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遊戯王LS novelist ver.

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 マウリツォ家当主、アタシをここに呼び寄せ、閉じ込めた張本人は、未だ姿を見せていなかった。
双子はアタシとそいつとの連絡係も兼ねていて、アタシはこの数日間何度も繰り返した言葉を再び投げる。が、
「もう、せっかちですわね、お嬢様ったら」
「お館様はご多忙な方。今は本家で重要な決め事を執り行っていらっしゃるの。
焦らずにもう少しお待ちになってね。お嬢様」
 途端双子の哄笑に返された。ああすみませんね我慢が効かなくてと心の中でぼやく。
「いっそアタシが本家とやらに行ったほうが早いんじゃないか?」
 提案するが、ストラに一笑の下に切り捨てられる。
「あら、殿方のところへ自分から会いに行くなんてはしたないですわよ」
「なんだよそれ……」
 頭を掻き、アタシは廊下を歩き出す。からかわれるのはあまり好きじゃない。
「そんなにお館様とお会いしたい? お嬢様」
 へレンが鈴の音のような声で聞いてきた。振り向かないままアタシは別に、と手を振る。
「マウリツォさんとやらには興味はねえよ。ただ、アタシは、父さんの行方が知りたくてここに来たんだ。
……連絡あったら教えてくれ。じゃあな。ヘレン。ストラ」
「かしこまりましたわ、お嬢様」
「ごきげんよう、お嬢様」
「……」
 クスクス笑いが聞こえなくなるまで、アタシは廊下をひたすらに歩く。
角を曲がる前に一瞬振り返ると、二人の姿はもう消えていた。


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 屋敷の一番奥、幾重の扉を越えた先に、双子の遊び場はあった。
 レースやリボン、いかにも少女趣味なかわいらしい部屋の装飾はしかしなぜか、
様に錆びた鉄の匂いを纏っており、滲むような赤のアクセントが散っている。
 絡むような複雑なレースの装飾のついたクッションにもたれて、ヘレンが憎憎しげに口を開いた。
「気安く名前を呼ばないで欲しいわ、あの下賎の娘」
「仕方ありませんわ、急にお上品にはなれませんものね」
 ストラが小柄な少女人形を弄びながらそう返す。
 部屋の中には無数の人形が飾られていた。コレクションというには統一性がなく、また何の悪戯か、
刃物で裂かれ中身が飛び出したものや、眼球にフォークが突き刺さったもの、手足のもげたものなど、
皆どこかが蹂躙されていた。
 ストラが、弄っていた少女の人形の首を掴む。ただの人形であるはずのそれが、かすかに恐怖をにじませる。
 気づいたストラは愉快げに目を細め、ジュースの栓でも抜くようにその首を無理やり引き抜いた。
 二人しかいないはずの空間に、無数の嘆きの悲鳴が小さく小さく響く。
差して気にも留めずにストラはヘレンに問いかける。
「ねえ、お姉さま、まだお館様からの連絡はこなくて?」
「まだよ。ああ、歯がゆいわ。お館様のお許しさえ出れば、すぐにでも」
「ええ、すぐにでも」
 双子の細い指が、近くの人形を掴み、両手で握る。鬱屈した感情を込めるように、ぎりぎり、ぎりぎりと。
 やがて臨界を越えた人形の身が引き裂かれ、中の綿を撒き散らし部屋を汚す。
 くすくすと忍び笑いはやがてけらけらと悪魔的なそれにかわり、しばらく鳴り止むことはなかった。


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 最初は気づきもしなかった。だってそれは本当に小さかったのだ。

 双子と別れてから、しばらくぶらぶらと廊下を歩いていたアタシは、急に聞こえてきた物音に足を止めた。
 空気の振動? 不規則に擦れる音。 しばらく考えて泣き声だと思い当たり、アタシは部屋の取っ手を掴む。
 がちゃりと大仰な音を立ててノブが廻り、鍵がかかっていないことを知らせた。
「誰かいるのか?」
 言いながら、ギイときしむドアを開き、アタシは声のした部屋へと入る。
手探りで照明のスイッチを点けたが、弱弱しいランプの光がひとつぼうっと浮かび上がっただけだった。
「誰か、いるのか?」
 もう一度声をかけ、耳を澄ます。やはり聞こえるすすり泣くような声。
いまいち把握ができないのは薄暗い室内のせいだろうか。目を凝らして確認するが、人の姿は見えない。
(どっかに隠れてんのか?)
「おい、一体……」
(「誰!?」)
「!」
 響いたのは、頭の中だった。びりっと、空気の振動。
 ちかちかとランプが瞬き、ぶつりと消える。

「おい……イタズラすんじゃねーよ!」
 壁に手を付き、少し声を荒げる。息を飲む気配。

(「俺のこと、わかるの?」)
 子供の声だった。少し気の弱そうな小さな声。頭の中に直接響く感覚に戸惑いながらも、アタシは続けた。
「ガキがこんなとこで何してんだ。迷子かよ」
 使用人の誰かの子供だろうか。声を放つ方向がわからず、とりあえず奥に向かってそう問いかける。
(「わからない……」)
「はあ?」
(「! ごっ……ごめんなさい! 俺もわかんないんだ、気づいたらこうなってて、
誰も俺の声聞こえてなくて……」)
 アタシの返事にガキが少々おびえつつそう続ける。……「こうなって」って、何だ?
「あー、とりあえず出てこいよ。別にとって食やしねえからさ」
 頭を掻きつつそう言うと、ああ、だとかうう、だとかひとしきりうめいた後、ガキが困ったように呟いた。
(「できない……ないんだ。でも、ここにいるんだ」)
「あぁ?」
(「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」)
 把握ができないで訝しげに応えるアタシに、ガキが涙声で謝ってくる。
別に脅してるわけじゃないんだがと、再び頭を掻く。
 アタシは壁に背を預け、一呼吸おいてからできるだけ落ち着いた声で言葉を返した。
「おい、ガキ、別に怒ってねーからちゃんと説明しろよ。ここで何やってんだ? なんで出てこれねーんだよ」
(「俺、は……」)
 ちかちかと、再びランプが点る。ばちんと何かが作動した音がして、最初より数倍明るく部屋が照らし出され、
四隅が浮かび上がる。そこまで広くもないがらんとした物置。
置いてあるのはいくつかの小さな調度品だけで、子供が隠れられる場所などどこにもない。
「……」
 幽霊? という単語が頭に浮かぶ。声が耳の奥に直接響いた。
(「わかんないんだ。気づいたら、身体がなくなってて。誰にも俺の声聞こえなくて。名前も、俺が誰なのかも、
何も思い出せない。ねえ、君は誰? どうして君は俺の声が聞こえるの?」)
「知らねーよ。」
 他に言いようがない。にしても、不気味な屋敷だとは思っていたが幽霊までいるとは思わなかった。
(どうなってんだこの屋敷は……)
 死んだような目の使用人たち、声だけの子供の幽霊。隔離された空間。改めてこの場所の異様さを感じる。
 何か言葉を続けようと口を開いたその時、廊下にかつかつと無機質な靴音が響き、
アタシはとっさに明かりを消した。
部屋の扉を音を立てぬようにゆっくりと閉め、扉越しをうかがうように膝をかがめて様子を窺う。
(「あの……」)
「静かに」
作品名:遊戯王LS novelist ver. 作家名:麻野あすか