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学パロ時京・お花見

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別に、自分はそれほど服に拘りがあるわけではない、と時雨は思う。
動きを妨げないことがまず第一。素材が肌に快いことが第二。派手派手しいのよりもどちらかと言えばシンプルで、すっきりしたデザインの方がいい。その程度の好みだ。
だから、どうしてもこの服が嫌だ、というほどのこともない。
着ようと思えば着られる。たかがTシャツだ。色も青で、好きな色だ。そのはずだ。

「壁に頭打ち付けるの止めてもらえませんか、頭領。響くんすよ」
「……」

襖がすっと開いて、隣室から乙若が顔を覗かせる。
顔を上げようともせず、また時雨が額を壁に押し付けた。無言のまま俯く顔は見えないが、明らかに周りの空気が澱んでいる。
壁に向かって座り込んでいる時雨のすぐ横に、乙若がひょいとしゃがみこんだ。
いくつか年上の乙若は、いくらかからかうような目で覗きこんでくる。

「なーにへこんでるんすか。あ、あれでしょ。また京一郎さんと喧嘩したんでしょう」
「してない」

確かに自分は、よく京一郎と喧嘩をする。いや喧嘩というよりも、よく京一郎がへそを曲げる。
時雨がいつもより余分に触りすぎた時。人目も憚らず手を繋ごうとした時。戯れのキスがほんのちょっと度を越した時。
顔を真っ赤にして怒る京一郎も可愛いと思ってしまう病にかかっていればこそ、そんなのは気塞ぎの元にはならない。
今だって、別に揉めてはいない。むしろ関係は良好だ。だからこそ、京一郎はこれをくれた
訳だから。

「あれ、なんですかそれ。服?買ったんすか?」
「…」

乙若が、時雨の手元のものに目を留める。鮮やかな青のそれは、明らかに新品の服であるにもかかわらず不自然にくしゃりと丸められていた。
それをひょいっと拾い上げ、畳もうと乙若が手元に広げる。

「こんなんしてたら皺になっちゃいますよ、っと…Tシャツ?」
「…」
「頭領、これ…」

時雨が無言で、ぐりぐりと額を壁に擦り付ける。漂う空気は、さっきよりも重苦しさを増したようだった。

「…俺、人の趣味をどうこう言うつもりはありませんけど。ふなっしー柄ってちょっとどうなんすか」
「俺が選んだんじゃねーよ!」

がばっ、と時雨が頭を起こし、乙若に向き直った。乙若の体が思わず後ろに逃げを打つ。
その手の中で広げられたままのTシャツの中心には、黄色いキャラの顔が何とも言えない表情で笑っている。
その顔をぎりっと睨んで、乙若の方へさらに詰め寄る。

「俺が選ぶわけないだろ!そんな!黄色の!訳の分からん生き物のTシャツ!」
「え、じゃ、なんでここに」

はああ、と重苦しいため息をついて、時雨がまた項垂れる。
そもそも、嫌な感じはしていたのだ。
テレビに奴が映ると、「あっ!時雨!ほら、ふなっしーだよ!」と喜び。
奴が奇声を発して妙な動作をすると、声を上げて笑い。
コンビニで奴の飴を見つけては、迷わずカゴに入れ。
挙句の果てに、このTシャツである。

「…はあ、たまたまお店で見つけたふなっしーのこれを、京一郎さんが気に入ってしまったと」
「ああ…」

それでもまだ、自分の分だけ買っていたのならいい。許せる。
なのに京一郎は迷わず2枚手に取って買い、1枚を俺に差し出してきた。
「はい、時雨は青ね」とにっこり笑いながら。

「あいつ、俺が断るとか全く思ってない顔で差し出してくるから…さ…」
「断れなかったんですね…」
「ああ…」

光の失われた目で呟く時雨を見て、乙若が慌てたように言葉を継いだ。

「ま、まあ、その、別にもらったからっつって無理して着なくてもいいんじゃないすか?家で着てるぜーって言っておけば本当かどうかなんてわかんないし」
「…明日、花見でな…」
「へ」
「それ着て行こうね、って京一郎がな…」
「…着て行くんすか?これを?二人で?外に?」
「…」

渡されたときに、軽口に紛らわせて適当に断ればよかったのだ、と今にして思う。
だがその時は、京一郎が嬉しそうに笑うのを見ていたくて。
「ふふ、可愛いね」と笑うのを見ているのが幸せで。

「惚れた弱みってやつですねえ…」
「しみじみ言うな」
「えーとまあ、いいじゃないすか、バカップルっぽくて」
「馬鹿とか言うな!大体カップルじゃねえよ!」
「へ?」
「…」

また力なく項垂れた時雨を見て、乙若がぽかんと口を開けた。

「…頭領、京一郎さんと付き合って…」
「付き合ってない」

平板な声はどこまでも暗い。乙若の目が、信じられないという色に丸くなる。

「だって、えっ、キスとかしてませんでしたっけ?ここ来た時に」
「何で知ってるんだよ!」
「なんとなく分かりますって。この屋敷壁厚くないし、襖だし」
「…」
「あんなことしてて、付き合ってない?まじすか?」
「付き合ってない」

急ぐ必要はない、と思っていた。
京一郎が自分に好意を抱いていることは分かっていたから、それが違う感情に育ち、自分で自覚するようになるまでゆっくり待っていればいい。
たまに我慢ならず、多少手を触れてしまうことはあったにしても。
おかしな輩が近づかないように目を光らせ、傍にいるのがいつも俺であるならそれでいい。
だから、今はまだはっきりとした形で付き合ってなくてもいい。そう思っていた、のだけれど。

「人に念押しされると、けっこう効くな…」
「あー、だったら、えーと、その、告白してみるとか!」
「何度もしてる」
「へ」
「付き合ってない」

お前が好きだ。お前とずっと一緒に居れたらいい。多少意識してくれるようになるかと、そう口に出してみたことは何度あったか。
うん、ありがとう時雨、僕も好きだよ。大人になっても職場とか近いといいなあ。
密かな期待を込めた言葉は、毎回さらりと友情と無自覚の壁に阻まれた。

「天然って、怖いっすね…」
「ああ…なあ、乙若」
「はい?」
「お前薬科の大学だろ。あれだ、目くらましで京一郎にだけ俺がそのTシャツ着てるように見せたりする薬ないか」
「あるわけないでしょう」
「だよなあ…」
「目くらましだったら、術かけちゃえばいいじゃないですか」
「あいつ鈍感なくせに、そういうのには敏感なんだよ…術なんてかけたらすぐばれて、時雨何してんのさってことになっちまう」
「ああ…」

再びの溜め息。
乙若はそっと目を逸らし、手元の青いTシャツを手際よく畳んだ。

「頭領」
「何だ。何か策があるか」

一縷の望みを抱いて時雨が顔を上げ、膝をじりと近づける。
その顔を真っ直ぐに見つめ、乙若が真摯な顔で頷いた。

「頑張ってくださいね」
「それだけかよ!!」

作品名:学パロ時京・お花見 作家名:aya