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ギブス

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その日の晩、伊作は布団に入らず押し入れで夜を明かした。
かすかに伝わる落涙の気配。
あいつは押し入れの中で、声を殺して泣いていた。
俺はどうすることもできずに、けれど何もしない訳にもいかなくて
押し入れの引き戸にもたれかかることにしたんだった。

「伊作、」

声を発したはいいけれど続く言葉が見つからない。
ああ、でも、それでも。何か言わなくちゃ。
泣くな?元気出せ? 違う、違う、そんなんじゃなくって。
頭の中がぐちゃぐちゃになってしばらく押し黙った後、先に口を開いたのは伊作の方だった。

留さんあのね、

背中から聞こえるかすかな声。
まだ涙の色が残っている、声。

あの猫、最初は全然なついてくれなかったし、僕ひっかかれてばっかりだったんだよ。
もういくつ傷をこさえたかわからないぐらい。
でも最近になってかな、ようやく触らせてもらえるようになって。
可愛かったんだ、機嫌がいいとすり寄ってくるんだよ。
それでね、

沈黙。
りいりいと鈴虫の鳴き声がやけによく響く夜だと思った。
たぶん伊作は、涙がこぼれそうになっているのを必死でこらえているんだろう。
俺は静かに目を閉じた。

あのな伊作。
幸せだったんだと思うぞ。
その猫、伊作に可愛がられて。

うん。

最期だってちゃんと埋葬しただろ。

うん。

だから大丈夫だって。

…ん。

あの世から伊作のこと見守ってくれてるよ。

ん。

だから、今日はもう寝よう?
いつまでも哀しまれてちゃ、あの猫だって安心して冥途に行けないよ。

うん。

伊作の分も布団敷いといたから。

…ありがと。

しばらくして押し入れからでてきた伊作の目元はやっぱり赤くなっていて。
すん、と鼻を鳴らして伊作はもう一度、ありがとう、と言った。
その晩は寝る前に少しの間縁側で星を眺めた。
きっとあの星が伊作の猫だよ、そんな話をしながら。


作品名:ギブス 作家名:西原カナエ