♯ pre
リンの眼のまえには棺がある。棺には草花模様が刺繍された豪華な絹布がかけられている。
ここは墓廟だ。
故人の生前の権力をあらわすような精緻で華やかな装飾のほどこされた建物である。
建物の中に、今は、リン以外だれもいない。
リンの手には花束があった。朝摘みされた薔薇の花だ。
「お望み通り、王になったぞ」
今は薔薇の季節である。薫り高いと評判の、この国の薔薇の花。
「クソジジイ」
故人を、先々代の王を、祖父を冒涜する言葉を吐き、リンは花束を棺のほうへ投げ捨てた。
薔薇の花が棺の上に散っていく。
リンは厳しい表情のまま踵を返し、王としての威厳を漂わせつつ歩き、墓廟から去った。