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Calling

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それに、こうしてここに呼んでくれたことも嬉しい。凛が帰国するときに空港に来ること。それを凛はワガママだと言った。でも、そんなの、ちっともワガママじゃない。呼んでくれて、嬉しかった。
だが、嬉しいとは言えない。
親しくしていた相手を亡くしたばかりの凛に、そんなことは言えない。
だから、別のことを言うことにする。
遙は口を開く。
「おかえり」
声に感情をこめるのは苦手だ。しかし、できるだけ優しく聞こえるように、温かく聞こえるように、言った。
少しして。
「……ただいま」
凛の応える声が間近から聞こえてきた。
その腕の力が一瞬強くなった。
ぎゅっと抱きしめられる。
この状態なら凛はこちらの顔が見えないだろう。
遙は微笑む。
それから、おろしていた腕をあげて凛の背中のほうへとやる。
自分を包んでいる体温が、苦手なはずの他人の体温を、心地良く感じる。
胸にじんわりと温もりしみこんでいき、とけていくような感覚。
こういうのを、なんというのだろうか。
ああ。
いとしい、だ。
凛がいとしい。
でも、そんなこと、言わないけれど。
そう思っていたとき。
「For better or for worse, for richer or for poorer, in sickness and in health, to love and to cherish;」
耳の近くで、低くささやくような凛の声がした。
「I promise to be faithful to you until death parts us.」
流暢な英語だった。
遙は少し小首をかしげる。
「どういう意味だ?」
「……いつか、日本語で言う」
「今、日本語に訳してくれ」
なぜ、いつか、なのかわからない。時間が経てば、過去に聞いた英語など忘れていそうだ。それに、今、その内容が気になっている。
けれども。
「……言えるわけねぇだろ」
ぶっきらぼうに、ひとりごとのように、凛は言う。
「今は、まだ」
決まり悪そうな声。
どういうことなのか、よくわからない。
だが、このことにこだわるのはどうなんだろうという気もしていた。
凛は自分の話した英語の内容を日本語で言いたくないらしい。気にはなるが、凛が話したくないなら、もういい気がした。ここに、こうして自分のそばに凛がいるのだから。
差しだした手を振りはらって去っていったわけじゃない。今、ここにいる。それを思えば、ささいなことだ。
ささいなことにこだわっているのは、正直、めんどうくさい。
「……帰るぞ」
そう凛が告げたので、遙はうなずく。
「ああ」
凛が腕をおろし、遙も同じく腕をおろして、離れた。
それから凛は荷物を持ち、歩きだす。
しばらくして、凛が問いかけてきた。
「ハル、おまえ、本当にさっきの俺の英語、聞き取れなかったのか?」
「ああ」
「おまえ、電話で、英語をどうにかするって言ったよな?」
「……そんなこと言ったか?」
「言った」
凛は断言したあと、続ける。
「覚えておけよ」
「……めんどくさい」
正直な感想を、遙はつぶやいた。
「おまえな!」
鋭い眼差しを凛が向けてくる。
それを遙は無表情で受け止めつつ、内心、ほんの少しだけ笑っていた。
いつもの凛だ。
もちろん、その内面には、親しくしていた者の死についての悲しみや痛みがあるのだろう。
だが、それでも、こうして自分の隣を歩いていることに、安心した。












作品名:Calling 作家名:hujio