応を楽しみにしている。もちろん、顔には出さずに、だ。
凛は口を開く。
「黒歴史だなんて、思ってねーよ」
予想外の台詞で、遙は眼を丸くした。
凛は続ける。
「オーストラリアに行こうって決めてから、どうしても、おまえと一緒に泳ぎたくなった。だから、住民票を移した」
その声も表情も真っ直ぐで、強い。
「それで、おまえと一緒に泳げて、良かった」
きっぱりと凛は言った。
遙は胸のうちで笑う。
まったく、松岡凛という生き物は可愛らしくてタチが悪い。
口説き文句のような台詞を平気で言いながら、頭の中には水泳のことしかないのだ。
「それにしても、おれは男に生まれたかった」
凛はつまらなそうな表情に変わる。
「おれが男だったら、おまえと一緒に泳いだときに、おまえの本気を出させることができたのにな」
心から、そう思っているのだろう。
遙は無表情で凛を眺め、そして、冷静な声で告げる。
「俺はおまえが女で良かったと思っている」
すると、凛は考えている表情になる。
少しして、その瞳が挑発的にきらめいた。
「おれが男だったら負けるからか?」
本当に、水泳のことしか頭にない。
遙は首を少しかしげた。
それから、淡々とした口調で言う。
「そういうことにしておく」
遙はプールサイドにあがった。
隣にいる凛に、告げる。
「今は」
遙はそのままプールサイドを歩いていく。
もう帰ろうと思った。
「ハル!」
背後から凛の呼ぶ声がした。
遙は立ち止まり、ふり返る。
凛がこちらを向いて立っている。なんだか怒っているような表情をしている。
もしかして置き去りにしたと思っているのか?
さっさと帰ろうとしたことが気に入らないのか?
遙は首をかしげた。
その直後、凛は右手を差しだしてきた。
怒っているような表情のままだ。
なんだ?
遙は戸惑った。
「手」
凛は言う。
「つなぎたい」
その言葉が耳を打った。
遙は眼を大きく開き、瞳を揺らした。
びっくりした。
そんなことを凛が言うとは、まったく、思わなかった。
どうやら、凛の頭の中にあるのは水泳のことだけではなかったようだ。
それがわかって。
遙は笑った。