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未来話詰め

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合コンに行こう



海外から帰国し、東京でスポンサー企業の担当と会ったり雑誌のインタビューに応じたりし、やがて夜になって、日本で自分を支えてくれている人々と食事をし、ようやく凛が自由になったのは深夜という時刻だった。
世界的な水泳の大会で好成績をあげ、凛は今、競泳のスター選手となっていた。ルックスの良さから、幅広い年代の女性のファンが多い。
部屋でひとりになり、凛は携帯電話の画面に表示されている時刻を見る。
アイツ、もう寝てそうだな……。
そう思ったものの、電話をかけることにした。これから電話をかける相手は地元の企業に就職し、平日はフルタイムで働いているのだ。相手は早寝早起きを習慣としていて、この時刻では寝ている可能性が高いが、明日の朝の出勤まえに電話をかけるのは気がひけるし、向こうの仕事が終わるころでは遅い。今、かけておかなければ、と思った。
耳元で呼び出し音が続いている。
凛は待つ。
しばらくして、やっと呼び出し音が途切れた。
『はい』
遙の声が耳に響く。
少し凛は笑う。
「ハル、悪いな、こんな時間に。もう寝てたか?」
『ああ。だが、別に問題ない』
「帰国した」
『知ってる。テレビで見た』
そういえば、空港でかなりの数のファンに出迎えられたが、報道陣も多くいた。あのときの映像がテレビで放送されたのだろう。
しかし、ということは、自分が帰国したのを知っていながら、遙は連絡してこなかったということになる。
遙らしい。
とはいうものの、いちおう恋人関係にあるので、ちょっと寂しい。
いつまで経っても自分の片想いくさいのはどういうことだろうか?
「……明日の夜、そっちに行くから」
超人気のスター選手らしくない悩みはひとまず置いておいて、凛は言う。
「会おう」
『明日の夜か。無理だ』
あっさりと遙は拒否した。
え、と凛は驚く。
ひさしぶりに日本に帰ってきたのに、ひさしぶりなのに、会うのを断られるなんて……!
しかし、向こうにも都合というものがある。なにしろ、今は前日の深夜だ。
凛は気を取り直した。
「仕事が忙しいのか? 残業か?」
『いや、合コンだ』
ふたたびあっさりと告げた遙の台詞に、凛は眼を見張った。
「なんだってーーーー!?」
『凛、うるさい』
「合コンって、なんだよソレ!?」
『合コンは合コンだ』
「なんでそんなもんに行くんだよ!? 俺というものがありながら!」
『会社の女子社員に頼まれたんだ。人数が足りないから出てほしいって』
「頼まれたって断ればいいだろ」
『魚料理がうまい店だと聞いた。食べたい』
「おまえな……」
凛は携帯電話を持っていないほうの手を額にやった。
だが、遙が出会いを求めて合コンに参加するのではないことがわかって、少しほっとする。
「なんて名前の店だ?」
そう凛がたずねると、遙は素直に答えた。
店の名前を記憶する。
「わかった。今度そこにつれていってやる。だから、合コンには行くな」
『断る』
「はぁ!? なんでだ!?」
『もう出ると伝えてある。当日のドタキャンは良くない』
「おまえがそういうことを気にするとは思わなかった……」
いつもマイペースなのが遙だ。
けれども、社会人となり、職場でうまくやっていくために変わったということなのだろうか。
大人になったと喜ぶべきことなのかもしれない。
だが、しかし、それでも凛としては遙を合コンに行かせたくない。遙は無愛想だが、美人だ。それで速攻、眼をつけられるかもしれない。合コンのノリで、なれなれしく遙の身体にさわってくるヤツがいるかもしれない。この手のことにニブい遙をうまく誘うヤツがいるかもしれない。想像しただけで嫌な気分になった。
凛はドタキャンでも合コンは欠席するよう遙を説得しようとする。
しかし、そのまえに。
『とうわけで、明日は、ああ、もう今日だな、今日は仕事で合コンだ。寝る』
「おい、ハル!」
電話は一方的に切られた。
その音が耳をこだましていたが、凛はハッと我に返り、再度、遙に電話をかける。
だが、聞こえてきたのは、この電話は電源が切られているか電波の届かないところにあるためかかりません、というアナウンスだった……。



夜、遙は合コンに参加していた。
この合コンの女子側の幹事でもある会社の同僚によると、今回の男性陣がレベルが高いそうだ。だから、どうしてもセッティングしたくて、頭数をそろえるため遙に参加を頼んだらしい。
合コン参加を凛はやけに反対していたが、凛は誤解していると思う。
合コンで遙がモテることはない。
無愛想すぎるのだ。
出会いを求めてやってきているのに、まったくその気のなさそうな相手に関わっていられない。
愛嬌のある者、話していて楽しい者が、人気者となる。
女子側の幹事にしても、遙が合コンでモテないことを見越したうえで参加を頼んだのだ。頭数がそろい、しかもライバルにはならない。好条件の人員だ。
遙にしても、おいしい魚料理が食べられるうえ、職場での人間関係が良好なものとなる。いい話だ。
そんなわけで、遙は自己紹介を簡潔に済ませると、左側にしか隣人のいないテーブルの右端の席で黙々と魚料理を堪能していた。
表情には出さないが、うまい、と喜ぶ。
社会人になって、わずらわしいこともあるが、楽しいこともあると感じる。
ふと。
店の出入り口のあたりから歓声が聞こえていた。
つい、そちらのほうに眼をやったが、遙の席からは店の出入り口付近は見えない。
だから、遙の関心は魚料理へともどる。
その後もあちらこちらから歓声が聞こえてきた。しかも、それはどんどん近づいてくる。
「松岡凛だ!」
だれかが、そう声をあげた。
遙は驚いて、ふたたび眼をやる。
もう見えるところまで来ていた。
なぜかイスを軽々と持って、近づいてくる。
やがて、遙の右側、お誕生日席の位置に、立った。
きたえあげられた身体、その上にあるのは美形の顔。
「飛び入り参加の松岡凛です。女みてぇな名前ですが男です。好みは、無愛想で、やたらとサバ食ってて、Freeしか泳がないが口癖の女で、それ以外は正直興味ありません」
凛はそう自己紹介すると、イスを床におろし、さらにそのイスに無造作に腰をおろした。



「……どういうことなんだ」
堅い声で遙は言った。いつもの無表情が、ほんの少し苦々しい。
店から出たあと、他の者たちは二次会に行き、凛と遙は肩をならべて道を歩いていた。
「やけに愛想良かったじゃないか、おまえ」
そう言い終わると遙はわずかに口をとがらせた。
合コンは、凛が飛び入り参加してから、松岡凛を囲む会へと変わった。
今の凛は全国レベルで人気があるが、ここは地元だ。地元が生んだスターということで、その人気は絶大なものとなっている。
合コンに参加していた女性陣は大喜びしていたし、男性陣にしても競泳で世界のトップ選手に名をつらねている凛に好意的な関心があるらしく、合コンが囲む会になったことに対して満足している様子だった。
凛は答える。
「最初は合コンってことでムカついてたんだが、よく考えてみりゃ、参加者の半数はおまえの同僚だろ? だから、気ィ遣ったんだよ」
作品名:未来話詰め 作家名:hujio