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遊戯王LS novelist ver.

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turn-01. La soldatessa Nero



 今より背の低かったちょっと昔。握り締めていた手がことりと離れ、いよいよ一人になった時、
ついでにとアタシは何もかもを捨てた。
 今の名前はネロ。とはいえよく分からない絵画の前で犬と心中するような柄ではない。
どちらかといえば、野良犬そのものだ。見捨てられた薄汚い町の薄汚い黒。
 でもここにいるやつらは大体そんな感じで、だから前の名前よりは、この方がより皆の中に紛れる気がする。
 降り始めた小雨の下アタシはいつものように薄汚れのシャツで自分やら他人やらの血を拭った。
 今現代、世界の決め事は、広かれ狭かれデュエルがその勝敗を決めるけれど、
それだけで済まない事も多い。特に、こんな町では。
 男女関係なく平等に顔面殴打される世界がユートピアかディストピアかはさておき、
自分の人生の終着点はここであろうと、アタシはすっかり思っていた。この日まで。

「ネロ、お客さんだよ」
「客? アタシに?」

 顔見知りの少年が、誰かを伴って入ってきた。
手にはここら辺じゃ見ることもない正規品の上等な菓子を持っている。
 駄賃代わりにもらったのか、取られる前に隠すか腹に収めとけよと声をかけようとしたところで、
吹いてくる雨粒よりずっと冷たい声がこちらを刺した。

「随分探しましたよ、ビアンカお嬢様」
「その名前は大分前に捨てた。誰だアンタ」

 上等な服、この町に相応しくない色。漂白されたように真っ白の手袋がこちらに伸ばされる。
モノクル越しの凍る視線。
「お迎えに上がりました。今日より貴女は偉大なるマウリツォ家の養子となるのです」


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遊戯王LS 〜La soldatessa〜
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 拾われた野良犬が、収められるのはやはり鎖付の犬小屋だった。……この表現では誤解を招くか。
そうだな、多少古びているとはいえ、貴族様のお屋敷を犬小屋と言ったのは訂正する。
 上等なケージだ。自室の中、窓に嵌められた頑丈な鉄の格子越しにどんよりと湿った空を眺めながら、
アタシは心の中で呟いた。

 アタシが外に行くと知った時、スラムの奴らの反応は様々だった。羨望、落胆、軽蔑、
……素直に喜んでくれたガキどももいたっけ。
 デュエルも殴りあいも会えば毎回のようにやっていた友人は、結局別れの時も顔を出さなかった。

 町を出るつもりはなかった。条件として提示されたアタシが町を出る際に支払われる大金も、
あそこで暮らすガキどもの口に入る頃にはチョコのひとかけにもならないだろうし、
アタシ自身今更お貴族様の娘なんてガラじゃない。
 それでも行く事を決めたのは、従者が言った一言からだった。
「お父様の行方を知りたくはないですかな」

 父さんはデュエルの、カード開発に関係する仕事をしていた。
夢を叶えるため家を飛び出し、その途中で母さんと出会ってアタシが生まれた。
 それから、アタシがまだうんと小さい頃、ふっと出てったきり戻らなかった。
デュエルに関わる何かに巻き込まれたのだと、誰かが言っていた。
母さんに聞いてもただ黙って微笑むばかりで、でもその笑顔はどこか悲しげだったのを覚えている。
その母さんも、アタシが十になる前に病気で死んだ。

 生きていくためにデュエルを行いながらも、アタシはいつも思っていた。
こんなものがなければ、アタシ達は今も幸せに暮らせていたんじゃないだろうか。
もちろんそれは大きな矛盾だ。
デュエルがなければ父さんと母さんは出会わなかった。アタシも生まれなかった。
 家族の思い出は、もううっすらとしか思い出せない。
ぼんやりとした幸せな記憶。そこにはカードがあった。

 今更父さんに会ってどうしようというのか、アタシ自身もわからない。
ただ、とっくに死んでいたものと思っていた父さんが生きていると分かった以上、
じっとしているのはどうしても嫌だった。
その手段があるのならば。
「……」
 ホルダーから一枚のカードを取り出し、返事はないと知りつつも、アタシは問いかける。
「アタシは、間違ってないよな? ここに来たこと」
 カードは応えない。戦士はただ黙って、悠然と前を見つめている。
 ギルフォード・ザ・ライトニング。戦士デッキのアタシのエースカードだ。
小さい頃、父さんが持っていたデュエルの映像で見たその姿が格好よくて何度も何度もリピートして見た。
五歳の誕生日にプレゼントしてもらって以来、こいつだけは、ずっと手放さずにそばにいる。
 映像の召還シーンを真似る小さいアタシと、笑っている父さん、母さん。
今となっては、それは、あまりに遠い。


 廊下に出ると、アタシは目的もなく適当に歩き出した。広い空間に寂しげに靴音が反響する。
 屋敷に来て三日が経とうとしていた。ぼろの衣服を剥がされ、鼻につく香水みたいな石鹸で体を洗わされ、
ワンピースのドレスを着た自分の姿を鏡で見るたびうんざりした気分になる。
 ある程度屋敷内を歩くことは許されていたが、ほとんどの部屋は厳重に鍵がかけられており、
また、洗面所も風呂場もあてがわれた部屋にあるため、
実質アタシの行動範囲はバカ広く続く廊下と、自室のみに限定されていた。
外に出ることはできない。夜には、部屋にも外から鍵がかけられた。
 すれ違う使用人たちはみな一様に陰気で、まるで別次元の生き物のようにこちらとの接触を避けていたが、
その中で、アタシの世話係として指名されたという双子、ヘレンとストラは少し毛色が違っていた。
「ああらお嬢様、襟がまがってらしてよ」
 噂をすれば。正面から、双子が仲良く並んで姿を現す。
 やや高飛車な印象のヘレンが、左右二つにまとめたウェーブの長い黒髪を揺らしながら近づいてきた。
「苦しいから緩めてたんだ。いいよ、このままで」
「何をおっしゃってますのお嬢様! そんなはしたないこと許しませんですわよ!」
「う……」
 いつの間にか背後にまわってていたストラに、無理やりに襟を一番上まで上げられる。
こちらは銀色でストレートの長い髪を後ろに流し、レースのヘッドドレスをつけている少女だ。
鈴のようなかわいらしい声をしている。
 二人とも、年は12、3位。おそろいの真っ白なドレスを来て微笑むその姿は、
召使と言うよりはどこかの令嬢の姉妹といった雰囲気だ。アタシより二人のほうがよっぽど「お嬢様」だ。
 他の奴らよりは会話は成り立つが、なんとなくアタシはこの双子を好きにはなれなかった。
目のせいだ、と思う。こちらと話す時にうっすらと浮かべる笑み。
スラムのアタシ達を遠くから覗く、都市の大人達に似ていたからだ。
こちらを虫けらみたいに見下す目。
 赤と青、ガラス球のように透き通るそれは、こうして眺める分にはとても綺麗であったけれど。
「そういえば、連絡は?」
作品名:遊戯王LS novelist ver. 作家名:麻野あすか