ギブス
ギブス
伊作は昔からよく泣く奴だったと思う。
持ち前の不運体質からか、何もないところで転んだり、
小平太の投げたボールが激突したり、あるいは実技の授業のたびに失敗して傷をこさえたりなんかして。
実によく泣く奴だった。泣き顔を見たのだってもう数えられないくらいだろう。
頭に思い浮かべろ、と言われればすぐに出来る。それも鮮明に。
そう、つまり何が言いたいかって、伊作の泣き顔は何度も見てきたということ。
けれど伊作は本当に哀しいときは誰にも涙を見せない奴だった。
たとえば可愛がっていた野良猫が死んだとき。
ぐっと涙をこらえながら口唇を噛みしめて、あいつは丁寧に猫を埋葬した。
それをそばで見ていた俺は、たぶん泣いていたのだと思う。
留さん泣かないで、そう言って伊作は自分も泣きそうな顔をして俺の頭を撫でたから。