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愛すべき策謀家どの

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アーサー率いる特殊任務につく新部隊の名称が決まった話をシュラから聞いて、雪男はしばらく無言で笑い続けた。
その姿をシュラは口をへの字に曲げて眺める。
せっかく雪男が対応策をくれたのに、しくじったのは自分だ。しかも雪男の忠告を無視する形で、だ。
酒の誘惑に負けてしまった……。
その代償は大きい。
これから先、自分はあの恥ずかしい隊名を背負っていかなければならないのか……。気が遠くなる。
「シュラさん」
笑いがおさまったらしい雪男が落ち着いた表情で呼びかけてきた。
「なんだ?」
「さっきの話ですと、シュラさんの部屋に聖騎士とライトニングさんが一晩泊まったということになりますね?」
「ああ、そう言っただろ?」
朝、眼がさめたら、自分の部屋の床で寝ていて、少し離れたところにアーサーとライトニングが熟睡していた。
そう雪男に話した。
なぜ、このことを確認するように問いかけてきたのだろうか?
不思議に感じているシュラの視線を受けて、しかし、雪男の表情は変わらなかった。
ただ。
「へえ」
そう相づちを打った。その雪男の声は少し低かった。
「雪男?」
「シュラさん、今夜、呑みに行きませんか?」
「へ?」
いきなり話が変わった。
なんだかサバサバした様子の雪男に対し、シュラは戸惑う。
「呑みに行くって、おまえ、未成年だろ?」
「もちろん僕はお酒は呑みません。食べて、アルコール以外のものを飲むだけです」
「じゃあ、アタシが酒を呑むのに付き合うってことかよ?」
「はい、そうです」
「なんでだ? 飲み会に参加するように言っても、いつも嫌がるじゃないか。アタシの酒癖の悪さは天下一品だ、その後始末させられるのはごめんだって言って」
「そうですね。いつもはそうなんですが、今回は、聖天使團、という隊名と付き合っていかなければならないシュラさんの心中をお察しして」
「今、また笑ったな」
「笑ってませんよ」
「隊名を言ったあと、変に言葉が途切れただろ」
「ああ、聖天使團」
「だから、わざわざその名前繰り返すなっての!」
隊名を言われるたびに恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。
シュラはつい眼を伏せてしまったが、またその眼を雪男のほうに向けた。
どうせ声には出さずに笑っているのだろうと想像していた。
けれども。
雪男は無表情だった。
だが、それは一瞬のことで、シュラの視線に気づくと顔に穏やかな表情を浮かべた。
「今のシュラさんは呑みたい気分なんでしょう?」
「ああ、まあな」
「今回は呑みたい事情がわかってますから」
「同情して、呑むのに付き合うってのか?」
「まあ、そんなところです」
穏やかにうなずくと、雪男はシュラの眼を真っ直ぐに見て問いかける。
「いかがですか?」
「じゃあ、付き合ってもらうとするか」
めずらしい展開だが、シュラにとってはおいしい提案なので受けることにした。
すると、雪男はさわやかに笑った。

夏の夜空に向かってシュラの歌声が伸びていく。
シュラはご機嫌だ。
その足取りはあやしい。すっかり酔っぱらっていた。
夜になっても熱がさめきらない、ぬるい空気の中、雪男に支えてもらって歩いている。
もう、自宅のすぐ近くまで来ていた。
祓魔塾の講師たちのあいだで不定期に開催される飲み会などで、シュラはよく雪男にフォローされていて、こうして送ってもらうこともしばしばなので、雪男はシュラの自宅に何度も来たことがあった。
そのため雪男は慣れた様子でシュラを支えて進んでいく。
やがて、シュラの自宅についた。
「シュラさん、鍵、渡してください」
「……あー」
雪男に言われて、シュラは鍵を取りだした。
「ほい」
軽く言って、雪男に差しだす。
今のシュラは自宅の玄関の扉の鍵を開けるのにも手間取りそうな状態である。だから、雪男にまかせることにした。
雪男は無言で鍵を受け取って、解錠した。
扉を開けて、中に入っていく。
「シュラさん、靴、脱いでください」
「わーってるって」
夏なので、はいているのはミュールだ。
脱ぎやすい。
廊下にあがり、進んでいく。
ここでも雪男は慣れた様子でいる。
シュラが酔っぱらったのをフォローするとき、いつも、雪男は玄関でシュラを放置せず、ちゃんと部屋までつれていってくれるのだ。
だから、シュラもこうした状況に慣れていて、陽気なまま、雪男につれられていく。
部屋に入った。
ローテーブルの向こうにソファがあり、そのソファまで雪男はシュラをつれていく。
シュラがソファに腰かけたところで、雪男の手がシュラから離れた。
重力に引っ張られるように、シュラはソファに身体を落としていく。
気分がいい。
このまま寝てしまいたい。
しかし、ふと、なにか気になって、それが髪の毛をしばっているものだと思いあたり、シュラは頭のうしろでたばねていた髪を解放する。
ソファの上にシュラの髪が広がった。結いあげていても腰を越える、長い長い髪だ。
いっそう楽になって、シュラは眼を閉じたまま、口元に笑みを浮かべる。本当にいい気分である。
だが。
自分の身体に近づいてくる気配を感じた。
どうせ雪男だろう。
でも。
なんだか妙な気がした。
シュラはうっすらと眼を開ける。
まず眼に入ってきたのは、雪男の身体の一部分。
ん? と思って、シュラは顔を動かした。
見あげる。
その先に、雪男の顔があった。
雪男は、無表情、というより、少し厳しい顔つきだ。
シュラと眼が合って、それでも、その表情は変わらなかった。
雪男はシュラにおおいかぶさるような体勢で、シュラの顔を見おろしている。
なんだ、この状況は?
いい気分が吹き飛んでいった。
けれども、酔いはさめない。呑みすぎた。身体はアルコールの支配下にある。
「おい」
シュラは雪男に声をかける。
雪男は返事せず、表情も変えずに、身体をいっそう近づけてくる。
「雪男」
「……通常なら、僕はあなたにかなわないでしょう。悔しいですが、それは認めるしかない」
ふと、雪男は身体の動きを止め、抑揚のあまりない声で話す。
「でも、今はどうでしょう?」
「なに言ってんだ、おまえ」
「聖騎士と、四大騎士のひとりを、ここに泊めたんですよね?」
「泊めたっていうか、いつのまにか泊まってたんだよ!」
「彼らをここにつれてきたのは、あなたなんですよね?」
「それは酔っぱらってて……、だいたい覚えてねーし」
「彼らなら、たとえあなたが酔ってなくても、あなたに勝つことができるんじゃないですか?」
雪男は手を動かした。
その手がシュラの露出した肩をつかんだ。
シュラの肌に触れている雪男の手は皮の厚い男の手だ。
「あなたを押し倒して、犯すこともできるんじゃないですか?」
ソファに押しつけられる。
その力の強さが伝わってくる。
「はあ?」
シュラは怒鳴っているのに近い声をあげた。
雪男の言ったことに反撥していた。それを隠さず、表に出す。
「あいつらはそんなことしねーよ」
もどかしさも感じていた。
雪男を押しのけてしまいたい。しかし、今は呑みすぎて、身体が思うように動かない。
もっとも、それでも雪男に勝つことはできるだろう。ただし、その場合、手加減ができないので、雪男を殺してしまいかねない。
そんなこと、できない。
だから、今の状態のままでいる。
作品名:愛すべき策謀家どの 作家名:hujio