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shooting star

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夕食を終えて、獄寺はベッドに横になりながらテレビを観ていた。どのチャンネルも下らないバラエティばかりで、リモコンを弄る気にもならない。
軽い眠気が襲ってきているが、寝るには早すぎる時間だった。宿題なんてものもあった気がするが、やる気にならない。
テレビから聞こえる耳障りな笑い声に眉を顰めて、笑う代わりに大欠伸をする。これならニュースでも観ていた方がましだと、獄寺はリモコンを手に取った。
チャンネルを変えるとローカルニュースが流れていた。地元の公園で珍しい花が咲いただの元気な老人の紹介だど、くだらなさはバラエティとさして変わらない。けれで、あの馬鹿みたいな笑い声を聞かされるよりずっといい。
アナウンサーの声はほとんど耳に入ってこなかった。映像だけをぼんやりと眺める。
呑気なニュースばかりで余計に眠くなってくる。眠気に耐え切れなくなり、獄寺はテレビを消して目を閉じた。すぐにうとうとし始める。
意識の向こうで、インターホンの呼び出し音が聞こえた。起き上がるのが面倒で無視したが、呼び出し音が収まる気配はない。
「ったく、何だよ。うるせぇ……」
やかましさに眠りを妨げられ渋々起き上がる。怒鳴りつけてやると思いながら、インターホンの受話器を取る。
『獄寺、オレ、オレ』
聞こえたのは、呼び出し音並にやかましい山本の声だった。獄寺は無言のまま受話器を置く。
またすぐに呼び出し音と、今度はドアをノックする音まで鳴り響く。獄寺はドアを睨みつけて怒鳴った。
「うるせぇっての!」
怒鳴ったところで怯まないのが山本である。なおも続く騒がしい音にたまりかねて、獄寺は玄関のドアを勢いよく開けた。
「うるせぇっつってんだろ! いい加減に―――」
「獄寺、空! 空!」
山本はずいぶん興奮しているようだった。空を指さしながら、『空、空』と訳の分からないことを繰り返している。部活帰りなのか、まだ制服のままだ。
「あ? 空がどうしたんだよ」
「流れ星! 今歩いてたらさ、すっげーいっぱい流れてたんだよ!」
「流れ星?」
階段の向こうに見える空に目を向ける。雲のない晴れ渡った夜空だったが、流れ星なんてものは見えない。
「別に見えねえじゃねえか」
更に夜空に目を凝らしたその時、細い光の筋が、夜空に描かれたのが見えた。
獄寺が目を瞬かせていると、山本が「見えた?」と訊ねてきた。獄寺は頷いて答える。
「確かに流れ星だな。じゃあな」
そう言ってドアを閉めようとすると、山本が全力でそれを阻止しようとドアを掴んだ。しばらく引っ張り合いを続ける。
獄寺が先に力尽きて手を離す。閉められぬように身体を半分玄関先に入れて、山本はにこにこしながら言った。
「流れ星だな、じゃなくてさ、どっか眺めのいいトコに見に行こうぜ」
「はぁ?」
獄寺が思いっきり顔を顰める。何故そんなものを山本と見に行かなければならないのか。
「はぁ? じゃなくて。滅多に見れないから、獄寺と見たいと思ったんだけど」
「一人で見にいけばいいじゃねえか」
「嫌だ」
山本がぶんぶんと首を横に振る。何度か同じやりとりを繰り返して、獄寺が降参したように嘆息した。
「あーもー分かったっての。見に行きゃいいんだろ?」
こうなってしまうと、こちらが折れるまでしつこいのだ。獄寺が苛立たしげに言うと、山本は「ホントに?」と言ってぱっと表情を明るくした。
「どこ見に行く? この辺だったら並盛中央公園がいいと思うんだけどさ」
山本に問われて、獄寺はしばらく考える。眠い身体で歩くのは正直面倒臭いし、部屋着から着替えるのも億劫だ。この辺でさっさと済ませたい。
ふとある場所が頭を過ぎる。そこなら遠くもないし、眺めもいい。
「んな遠くまで行かなくても、ちょうどいいトコあるじゃねえか」
「え? ドコだよ」
獄寺が天井を指す。山本は指された方を見上げて、「ドコ?」と首を傾げた。
作品名:shooting star 作家名:伊藤 園