遊戯王LS novelist ver.
尚も声を発し続けるそれを、まるでどうでもいいごみでも捨てるかのようにヘレンは壁に打ち付けた。
きれいに張られた鏡が割れ、ぐしゃりとストラと共に砕ける。
熟れ過ぎた西瓜のように破裂した頭部が、赤黒い部品を撒き散らし、足元に転がった。
ひび割れた青のガラス球がころりと転がる。黙したそれはもはやジャンクでしかない。
「な……っ」
「さ、私のターンよね。始めましょうか」
何事もなかったかのようにディスクを構え、ヘレンがそう言い放つ。色々な混乱の真っ只中で、アタシは叫ぶ。
「お前、ロボット同士とはいえ妹だろう!? なんで? なんでなんだ!?」
「あなたが壊したからよ。あんなぐちゃぐちゃになっちゃったストラ、私もう要らないもの」
赤い目が細まる。冷淡に。ぞっと背筋を何かが通り抜け、思わず数歩後ずさった。
「あら、怯えているの? お嬢様」
ヘレンが愉快そうにそう問う。アタシはその冷たい赤い瞳を睨み返す。
「誰が……っ」
「でももう遅いわ。泣いても喚いても許してなんかあげない! キルクスルールで魂を抜いたら、
その柔らかい身体でずっとずっと遊んであげてよ! 私のターン、ドロー!」
TURN-01 part-B end
予告
ネロ
「ディスクを壊され、ヘレンの魔法カードによってエースカードを奪われたアタシは、
キルクスアギトと呼ばれる闇のデュエルルールにより心の闇に捕らわれてしまう。
そこで出会う、一人の少年。デュエル続行不可能のアタシの代わりに、ヘレンと少年のデュエルが始まる。
闇の中でこそ、光は存在する。閃光よ、漆黒の闇を照らし出せ!」
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「宜しかったのですか? 娘達に、あの少女を好きにさせて」
燕尾の男がモノクルを指で直し、無感情に問う。
屋敷内の薄暗い広間。大きなディスプレイに映る男は、その言葉に口の端をあげた。
「構わないよ。カードの存在すらも知らぬというなら、彼女の役目はもはや「鍵」のみ」
「……恐れながら、娘達が遊びすぎる危険がありますが」
モノクルの男はあくまでも冷静に、会話を進める。画面の男がそれを聞き噴出す。
「別に廃人にしても構わないよ! ミンチにされては困るがね。生体器官が機能していれば、
パーツの一つや二つは後で彼女達にご褒美にあげてもいいかもしれないな」
ひどく陽気に、まったく明るくない所業を口にし、男はくっくっく、と笑った。モノクルの男が優雅に頭を下げる。
「感謝致しします。娘達が喜ぶことでしょう。……前回のデュエルは、いささか物足りなかったようですからな」
「ああ、私が用意してあげた玩具か。魂を捕らえ損ねたんだって? グラゼラ」
グラゼラと呼ばれたモノクルの従者が深くため息をつく。
「ええ。ストラが、人形に魂が定着する前に「遊んで」しまって、傀儡の折れた首から、逃げてしまったようで」
「やれやれまったく、お転婆な娘達だ。そういえば元の入れ物は捨ててしまったのかい?」
ディスプレイの男は、さして興味もなさそうに続けた。
会話に飽きたように視線を机へとずらし、、いつの間にか手にした万年筆でメモ帳にくるくると適当に手を動かす。
「ダークスコーピオ執行の折り、キルクスアギトに取り込まれてしまったようです」
「ふーん。ま、適当に見繕っただけだからいいけどね」
一切表情を変えずにグラゼラが報告を続け、ディスプレイの男は授業に飽きた学生のように
ほうづえを付いてそれを聞いていたが、最後の一言にわずかに様子を変化させた。
「また、魂のみが、少女と接触した可能性があるとの報告が出ています」
「……へえ」
意味もなく曲線を描いていた万年筆が、すうっと一瞬紙から離れ、今度はものすごい勢いで文字を羅列させていく。
「ねえ、面白い遊びを思いついたんだ。もしも娘達が負けたら……早めに私に連絡をくれるかい、グラゼラ」
「畏まりました。仰せのままに。マスター。では、後ほどまた」
グラゼラの挨拶も終わらぬうちに、ぶつりと通信が途絶え、広間は闇に包まれる。
こつこつと靴音はゆっくりと遠ざかっていった。
TURN-01 part-C end
提供
「遊戯王LS 〜La soldatessa〜 は、
Lap-TopRupt(omi)企画・製作
遊戯帝国様の協力で、お送りしました。」
提供バック
双子的な白ゴス衣装ネロ
「あのこれ首苦しいんだけど……」
Date: 2010/03/05
作品名:遊戯王LS novelist ver. 作家名:麻野あすか