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ギブス

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「留さん、僕最近思ったんだけどさ」

誰かの前で泣けるのってさ、ある意味では勇気がいることなんだな、って。
そうか、と手元の書物から目を離さずに答えれば、だから留さんが同室でよかった。と伊作が言った。
伊作の顔は見えなかったけれど、どういう表情をしているのかは長年の付き合いからなんとなく想像がついた。

本当のところ、あの猫のことがあるまでは同室の伊作のことが少しだけ苦手だった。
いつもにこにこしていて何を考えているのかわからないし、よく転んで泣くし。
なんだか掴みどころのない奴、そういう印象だった。けれどあの猫のことで。
押し入れに入って泣く伊作を、ああこいつけっこう強情なところがあるんだな、
それに涙を隠したいと思うあたり俺と一緒じゃないか。
そう思ったら、なんだか親近感がわいて、今まで少し遠くに感じていた同室者のことを考え改めたんだっけ。

「そういえばいつからか忘れたけど、お前押し入れに入らなくなったもんな」
「ちょっと!いつのことだよそれは!忘れてってば!」
「え〜それは無理だなあ〜」
「んもう!」

こうやって笑い合えるのも、もしかしたら星になって
伊作を見守っているあの猫のおかげかもしれないな、と俺は思った。
作品名:ギブス 作家名:西原カナエ