凛誕!
「地方大会のリレーでは一緒に泳いだのに。あ、あのとき、僕は一緒に泳ぎませんでしたね」
「あのとき、俺は、おまえのために、夏の桜を気合いで咲かせて舞い散らせたんだったな」
みんなの言葉が凛の胸にぐさぐさ刺さってくる。
どうすればいいんだ、俺は……!?
凛は苦悩した。
ふいに、眼がさめた。
部屋の中は薄暗い。
祖母の家の部屋だ。
土曜日に鮫柄学園の室内プールで水泳部の練習をしたあと、祖母の家にやってきたのだった。
日曜日は凛の誕生日で、去年まではこの時期はオーストラリアにいたから、今年の誕生日は家族で祝わせてほしいと言われたからである。
家族が祝ってくれるのは日曜日の夕方頃かららしい。
そのまえに岩鳶高校水泳部のメンバーたちが七瀬家で凛の誕生日を祝う会を開くそうだ。
とりあえず、さっきまでのは、夢だ。
夢だったことに、凛はホッとした。
日曜日、凛は七瀬家を訪れていた。
玄関まで迎えに来た遙とともに凛は廊下を進む。
やがて、居間に入った。
「誕生日、おめでとう!」
「おめでとうございます!」
祝う声がかけられる。
「おめでとう、凛」
隣からも、いつもの感情のこもらない声で祝われる。
凛は正面に看板のようなものがどーんと置いてあるのに気づいた。
そこに貼られた紙には墨でで字が書いてある。
お兄ちゃん、誕生日おめでとう!
これからも良い筋肉でいてね!
見覚えのある江の字、文章。
まさか、あれは正夢だったのか……?
凛は背中を冷や汗が流れ落ちるのを感じた。