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リンとふたりでこの地図を眺めていたときのこと。
あのときのリンは地図上の国々を旅することを夢見ていて、胸を躍らせていた。眼を輝かせ、全身からわくわくした雰囲気を発していた。
その隣にいて、自分の心はほんの少し浮き立った。
一緒に見たことのない景色を見に行きたくなった。
でも、もう、あんなふうに、ふたりで地図を眺めることはないだろう。
いろんな思い出がよみがえってくる。
夏が始まろうとしているころ、ハルカが海の中にいたとき、リンが勝負をしかけるように泳いできた。
その翌日、リンがハルカを少年だと誤解していたことが発覚した。
祭の夜、マコトやナギサとはぐれ、リンとふたりになった。噴水のそばで、めずらしくリンから宮殿の話を聞いた。そして、銀細工の容器をもらった。銀細工の容器には薔薇の精油の入ったガラスの小瓶が収められていた。もらった時点では、白い簡素な紙袋の中にそんな高価な物が入っているとは思いもしなかった。あのあと、リンが手をつかんできて、自分はリンの妹ではないと反撥して、その手を振りほどこうとしたけれど、リンがますます手を強く握ってきて、振りほどけなくて、手をつないだまま道を歩いた。
冬になり、夜、リンは壁をのぼって二階にあるハルカの部屋にやってきた。商人となり、商いの旅に出て、船に乗って海を渡り、いろんな国に行くという夢を語った。それから、いつか俺と一緒に見たことのない景色を見に行ってほしい、と言った。リンにとってそれがプロポーズのつもりだったらしい。自分には伝わらなかったけれど。だから、リンは俺の花嫁さんになってほしいと言い直した。ハルカがその結婚の申し込みを受けると、リンは約束と言って、キスしてきた。
「……おまえは勝手だ」
思い出が次々によみがえり、大波のように自分の中に押し寄せてきて、心を揺さぶる。
冷静でいたいのに、湧きあがる激しい感情に圧倒される。
本当に勝手だと思う。
いきなりやってきて、引っかき回して。
そして、去って行く。
さっき帰って行くとき、リンは別れの挨拶をしなかった。
またな、とは言わなかった。
もう来ないのだ。
リンはこの街からいなくなる。
麗しの都の壮麗な宮殿へ帰っていくのだ。やがて王となるために。
遠い存在になる。
ハルカは口を引き結ぶ。
そうやって、こみあげてくるものをこらえた。




王は退位して第二王子に玉座を引き継ぎ、それで安心したかのように、その数日後に逝去した。
だが、玉座を受け継いだリンの父親は、王となって二年後に逝去した。
それにより、王太子だったリンが王となった。









作品名:♯ pre 作家名:hujio