【ジンユノ】SNOW LOVERS
「え? 勝負って、忘れてたよそんなの。あれユノハの勝ちでいいのに。それにさっき、もうお願い聞いてもらったじゃない。ほら、チョコレート食べてもらった……」
「それを言うなら、あの時はわたしの方が先にジンくんに「食べて」ってお願いしちゃってるからトントンです。それに、勝負はやっぱりジンくんの勝ちで譲りませんからね? さぁ、何でも聞いちゃいますから遠慮せずに言ってみてください」
何故だか妙に張り切ってそう言うと、ユノハは胸を張ってとんとんと、自分を叩いてみせた。上機嫌だと一目で判る。それはいつも、明るい笑顔でジンを引っ張ってくれたユノハそのもので、ジンはいつも戸惑いながら魅了され、住み慣れた影から日の光の元へ、初めて出たような覚束なさと眩しさを覚えたものだ。
ああ、そう、いつだって。こんな彼女には敵わない。
「そんなに言うなら……。お願い、か。そうだなぁ……」
促されるまま答えようとして考えて、けれどそこにあるのは充足感ばかりで。
ユノハといる、この時が。
楽しくて。
嬉しくて。
想いを同じくしてると知れた今、それは更に熱を増して。
探る中、喜びばかりが溢れて来るようで。
その喜びが、全てを贖ってなお余りある程に大きく、豊かに、彼を満たしてゆく。
ユノハがじっと、真摯な瞳を向けているのが判る。両手でぎゅっと握られた手があたたかい。
降りしきる雪の冷たささえ、どこか暖かに感じる。
あたたかな、幸福感。
「うーん。でも、僕の願いは多分もう叶っちゃってるんだよ」
自分の手を包む、ユノハの手の指に口づける。この無垢な手が、ジンを導いてくれたのだ。
物理的な意味ではない。見えざる心の内側で。
何も知らない純真さで、拙くもひたむきに、ただジンと言う存在に触れようと手を伸ばしてきてくれたから、今、自分はこんなにも暖かい。
これ以上、何を望めと言うのか。
手を取ったまま立ち上がると、つられてユノハも立ち上がる。その膝から、さっき預けていたチョコレートの箱が落ちたのが目に留まった。
「ああ、そうだ」
思いついて、それを拾いあげるとユノハに渡し、受け取ったのを確認すると、タマとチョコで両手が塞がったユノハをジンはひょいと横抱きに抱きかかえた。焦ったようなユノハの額に、熱情の赴くままに小さくキスを落とし、そのまま近くの常夜灯の真下に行くと、雪の中そこに座り込む。ユノハは膝の上で横抱きのまま。
「うん、この姿勢が一番しっくりくる」
「ジ、ジンくん、なんで、こんなとこ……」
「ここだと、ほら、ユノハの顔が一番よく見えるじゃない」
仄かな白さに浮かぶ中、見つめる彼女の頬が薄紅に染まっていくのが判る。
「けど、雪の上だよ。お尻、濡れちゃうよ? 冷たくない?」
「僕は平気。ユノハは僕の上だから濡れないよね。寒くない?」
「さ、寒くは…ないです。むしろあったかい……」
恥ずかしそうに、それでもユノハがジンに支えられた体を更に密着させるように預けてくる。ふわりと甘い香りと優しい温もりを腕に感じる。
「うん。僕もあったかい」
肩を支える手と反対の手で、チョコを持ったユノハの手に触れる。
「それで、さ。お願いって訳でもないんだけど……」
ここまで来ておいて、今更のようにジンは言い淀んだ。灯りの元、少しそらされたジンの目元が赤らんでいるのにユノハも気付く。
「嫌じゃなかったら、だけど。それ、僕に食べさせてよ。さっき僕がしたみたいにして、今度はユノハから」
瞬きする間、その意味を探って、理解したユノハの頬も染まる。
「……それで、できたら、その。一緒に」
「……うん」
小さく頷いて、ユノハが箱を開ける。かさかさと囁くような音を立てて下の紙を取り、取りだした小さなハートの粒には、ピンク色のチョコペンで更にハートが描かれていた。ユノハがそれに唇を寄せる。ちゅ、とひとつ、想いを込めるように口づけて、彼女はそれを自身の口に頬張った。それからジンへと上向くと、待っていたように彼もユノハを迎えるように顔を屈めた。
作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA