【ジンユノ】SNOW LOVERS
伸びあがるようにジンの唇に触れるユノハの上唇を食むように触れると、ジンは薄く口をあけてやる。思い切ったように唇を押しつけて来たと思ったら、ユノハの舌先が触れ、それは甘いハートの粒を、ジンの口へと転がし込んでくる。ユノハの熱で溶け始めているチョコレートは、まだ固さを失ってはいないけれど甘くジンの味覚を刺激した。
甘い、味。
その粒ごとユノハの舌を舐めると、腕の中のユノハが小さく跳ねる。先ほども少し感じたざわりと総毛立つような快感が過ぎる。
甘い、感覚。
その感覚に、やっぱりとどこかで納得しながら、こちらはその感覚に戸惑い逃げようと無意識に身を引きかけるユノハの首の上辺りを支え引き寄せて、更に深く口づけた。口腔で転がしたチョコの粒が溶け切らないうちに、また舌を使ってユノハに送り返す。ハート型に込められた想いを返すように。そうしてまた、今度はより深く彼女の口の中に侵入して、追いかけるように、甘く溶けるそれをユノハの舌ごと舌先に絡めた。
そうすると、ユノハが身を竦めるように腕の中で縮こまり、右手でジンの服にギュッとしがみついてきた。
相手の中に入り込むような行為に、何かいけない事をしているような罪悪感めいたものを覚えたのは一瞬で、次にユノハの唇から鼻にかかった甘い声を漏れ聞くのと同時に理性が弾け飛んだ。舌先は、味覚だけではない甘い刺激に歓喜している。
甘い。
耳にも。舌にも。
痺れるように、甘い。
口腔内に舌が触れるとその声は一層高まる。心地良い甘い悦楽をもっと貪欲に享受したくて、ジンは、次第に小さくなるチョコレートをやり取りする傍ら、ユノハの舌だけでなく、歯や歯茎や、薄い口腔の内壁を舌先で擽り、探り続けた。するとじきに、身を固くしていたユノハから力が抜けた。口づけの合間に零れる吐息が熱を帯びる。ユノハも真似て舐めてこようとしたのだけれど、それさえジンが絡め取ってしまうと、もうその舌に応えるのでいっぱいになってしまったようで、陶然とした様相でジンに身を預けてくる。腕に感じる、彼女の重みさえ心地よかった。ユノハの全てを甘く感じて、ジンも夢中でそれを味わった。
甘い。心を解かすほどに。
それは甘い菓子によるものだけではなく。
熱く濡れた敏感な舌先が感じ取る刺激の為だけでもなく。
耳の奥から体を擽り駆け抜けるような声のせいばかりでもなくて。
他でもないユノハと触れているのだと、その認識に全部が集約されて混じり合う。肉体の感覚が精神の歓喜に同調してより甘く溶けて溢れて飲み込まれて行く。胸の奥が愛しさで溢れ、切なく疼いた。
甘く、ほろ苦く。
愛おしく、切なく。
二人の間で溶けだす想いのようにチョコレートは次第に蕩けて形を崩し、代わりに二人の舌に甘く絡みついて口腔を悦びで満たしている。
絡まる舌先が擦れる度に生まれるあまやかな刺激に、脳髄が焼け切れていくような気がした。頭の芯が痺れて、心はふわふわと覚束なく、彼女のことしか考えられない。
時間の感覚さえ、淡雪のように溶けてしまった。永遠のような刹那のような。
どれくらいそうしていたのか判らない。いつしかチョコレートは甘い後味だけを微かに残して溶け去って、それでも二人はそこに残る甘さを互いに感じて、名残を惜しむようにキスをやめなかった。
知らぬ間に、取りすがっていた筈の彼女の右手は膝元に落ちていた。抱きしめたユノハの肩から腕を確かめるように伝い降りていたジンの右手がその手を探しあてる。意識もせず自然に上から握りこむように手を重ねると、探るように指が動き、指と指の間に入って握りこんできた。反射的にぎゅっと、握ってやると更に深く指が絡み、気付いたらしっかりと手と手が繋がれていた。
その手が、あたたかい。
それを意識すると同時にそっと唇を離し、至近距離で覗きこむと、とろんと蕩けたユノハがやっぱり見つめ返してくる。灯りの下、初めてみる艶めいた表情に、見とれてやっぱり胸が高鳴った。
――君を、好きになって良かった。
想いが通じ合って、こうしている今が、ジンが望む全てだ。
あたたかくて優しくて、悦びにあふれた、こんな気持ちは知らなかった。
だから今が、幸せで。幸せすぎて。
――君に逢えて、僕は心の底から幸せになれた。それを、知って欲しい。
想いを乗せて、そっと口づける。
離れて覗く瞳の中に、ジンは同じ喜びを見出した。
――伝わるといい。
暗がりに切り取られたように浮かぶ灯火の中で、寄り添う二人の周りを雪のヴェールが白く舞う。
夜のしじまの幻想的な、世界。
雪に護られた、雪の魔法にかかったような、誰の邪魔も入らない二人きり。
キンと冷えた空気と裏腹に、寒さは感じなかった。
ただ、互いの温もりが恋しくて寄り添い合う。繋いだ手があたたかい。繋がる心があたたかい。
舞い散る雪の美しさを目に焼き付けようと二人して見とれて、言葉なく感動を伝える手が、指先に力を込める。その手を更に強く握りしめて、二人は再び見つめあう。
互いの目に、互いを宿して。
そこに確かな想いを感じて。
魅き合うように、また口づけを交わす。
何度も、何度でも。想いを伝えあうように。二人でひとつの世界を感じる、心からの歓びに溶けあうように。浅く、深く、何度でも。繰り返し、時を忘れて。
ああ、それでも人は欲張りにできているから。
この幸せな時間が、ずっと続くものなら。
このまま時が止まってしまえばいいのに。頭の隅でそう願ってしまう。
二人きりの魔法がずっと、このままずっと。
雪の魔法に閉じ込められて、二人だけで永遠に。
ずっと―――
作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA