遊戯王LS novelist ver.
そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。
「さあ、魔轟神レイジオンの攻撃がまだ残っていてよ、お嬢様! E・HERO スパークマンを攻撃!」
魔轟神レイジオン漆黒の翼が、刃のようにE・HERO スパークマンに襲い掛かる。切り裂かれ、
戦士は虚空へと掻き消えた。
続いてぴりっと四肢に電流。やがて襲い掛かるであろう痛みを耐えるように、アタシは両の拳を握る。
魔轟神レイジオン 攻2300
E・HERO スパークマン 攻1600
ネロ LPダメージ 2000−(2300-1600)=1300 残りライフ1300
「ターン終了。気は済みまして? お嬢様」
「くっ……ぅ、あ、あぁああああああああっ」
先程の半分以下とはいえ、激痛が全身を襲う。膝をつき、耐えていると、声が響いた。
(ネロ、しっかりして! ネロ! ネロ!!)
「お前も」
(?)
「お前も、こんなデュエルをしたのか?」
降るのは、子供の声だ。子供が、こんな勝負をして、命を落とした?
(……俺の魂はここに捕らわれてる。少しづつ思い出してきた。ごめん。もっと早く君に教えられていたら……)
泣き声が近い。ここにいるのだ、と感じる。記憶も名前も奪われ、閉じ込められた子供。
「構わない。自分で挑んだ勝負だ。……それに、アタシは負ける気はないぜ?」
膝に手をつき、立ち上がる。
(ネロ……)
「大丈夫だ。アタシは勝つ。お前の魂も救い出してやる。だから」
「大丈夫だ。泣くな」
息をのむ気配がする。遠のきそうな距離のままそこに留まる。
「名前くらいとっとと返してもらわなきゃな。呼ぶ時に不便で仕方ねーよ」
痛みを紛らわすように、軽口をたたき、カードを引いた。
「アタシのターンだ。ドロー。……大丈夫だ、まだやれる」
引いたカードは魔法カード。だがその前に、手札にあったもう一枚の魔法カードを発動させる!
「O−オーバーソウルを発動! 墓地からE・HERO クレイマンを特殊召還!」
□O−オーバーソウル
通常魔法
自分の墓地から「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
「本当に往生際の悪いこと! それでこのターンを乗り切っても、
こちらには攻撃力2300以上が四体もいますのよ?どうなさるおつもりかしら!」
場にいるのは、ダンディライオンの特殊効果で呼び出された綿毛トークン二体とクレイマン。
アタシは手札のそれを一瞬確認し、わずかに口の端を挙げた。ああ、大丈夫だ。お前がいる限り。
「アタシは、場のモンスター三体をリリースして、ギルフォード・ザ・ライトニングをアドバンス召還!」
アタシの宣言に、ストラがさも小馬鹿にしたように笑う。
「お馬鹿さん!!!攻撃力2800じゃあダークゾーンの加護を受けたシルバとゴルドは抜けなくてよ!
そして私の手札にはカード破壊効果を持つ魔轟神ガルバスがいる!
恐怖と痛みで気でもおかしくなったのかしら!!」
けらけらと高らかな笑い声は、アタシの表情を見ていない。
「聞いてなかったのかよ、三体だ」
「え?」
ストラが訝しげに場を見つめ、一瞬の沈黙の後、驚愕に目を見開いた。
「まさか、前のターンからこれを狙って……」
「勝てるって、思ってたんだろ。だから前のターンでガルバスを使える機会を見送った。
わざと時間を掛けて嬲り殺すために」
今度はこっちが笑ってやる。フィールド上のモンスターが宙に消え、ディスクが作動する。
一瞬の稲光の後、赤いマントをなびかせ、大剣を携えた騎士がアタシの背後に現れた。
○ギルフォード・ザ・ライトニング
効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻2800/守1400
このカードは生け贄3体を捧げて召喚する事ができる。
この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
「モンスターを全て……破壊ですって!?」
「騎士の閃光よ、全てを砕け! ライトニングサンダー!」
闇に雷鳴が響く。裁きのように降るこの光を、そういえば昔から不思議と怖いとは思わなかった。
モンスターが砕け散ったかけらを浴びながら、激しい一撃が嘘のように戦士は寡黙にたたずむ。
昔から変わらぬその姿に、届かないとは知りつつもアタシは笑みを向けた。
「ありがとう。やっぱり、お前が守ってくれた」
戦士は応えない。ただ真っ直ぐに正面を見つめている。
「こんな……あああ、お姉さまのブロンが、私の暗黒界の戦士たちがああああああ」
アタシはわなわなと体を振るわせるストラに向き直った。
「このターン、まだアタシの攻撃は残ってる」
はっとしたように、乱れた髪をそのままにストラがこちらを凝視する。
ためらわない。アタシは、絶対に。一人で生きると決めたあの日から。
「フィールド魔法発動! シャインスパーク!」
光が室内全体をまばゆく照らし、塗りこめられていた闇を一掃する。
薄暗かったフロアはまるで真昼のような明るさになり、鏡を反射させた。
△シャインスパーク
フィールド魔法
全ての光属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、
守備力は400ポイントダウンする。
「シャインスパークの効果でギルフォード・ザ・ライトニングの攻撃力は3200になる!
プレイヤーにダイレクトアタック!」
ギルフォード・ザ・ライトニング 攻撃力2800+500=3300
ストラ(・ヘレン) LPダメージ 4000-3300=700 残りライフ700
「く……この、小娘があああああああアアアアアアアア!!!」
着飾った服が、髪が、ばさばさと剥がれ、晒される。ダメージはあちらも同じように受けるようだ。
ぴしりと何かがひび割れたような音がして、アタシは目の前の惨状を凝視した。
「え……」
ダイレクトアタックによって裂けた肌の中から、鈍い銀色の光沢がのぞいている。
ぎしり、とその関節が軋み、ぶちぶちと嫌な音がして、引きつった皮膚の敗れた隙間から
原色のコードがあふれ出す。
「ストラ……お前」
「あ、あ、あー……おね、えさま。オネエサマ…ァ…」
ぎぎいと金属音。瞬きを忘れた瞳が、にごった青で虚空を呼ぶ。
不自然に曲がった首がガショリと重力に揺れ、音を鳴らした。
「オ……ネ、エサ」
そのままストラだったものは動かなくなる。変なエラー音がキーキーと鳴り止まない。
「ひどいわ。お嬢様」
へレンがかつかつとストラのの残骸に歩み寄った。
異様な光景に、アタシは動けないまま成り行きを見守るしかない。
「お前たち、ロボットだったのか……」
「かわいそうなストラ。こんなひどい姿になって」
やさしく両手でその顔を包む。
「……あ」
いたたまれなくなり、声を掛けようとした。その時。
ぎちり、と、明らかに何かが無理やりねじれるような音がした。
「ああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
高音のけたたましい不快音がストラから発せられる。胴体から離れた、首から。
「煩くてよ、ポンコツ」
作品名:遊戯王LS novelist ver. 作家名:麻野あすか